第6話

 俺の顔を見た、女。


「俺の顔を。見ても。何も思わないのか?」


「え?」


 この女。


「おい」


 顔を近づける。


「なに。近い近い」


「俺の顔を見ても、何も感じないのか」


 安堵と同時に。


「あっ。おっ、と」


 だるさが限界を超えた。女にもたれかかる。


「だるい」


「まぁ、でかでかと貼り紙してあったリスクですから」


 女の匂い。今まで接してきたどの女のものでもない。知らない、匂い。


「俺は顔がいいんだ」


「顔?」


「そう、顔」


 女の、これは胸か。つめたい。ひんやりしている。服。


「この顔のせいで、今まで。全人類みんな、気持ちわるいやつらにしかならなかった」


「贅沢な悩みだなぁ」


「おまえは。何も感じないのか。発情しないのか」


「発情」


 ちょっと、笑う声。


「今まで男に触れたことがない。興味もなかった」


 だから、なのか。いや、逆じゃないのか。


「すれちがったとき。首と指を見て、ちょっとだけ。どきどきした。人生ではじめて」


 首と。指。


「なんで顔じゃないんだよ」


「いやわたしにもわからない」


 はぁ。


 息をつく。

 女の胸がつめたいんじゃなくて、自分が熱いんだと、気付いた。

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