第4話

 ビルの屋上。

 どれぐらい歌っただろうか。西陽がさしてきている。気分がいい。ふわふわしている。ただ、熱の感覚もあった。


人の気配。

 振り返りたく、なかった。

 一気に、現実に、振り戻されてしまった。

 この顔のせいで。まともに生きられない。


 人の気配。足音が止まった。屋上。風の匂い。

 このまま。ビルから飛び降りてしまおうか。そうしたら。楽になれる。人の心を震わせるとか。そんなものにとらわれず。それに。この顔が、ぐちゃぐちゃになるなら。


「振り返らなくていいよ。そのままで。拍手しに来ただけだから」


 女の声。煙草焼けしているのか、発声にノイズが絡まっている。


「じゃあ、幕から降りようかな」


 なんとなく、飛び降りる気配を探る。だめだ。発熱のふわふわで、なんか、よく分からない。打ってから、何時間ここで歌っただろうか。もうそろそろ、夜。


 ふわっとした。匂い。今までで。知らない。


「それは困るな」


 女の声。綺麗な高音。落ち着いている。でも、ノイズがある。


 指を、掴まれていた。飛び降りられないように、だろうか。


「あっ」


 そしてすぐ、離れる。


「生まれてはじめて男の身体に触れたわ」


 ばかじゃねぇの。

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