第3話

 煙草みたいな見た目の、煙草じゃないやつ。吸って吐くと、煙が出る。


 人のいない、ビル。


 前の戦闘で、肺の一部が敵に侵された。この煙草みたいなよく分からんものを吸っていると、肺のなかに入り込んだ敵が死ぬらしい。原理とかは、分からなかった。そもそも、敵が何なのか、どこからくるのかも、よく知らない。指示されるまま突っ込んで、戦って、死にかける。それだけの任務。


 この煙草みたいなやつも。普通の人間が吸えば、普通に死ぬらしい。原理とかは、やっぱり分からない。人のいないビルをいちいち探すのは面倒だけど、次の仕事のときに息切れしたくないのはある。


「はぁ」


 美味くない。かといって、いやになるほどまずいわけでもない。煙。こういう、煙みたいな人生。風が吹いたら、消えてしまうような。


 声。


「おっと」


 人がいたのか。あわてて煙をぱたぱたしつつ、煙草もどきを足で踏み消す。火はついていない。というか煙草じゃないから着火の必要はない。じゃあなんで煙が出てるのか。分からない。どうでもいい。


 声。


 男の声なのか、女の声なのか。分からない。ちょうど、中間。男でも、女でもない。

 不思議な。音域。


「屋上か」


 なぜか、細い指と、首もとを思い出した。


「いい声だな」


 歌っている。ひとつの曲が終わって、そしてまた、次の曲へ。

 心地よかった。

 曲が。歌が。続いていく。絶妙な音域で。どこまでも。


 そこそこ、時間が経った。遂に、コンサートは終わったらしい。音が、途切れた。


「拍手でもしに行くか」


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