最終話 ずっと一緒に
「あーくん……ね。いいわ、
「そんなっ……! どうして幼馴染なのにこんなことするの? 酷いよ、酷い……わたしの気持ちを分かっててそんなの……」
「……あなたごときの気持ちなんて知らないわ。わたくしはアタルくんとは一生を遂げる約束を――」
「あーくんはそんなの言って無いって言ってたもん!! もういい! わたしだけで探してみせるんだから!!」
彩朱一人だけで教室を出て行こうとすると、珠季がさらに追い打ちをかけるかのように、言葉を投げてきた。
「あ、そうそう。急いだほうがいいわよ? 彼をそのままにしておくと永遠に眠るかもしれないから」
「そんな……! ど、どうすればいいの……」
「さぁ? それこそおとぎ話みたいにキスでもすればよろしいのではなくて?」
「……っ!」
珠季の脅しに焦りを感じながら、彩朱は慌てて教室を出ていった。
彩朱一人だけが取り乱していることに恋都は何が起きているのか分からずにいるようで、唖然としている。街香は彩朱とは違う気持ちを持っているせいか、特に何も動こうとしない。
「……ふふ、分かりやすい子。わたくしからの"約束"に気づかないようでは先が思いやられるわね。あなたはどう思う? 街香」
「……別にどうもしないけど? 私の気持ちは私のもの。嫌われなければ何でもいい。彩朱の気持ちだってずっと続くとは限らないし」
「あら、相変わらず性格がひねくれまくりですわね。どうでもいいですけれど」
街香は珠季にだけは言われたくないといった表情をしている。
「ふん。あたるをどこに連れて行こうと、傷つけたら黙っておくつもりは無い!」
「そんなことしないわ。だって彼は一番安全な所に戻るだけですもの」
「……だからといって勝手に連れて行くのはルール破りなんじゃないのか? 知らないのは護国だけってことも知ってて酷い女め」
「彼が"向こう"へ行くことが決まってからよそよそしくしていたくせに、何を今さらいい子ぶっているというの? あなたと恋都だって人のこと言えないのではなくて?」
「……っ! うるさい、お前には関係無い」
図星を指されたのか、街香は表情を曇らせ口を閉ざしている。
「まぁいいわ。わたくしもいつまでも彼に執着するほど暇は無いの。わたくしには初めから見えていたわけだし」
「冗談かと思っていたけど、あたるが誰と結ばれるかをすでに見えていたとか、つくづく……」
「見えるとか見えないとかそんなのはどうでもいいことだわ。それよりも、わたくしはカフェの経営で忙しいの。そうでしょう? 恋ちゃん」
「え? えぇ? う、うん。……ボクはもうカフェで頑張るしかないよね、きっと」
「ちっ、結局"普通"のあいつだけがあたるの思い出に残ってたってわけか。はぁ……」
あたるとの約束を果たせなかった街香、恋都の二人は、一様に悔しさをにじませ、主役のいないハーレムカフェで大人しくするしかなかった。
「ふふ、同じ気持ちを持っていた幼馴染への"優しさ"はこれっきり。後はあなた次第なんだから、確実に決めてよ? 彩朱ちゃん」
・ ・ ・
「う……うーん?」
「ちょっとあたる、遅刻するわよ! だから早く起きなさい」
「わー!? マジで? ――って、母さん? え、どこ、ここ……」
目覚めたら自宅で母さんがいて、しかもいつの間にか朝になっている。
――というより、何だか見覚えのある部屋のような。
「何言ってるの? ここは――」
「……え? 聞こえないんだけど、何て?」
何故か母さんの声が雑音のように聞こえづらく、急に眠気が襲ってきた。もしかしなくても意識が混濁しているのだろうか。
俺は確かハーレムカフェで珠季に盛られて、それから――。
ほとんど覚えていないままもの凄く眠っていたような気がする。今のが夢だったとすれば、自分が寝かせられている場所はどこなのか。
とにかく今度こそきちんと目を開けて、意識をはっきりさせないとだな。
「……」
手足に力が入ることを確かめながらゆっくりと目を開けようとすると、自分の口に柔らかくて冷たいゼリーのようなものが重なってきたような感触を覚えた。
またしても怪しげな食べ物でも入れられてはたまったものじゃない。そう思いながら慌てて目を開けながら上半身を起こしてみた。
すると目の前にいたのは、
「――あっ……あーくん!」
「さ、さーちゃん!? え、何で?」
ほのかに甘い香りがすると思っていたけど、もしかしなくてもキスされた?
それはともかく何で泣いているのだろうか。
「何で泣いて……?」
「永遠にこのまま目を覚まさないんじゃないかと思ったら気が気じゃなくて、だからキスをしたの」
「永遠ってそんなバカな……」
「だって珠季が言ってたから、だから」
黒い令嬢ではあるけど、珠季は幼い頃に俺に散々いたずらを仕掛けてきたいたずら好きだ。おそらく俺の所に行かせるつもりで嘘を言ったに違いない。
「僕は大丈夫。このとおり、さーちゃんの優しいキスで目が覚めたからね」
彩朱の顔から視線を外すと見知った天井があって、そこは確かに俺の部屋だということが判明出来た。つまり母さんだと思っていたら彩朱だった件。
何で俺の部屋に彼女がいるのかは分からないものの、おそらくこれも珠季の仕業。
それはそうと手が届くところに彩朱の顔があったので、とにかく彼女の頭を撫でることにする。すると彩朱はグスグスと鼻を鳴らしながら俺に謝ってきた。
「え? 何でまだ泣いてるの?」
「ごめんね、ごめん……ずっとこうなりたいって思っていたのに、あーくんにずっとあんな態度を」
あぁ、最初の再会のし始めの話か。ずっと気にしながらあんな態度をしていたところも彩朱らしいな。
他の幼馴染たちは個性こそ強化されてたけど、俺に対する態度はあっさりしていたものだった。幼い頃の約束をそこまで引きずっていたものでも無かったらしく。
しかし彩朱は俺との些細な約束を忘れずに、自分なりに成長してきた。それこそ永遠の約束をずっと記憶に残しながら。
つまり彩朱だけは純粋のまま、急にいなくなった俺との約束をずっと憶えていたということになる。
そこまでの想いを持った彩朱とは、たった"一晩"だけで済ますつもりはなかったのに、俺はどうしてこんなに悲しませてしまっているのか。
「ええと、さーちゃん。僕はどこにも行かないよ? だからあの、泣かないで」
「本当にほんと? もうどこにも行かない?」
恋都にはフラれ、珠季との約束は何も守れず、街香との気持ちは通じ合うことが叶わなかった俺には、もうどこにも行く場所が無い。
一時的に留学先へ戻ることになるとはいえ、それはまた別問題。
つまり、
「これからはさーちゃんとずっといるよ。だって――」
「……だって?」
「ずっと約束してたし、さーちゃんのことが大好きだから」
「ん、わたしもあーくんのことが大好き! ずっと、ずっとずっと、一緒にいたい! そして絶対に離れたくないんだから」
「僕もだよ、さーちゃん。これからはずっと一緒に――」
おわり
幼馴染4人組と『再会しても仲良しだよ』と約束したのに、再会しても『ざまぁ』と言い放って俺に馴染んでくれないんですが? 遥 かずら @hkz7
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます