第31話 今さら気づいても遅い!?

 色々なことがありつつも、彩朱としたことについては後悔も何も無く、何の問題も起きずに学園祭の前日になった。


 のことについて彩朱さーやは気にするそぶりもなく、珠季が発案したハーレムカフェ開店に向けて、セリフ回しや動きなどなどをきちんと練習しているみたいだった。


 街香も俺に対しあまりちょっかいを出してくることがなく、珠季からも大きな動きは無かった。


 あるとすれば、


「なぁ近東。あの子って同じクラスの子だっけ?」

「あん? どの子?」

「ほら、珠季たちの近くにいる髪の長い――」


 俺のクラスには個性的な幼馴染が四人もいることもあって、ぶっちゃけ他の女子に目がいく暇と余裕が無かったりする。しかし学園祭前日ともなれば、後はその日を待つだけということもあって手持ち無沙汰になってしまう。


 こうなるとさすがに余裕も出てきたりするし、クラスの出し物がハーレムカフェということも関係して他の見知らぬ女子にも興味がわいたりする。


 何となくその女子に目が行っただけなのに、妙に気になってしまった。


「何だ、気づいて無いのか? いつも一緒にいたのにお前ってマジで鈍すぎねえ?」

「へ? いつも一緒に?」


 近東の言葉に北本と南部も俺を見て苦笑している。


「まぁ何だ。惚れ直すってのはよくあることだからな。話しかけてきてもいいんじゃねえの? あの子もお前のことを待ってるだろうし」

「よく分からないけどそうしようかな……」

「おー。行って来い!」


 近東たちに半ば呆れたような表情をされながら、気になる女子に近づくことにした。


「あ、あの~君って……」

「ボクがどうかした? ナカ兄」


 自分のことをボクってことは、恋都なのか。


「恋都……そ、そっか。その格好はどうしたの? というか、その髪って……」

「どう? 似合うだろ~! ボクだって"女子"になれるんだぞ!」


 素直に驚いた。ウィッグを付けているだけなのに、普段とはまるで違う長髪の恋都が現れるなんて。ちょっとしたことで見た目がこんなにも変わるなんて思ってもみなかった。


 気のせいか仕草振る舞いもいつものボクっ娘ではなく、その辺にいる女子と何ら変わらない色気のようなものも感じられる。


「いや、恋都は元から女子でしょ?」


 どうしても姉の街香と比べると少年のような感じが取れずにいただけに、今の俺の発言も多分嘘っぽい。


「ふん、そうは見てなかったくせに~!! 女子として意識してたんならあの時、絶対に最後まで手を伸ばしてたに決まってる! それをしてこなかったくせに、今さら気付いてももう遅いんだかんね! 今さらボクに惚れて手を出してきても許さないんだぞ!」


 そうだよな。もちろん手を出す気は無いけど。


「手を出したら……?」

「おもいっきりぶっ叩いて、ざまぁ! ってクラス中に響かせる! こんなに可愛いボクを女子扱いしないでスルーするなんて、本当にどうにかしてるよナカ兄は!」


 そういえば恋都からは唯一ざまぁと言われていないんだよな。


「あ、いや……」


 もしかしなくてもこれは正式にフラれたとかいう意味なのでは?


 もちろん告白をしたつもりは無いし、面と向かって気持ちを伝えられたわけじゃないとはいえ、恋都にとって多分あの忍び込みの時間帯がだった可能性が高い。


「ま、とにかく、それはそれとしてハーレムカフェでは思いきり攻めちゃうから楽しんでよね?」

「そ、そうするよ」

「ふふふ。ボクに惚れても遅いんだぞ~! 髪を長くしただけで惚れ直したって今さら気付いても遅いんだからね」

「……」


 告白もしてないのにすごくショックな気分になるな。髪型を変えただけだし、衣装も普段と違うだけなのにあんなにも変わるものだなんて。


 軽く、いや結構ショックを受けている。


「あぁ、あたる。今にも泣き出しそうにしてるけど、マチの胸でなぐさめようか?」


 恋都の姉の街香がさっそく声をかけてきた。その表情だけで判断すれば、街香も俺のことを"ざまぁ"と言ってそうな感じに見える。


「そんなに分かりやすい?」

「あたるにとって、初めてフラれたわけだしもの凄く分かりやすいね。相手が恋ならなおさら」

「全部見てたんだ……?」

「気に入らないけど、珠季のカフェに入り浸って女子っぽいことを学んでいたからこその変化だからね。あたるが驚くのも無理は無いよ」


 そうか、珠季のカフェか。そういえばバイトをしたいとか言ってたもんな。俺だけ結局行くことは無かったけど。


「それと、手を出さずに恋のことを放置したんだろ? 知ってるよ、何でもね」

「えっ……何故それを?」

「手は出さなかったのは、彩朱と"ヤるため"だったから?」

「……っ!? なんっ――」

「何もかも知ってるよ……あたるのことは、ね」


 まさか彩朱が言いふらした?


 しかしそんなはずはない。いくら世羅姉妹と仲直りしたといっても、彩朱が俺とのことを誰かに話すなんてあり得ないからだ。


「何でそんなことを俺に?」

「今度はマチの番だから、さ」


 どういう意味なんだそれは。


「でも俺は彩朱――」

「だから?」

「え?」

「彩朱だろうと誰だろうとマチには関係無いな。相手があの子……恋都なら良かったんだけど今となってはどうでもいい。とにかく明日が楽しみ、だね。あたる……」

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