第26話 黒令嬢、ハーレム企画を提案する

「遠西! こっちに来て手伝ってくれ」

「え、お、俺?」

「お前以外に男子がいないだろ。とにかくそこにある板を押さえてもらえりゃあいい。とにかく頼むわ~」


 学園祭が間近に迫っていることもあって、学校の中は至る所でその準備に取り掛かっている。


 俺のいるクラスではパネルは男子を中心として作り、教室でやる企画ものは女子がメインで作られるのだとか。


「うし、後は南部なべが電動ドリルで打ち込めばばっちりだ!」

「……このまま押さえていればいい感じ?」

「そのまま、よろしく。遠西どの」

「あ、うん」


 数少ない男子たちと学園祭間近になって、ようやく打ち解けた感じがする。元々男子が極端に少ないから、俺からコミュニケーションを取ればいいだけのことだが。


「そういえば恋都……世羅は?」

「あの子なら今は北本と買い出しに動いてる。というか、名前で呼んでも良くね?」

「えっ?」

「いや、幼馴染なんだよな? あの子とお前って」

「あれ、教えてなかったよね?」


 別に隠すつもりは無かったが、言うことでも無いと思っていた。それだけに近東に先に言われるとは思っていなかった。


「さすがに分かるだろ……黒の令嬢もそうだけど、お前の席だけオレらと隔離されるとか普通にあり得ねーし。ま、空上先生から聞かされた話だけどな!」


 そうなると、自己紹介をしなくてもいい意味の中にが含まれていた訳か。どうりで彩朱とのやり取りの時に何も言われなかったわけだ。


「……んで、その恋都は何か俺のこと言ってた?」

「あん? 何も聞いて無いな。そもそもオレらといる時、あの子はお前のことを全然話さねーし。何かあったんか?」

「な、何も無いよ」

「……遠西氏。板を外していいでござる」


 ――などと、ふと恋都のことが気になっていたら南部の作業が終わっていた。


 今朝の出来事だったから何か変化でもあったのかと思っていたけど、そんなことは無かったようだ。


「あー、遠西。こっちはもういいから、あっちに行ってやれ」

「どこに?」

「ずっと睨まれてたのを放置してたんだが……あちらさんたちはかなりキレてるみたいだから、お前を行かせないとオレらがやべぇ」


 近東たちが指すところには俺の席があって、そこに彩朱と街香、それから珠季と他の女子たちがいた。何かの話し合いをしているようで、みんなで俺をじっと見ている。


「じゃ、じゃあ、後は頼むね」

「気にすんな! ほら、行けっ!!」


 近東に手で背中を押され、勢いそのままに女子たちが待ち構えるところに飛び込んだ。


 しかし意外だ。彩朱と街香が争うことも無くいることもそうだが、珠季もそこに加わっていることが不思議でならない。


「ようやく来たわね、遠西あたるくん」

「おっそ~い!! 遅すぎなんだけど! ウチの視線にすぐ気づかないとか、虫以下の神経なんじゃない?」

「来たね、あたる。そこに座りなよ」

「…………え」


 珠季の周りには複数の女子が立ち、街香の左右に二人ほど。彩朱には金髪のギャルがそばについていて、とてもじゃないが近づくことすら難しそうに見える。


「座るって、どこに?」


 俺がそう聞くと街香が俺に顎クイをしてきた。


 そのまま顔でもぶたれるのかと思えば、


「何もしないから、自分の席に座りなよ。何か起こってもマチが守るけどね」


 俺の目を見ずに、俺の席に視線を移した。しかし机の上には他の女子たちが座っているわけだが。


 そう思っていると彩朱が自分の膝をポンポンと叩きながら、


「ウチの膝の上……って言いたいけれど、あなたの席に座れば良くない?」

「え、あ、あぁ。そうするよ」


 街香といい彩朱といい、俺に何を伝えたいのか。


「……あたるくん。今どんな気分かしら?」


 かと思えば、沈黙していた珠季が口を開く。


「気分……って?」

「あたるくんが鈍すぎることは百も承知なのだけれど、まさかここまでだとは思ってもみなかったわ! それだけにわたくしの……この子たちを巻き込んでの企画が意味を為すのだけれど」


 恋都をのぞいたクラスの女子と他の幼馴染たちを使って、珠季は一体何を始めるつもりなんだ?


「えっと? どういうこと?」

「学園祭の企画なのだけれど、あたるくん」

「……う?」


 俺が身構えると机に座っていた女子たちは一斉に降りて、珠季を目の前に迎え入れた。


 そして、


「恋愛そのものから逃げて逃げ続けて、臆病な男の子の為に! このクラスではハーレムカフェをすることに決めたわ! それなら不公平も文句も出ないだろうし、正々堂々とした勝負が出来るというものなのだけれど、どう思うかしら? あたるくん?」


 手を思いきり広げながら、俺にそんなことを提案してきた。


「ハー……レム? ハーレムって?」

「ええ、そうよ! もちろんあたるくん限定にするつもりは無いのだけれど、あなたには特別なプランを用意して差し上げるわ!」


 ふと街香と彩朱の顔を見ると、彼女たちは気恥ずかしそうな表情を見せている。どうやらやること自体確定らしい。


「えーと、このクラスの女子全員で?」

「えぇ、小さいのも含んであげるわ。もちろん、が参加すればの話なのだけれど」

「企画自体はまぁ、俺がとやかく言えることじゃないからいいんじゃないかな?」


 女子が圧倒的多数なクラスというか学園だし、男子が意見することは無いだろう。


「決まりね! じゃあもういいわ!」


 俺の席なのに珠季の指示なのか、力強い女子たちによって強引に離された。相変わらず強引だな。


 仕方が無いのでまた近東たちのところへ戻るしかなさそうだ。


 戻ろうとすると、どうやら背中のシャツを何かが引っ張っているようで動けない。首を動かしてみようとするも、体勢を変えられなくされている。


「ナカくん……お昼休み、屋上に……」

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