第17話 戸惑いのぼっちギャル

「ふぅん……? じゃあ街香は大人しくなったってこと?」

「よく分かんないけど、ナカ兄は怪我なんかしてなかったよ。ボクはまだあの人に油断なんかしないけどさ~」

「どうでもいいけど、ナカのことを兄って呼ぶのに街香のことはどうしてあの人呼びしてるわけ? 姉妹なのにおかしくない?」

「そんなのどうでもいいじゃんか~。ナカ兄はボクにとって――運命のナカにぃなんだ。でもあの人はボクより数秒だけ先に生まれただけに過ぎないよ」


 放課後前の休み時間。


 以前と違って見えるのは、恋都と彩朱が普通に会話している光景だ。街香は以前と変わらず女子たちの輪の中にいて、休み時間だからと俺に声をかけてくる気配は無い。


 さすがに今すぐに変わるといった感じにはならないものの、時折目が合った時に微笑みを返してくるようになった。それくらいなのに何故だか嬉しくなる。


 そして相変わらず珠季の姿は確認出来ず、登校すらもして来ない。しかし気にしているのは俺だけで、教室のみんなは何も気にしていないようだった。


「ねぇ、ナカ。ちょっと聞いて欲しいんだけど?」


 珠季のことを考えていると、彩朱が俺に声をかけてくる。恋都は男子たちのところで話しているようだ。


「うん? どうしたの、彩朱さーや

「ウチってギャルよね?」

「うーん? そうだと思うけど、何で?」


 派手色に染めた長い髪に、日焼けした肌。耳にはピアスをしていて見た目もそれっぽい――多分ギャルと言って間違いじゃない。最近は態度も口調もギャルっぽくないような気もするが。


 海外では見た目だけで特に判断していなかった。そういう意味では、俺以上に彩朱の方が外見から変えてしまっているような。


「でもでも、恋都がウチはギャルとは違うって言うんだけど。どこが違うか教えて欲しいっていうか……」


 彩朱は何やら人差し指を交差させて、恥ずかしそうにもじもじしている。幼い頃もこんな感じの仕草を見せて可愛かった。


「そういえば……」


 この教室には彩朱をのぞけば、ギャル女子はそんなに多くない。多くないだけでいることはいるが、大人しい女子に混じって街香の元にいたりして個別にグループが出来ている。そう考えれば、彩朱と一緒にいるのを見たことが無かったり。


 俺が編入して来て以降に席替えをしたのもあるとはいえ、俺の上に乗っかってきた時もいわゆる冷やかしのようなものも無かった。


 空上先生を含めて、"温かい目で見守る感じ"が見て取れた。恋都の言うのが本当だとしたら、彩朱は真面目になんちゃってギャルなのでは。


「そういえば何? 何々? 黙ってないで教えてってば! ウチが何?」

「彩朱って、他に友達は……いるんだよね?」

「い、いるし!」


 そう言うものの、彩朱はきょろきょろとしていてかなり動揺をしている。


「ちなみに何人くらい?」

「ばっ、ばかなの? そういうこといちいち聞くとかあり得ないし。そういうナカだっていなくない?」


 近東たち少数男子が友達かと言われればそれは断言出来ないけど、話はしてるわけで。しかし彩朱は常にぼっちのような感じを受ける。


 彩朱は見た目こそ派手なギャルにしているけど、中身が純真無垢すぎて近づけないオーラでも放っているんじゃ?


「友達って呼べるほどじゃないけど、つるむこともあるよ」

「へ、へぇ……物好きな奴らもいるってことね、理解」


 素直にひどいな。


「とりあえず彩朱。放課後に俺と一緒に行こうか?」

「ど、どこに?」

「ギャルが集まっているところ。そこなら彩朱にもたくさん友達が出来るかもしれないよ?」

「――えっ、何で……そんなとこ」


 随分と焦っている気がするけど、学園じゃないところのギャルたちと交流を深めるのも彩朱にはいいかもしれないし、連れて行くのも気分転換になるはず。


「もしかして行きたくなかったりする?」


 ネットで調べておいた事前情報によれば、学園近隣にギャルだけを集めたカフェがあるらしく、そこなら彩朱にとっていい刺激になるんじゃないかと思えた。


 しかし乗り気じゃない表情にも見えるうえ、困惑しているような気も。


「い、行くし! ナカが放課後デートに誘ってるんだし、行かない選択肢なんてウチには無いし」

「じゃ、放課後に行こうか」

「え、う、うん……」


 嫌がってるほどじゃないにしても、何だかすごく不安そうだな。


「どうしようどうしよう……嘘嘘、無理すぎぃ……」

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