第16話 仲良くシタイ?
「言いなり……って、俺はそんなのは望んでなんか――」
「負けは負けだし。負けたら従うって意味。それ以外何がある?」
「な、ないけど。強いて言うなら昔のように……」
「仲良くシタイ?」
出来ることならそうしたい。
「したい! 昔のように街香と」
「じゃあしようか。するついでに、マチはこれからナカにちょっかいを出す奴から守ってあげるよ」
「守っ……え?」
守るなんて、どういう意味なんだろう。
「……さてと、ナカ。そろそろ後ろを向いてくれない?」
息を乱していた街香は落ち着きを取り戻したものの、うっすらと汗をかいているようで顔が赤い。それもそのはずで、スクールシャツを脱いだままの体をずっと俺にさらけ出しているからだ。
「…………」
じっくりと見ることなく押し倒したとはいえ、街香の体は何ともしなやかで無駄な肉ひとつない締まった体をしている。華奢な腰なのに俺よりも強靭な肉体をしていて、これでは勝てないということを実感してしまう。
「そんなに見つめられると……」
「ご、ごめん。俺よりも鍛えてるなぁと驚いたっていうか」
「この期に及んでお前……あたるはマチを女子だと思ってなかったりする?」
「――い、いや」
意識していなかったといえば嘘になるけど、街香だから平気だったと言えば殴られそうだ。とにかく今は背を向けて着替えてもらわなければ。
そうして俺は、体育倉庫の扉を見つめまくった。心を落ち着かせる為というのもあって、数分ほどその場に立っていた。
すると――
「ナカ兄!! 助けに来たよ! 大丈夫だっ……あっ、目の前にいた~」
鍵が掛かっていなかったこともあってか、物凄い勢いで扉が左右に開かれる。開いたと同時に恋都が中へ入ってきた。
「こ、恋都? どうしてここが……?」
「近東たちが目撃したっていうから急いで来たんだ~。怪我は? 何も無かった?」
そう言いながら、恋都は俺の頭やら腕やらをぺたぺたと触りまくる。
「俺は大丈夫。何とも無いよ」
急所蹴りをされてるけど大したことは無かった。
「でも何かされたんだよね? あの人に!」
恋都は街香の立っているところを指している。
おそらく着替え終えているであろう街香に向きを変えると、彼女は何事もなかったかのように、重ねられたマットに腰掛けていた。
顔を上気させていた街香はどこにいったのやら。
「……何の用?
「決まってるよ!! ナカ兄に酷いことをしてたくせに! 今さら誤魔化すの?」
恋都の言い方を聞いている限り、やっぱり仲が最悪なのか。街香はそんな感じじゃ無さそうだけど。
「酷いこと、ね。今まではしてたけど、もうしないつもり。そんなことを言うためにここに?」
「そうだよ! 悪い? ボクは騙されないからな! どうせまたナカ兄にちょっかいを出すに決まってるんだ」
「出さないよ? マチからちょっかいはね。恋こそ彼にちょっかいを出しているんじゃないの?」
「出してないよ、そんなの!! 話にならないからボクとナカ兄は戻る!」
どうやら姉妹の仲はそう簡単に修復しないようだ。
「ほら、教室に戻ろうよ! あの女……彩朱もうるさかったんだから!」
「想像はしたけどね」
「よしっ、行くよ~!」
「そうするよ」
急かす恋都の背中を追いかけようと駆け出すと、グイッと背中を引っ張られた。
「街香? な、何? まだ何か……」
「……とりあえず、あたるにあげとくよ」
「うん?」
「――んっ……」
「えっ!?」
強い力で引き止められたかと思えば、頬の辺りに柔らかい感触を感じた。
まさか、街香にキスされた?
「そう驚かなくてもいいよ。あたるにとっては慣れた感触なんじゃない?」
「そんなでも無いけど……」
「これはマチとあたるにとって、仲直りのしるし。そう思ってくれればいいよ」
「そういうことなら、まぁ」
街香がこんなことをしてくるなんて意外だ。卑怯な手でくすぐりの刑を実行して屈服させたとはいえ、俺と仲直りをしてくるなんて。
手こずると思っていた街香が一番先に変わったのも意外すぎた。でもこれで、他の幼馴染の彼女たちも馴染んでくれるようになる気がする。
「先に行きなよ。マチは後から行くから」
「分かった。じゃあ、また街香」
「……ん」
もう痛い思いをすることが無くなるとしたら、俺がしたことは良かったのかもしれない。そう思いながら急いで恋都の後ろを追いかけた。
「彩朱と恋、それに……もうすぐ邪魔しに現れる神城珠季なんかに――あたるは誰にも邪魔はさせない。あたるは幼い頃からマチのモノだよ……」
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