第15話 もらう? もらわない?

 街香が示している今の態度と状況は、完全に俺を舐め切っている。屋上の時は他の女子がいたことで、俺はどうしても本気になれなかった。


 でも今は誰もいない体育倉庫の中だ。


 普通に考えれば抵抗する気も見せない女子に強い力で押し倒せば、よほど押し返せる強い力を持つ女子でも無い限り、逆転するのは無理に等しい。


 それなのに街香は隠すこともなく、上半身をさらけ出し無防備状態だ。まるでやれるものならやってみろといった姿勢を見せている。


「この状況は完全に街香の油断だと思うけど、いいんだね?」

「ふーん? マチが無抵抗なら完全勝利出来ると思っているわけか」


 押し倒されても俺に負けないとでも思っているのだろうか?


「完全じゃないにしても俺が負けることにはならないよ。それにこのままだと街香はどこかを痛める可能性がある。今ならまだやめることが出来るけど、それでも俺に勝てるとでも?」


 俺の言葉に街香はすぐ後ろを見て、


「マチの心配ならいらないな。ほら、見てみなよ。丁度よく体操用のマットが敷いてあるだろ? ここならナカは罪悪感なく押し倒せる。ほら、来なよ」


 足下にあるマットを見ながら余裕を見せた。体育倉庫の中にマットがあるのは、おあつらえ向きというべきだろうか。


「俺が勝ったら街香――」

「……いいよ? もしナカが勝ったら、マチをあげるよ。幼い頃と同じ約束をもう一度してやるよ。もらうだろ? ナカ」


 一体どういう意味だっただろうか。単純にご褒美をもらうという意味じゃなさそうだし、そもそもマチをもらうとかおかしな話だ。


 さすがに幼い頃にした約束のことはそこまで覚えてもいない。


 ここでうかつに返事をしたらそれこそ痛い目に遭うのでは?


「も、もらうかもらわないかは俺が決めるよ。とにかく本気でいかせてもらう――」

「……っ!」


 さすがに無抵抗で無防備な相手なら、相手が俺より格上だとしても押し倒してしまえば負けることは無い。まして相手は俺を舐め切っている。


 手荒な真似をするつもりは無いものの、二度も俺に勝っている街香のことだ。何かしらやり返してくるはず。


 そうさせないために、俺は強い力と勢いそのままに足下に敷かれているマットをめがけて街香を押し倒す。


 俺の予想とは裏腹に、胸を露わにしている状態のせいなのか、街香は何も抵抗を見せずにマットに倒された。


 押し倒した衝撃は何とか吸収したようで、大きな音が立つこともなく、街香にダメージを与えることにはなっていないように見える。


「……で、ナカ。無抵抗なマチを押し倒して、この後は?」

「押さえつけた状態では街香は何も出来ないはず。昼休みが終わる前までに降参すれば俺は何も言わないことにするよ」


 ――押し倒した後のことは、正直何も考えてなかった。


 誰もいない場所とはいえ、こんな体勢を長く続けるには体力も必要だ。それに街香から感じる柔らかい感触にも耐えなければならない。


「ハァッ……つまらない奴。マチが女子たちと時、驚いてる様子が無いから外国で慣れてきたものとばかりと思って期待してたのに……」

「いや、俺はそんなんじゃ……」

「チャンスを与えてやってるのに、寝技もやらずに押し倒して強く抱きしめるだけ……しかも胸に触れずに肩だけなんて、お前って本当に変わってないな。こんな面白味も無い体勢ならもういい……もういいよ、お前」


 押し倒すだけの簡単な動きだったとはいえ、やはり体格差があったせいか真下にいる街香から強烈に反抗する力が感じられる。


「うっ……!? 嘘だろ……?」

「がっかりさせたお前に教えてやるよ。マチはその辺のか弱い女子と鍛え方が違うってことを。お前の油断と弱さが招いた答えを今すぐ出して後悔させてやる!!」

「ウアア……。き、急所蹴り……」


 街香の足が俺の急所めがけて強烈な蹴りを命中させる。俺は街香の顔が真下にあって、肩を押さえているだけに過ぎず、体の自由が利かない。


「もう一度この手でお前のアソコを握り潰したいところだったけど、この体勢じゃ蹴りしか出来ないからな。まぁ、どっちでも変わらないからいいよな? ナカ」


 これはまずい、まずすぎる。強い力で押し倒して息が苦しくなるほど身動きを封じれば、さすがの街香でも音を上げると思っていたのに。


 何て力だ。俺以上に鍛えていた結果がこれだとすると、街香の言葉通り勝てるチャンスを逃してしまったことになる。


「急所を蹴られて腰が浮いたな?」

「うぅっ、しまっ――」

「……これなら逆にお前を屈服させて失神させてやるけど?」


 単純に押さえつけるだけのはずだったのに、やっぱり甘く考えてしまった。俺が街香の上にいるのがかえって反撃するチャンスを与えてしまっているなんて。


 もう俺を屈服させる気でいるが、幼い頃に見つけた"弱点"が変わっていなければ俺にもまだチャンスがある。


 急所を蹴られて密着していた体が離れたのが幸いだった。


「やっぱり女子たちと方が楽しめるし、とっととお前を――」


 すっかりその気になっている街香の"そこ"に向けて俺は手を伸ばし、指をひたすら動かしまくった。


「ひぁぅっ!? な、なんっ……や、やめ――」


 どうやら弱点は変わっていなかったようだ。そうなれば俺は、街香の脇の下に伸ばした手を動かし、ひたすらくすぐりまくるだけで勝てる。


「や、やめない! 負けを認めるまで動かし続ける」

「このっ、卑怯者!! 最弱男、半端筋肉……い、いやぁっ! こ、こんなの……」

「街香はくすぐられるのが苦手だったよな? 俺によくやられてその度に……えっ?」

「も、もう……分かった、から……はーっ……はぁぁぁ」


 くすぐりまくりの快楽状態から解放すると、街香は顔が上気させ、息づかいを荒くしながら舌まで出している。


 やりすぎたかな。


 そしてそれまで強気で勝気な態度をしていた街香から出てきた言葉は、


「これからは、マチなりの態度でナカの言いなりになる……よ。だからこんな意地悪なナカは、もう……」

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