第13話 双子姉妹と妹と穴
「あっ! アタルが来た! ねえ、アタルの意見も聞いてみようよ」
「それもそうだな!」
遅刻しない程度の時間に教室に入ると、廊下側の席で今日も朝から恋都と他の男子たちが話し合いをしていた。
自宅から学園までは徒歩圏内。編入初めこそ朝早く教室に来ていたものの、今ではちょっと余裕を持たせた登校時間にした。
そんなこともあり、今では教室に入った時点ですでににぎやかだったりする。ちなみに幼馴染たちとの遭遇率は極めて低く、滅多に会えない。
「おー、遠西! おす。ちと、いいか?」
「おはよう、近東。それに北本と
いつも恋都と話をしている近東、そして北本と南部は、この前保健室に運んでくれたことをきっかけに話が出来るようになった。
とはいえ、口数の多い近東に対し彼らはかなり大人しい男子で、頭を軽く動かすだけで返事はほとんど返ってこない。
女子が圧倒的過ぎるクラスの中で、男子は俺を含めて六人しかいない。その中で、話をしてくれる彼らは俺にとってかなり助かる存在だ。
「んで、何か話をしてたみたいだけど俺に何の話なの?」
俺がそう言うと恋都たちは俺の席近くに移動して、話の続きを始めた。
「んじゃ、恋都から説明頼むわ!」
「うん。えっとね~アタルならどんな顔ハメがいいと思うかなって話してたんだ~」
――などと、意味不明なことを言ってきた。
「か、顔ハメ……? って、何それ?」
「顔ハメっていったらアレしかねーだろ。遠西は知らねーの?」
「あっ……ほら、アタルは帰国子女じゃん! だから多分ピンとこないんじゃないの?」
さすがに幼馴染だけあって、恋都は機転を利かせてすぐにフォローしてくれた。もっとも、俺と幼馴染だという関係を知られたくないせいか、俺のことは本名で呼んでくれている。
「じゃあ恋都。お前が教えてやったらよくね?」
「そうする~」
恋都は俺の隣に立ち、そのまま俺の耳に口を近づけて何かを言おうとしている。
そこに――
「……邪魔だからどいてくんない?」
登校してきた彩朱が俺と恋都を遮ってきた。
「何だよ、後ろの席なんだから邪魔じゃないじゃんか!!
「意味なんて無いけど? っていうか、
これは驚きだ。
今まで恋都には絡んでくることが無かった彩朱なのに、席に座ろうとするのに邪魔だからなのか、恋都に声をかけるなんて意外すぎる。
彩朱が来た途端に近東たちはいなくなっていて、嫌な予感しかしない。
「顔ハメのことを教えようとして背伸びをしただけ! それなのに何で邪魔するんだよ」
「か、かかか、顔ハメ……!? ま、まさか、あんたたち――」
「はん! これだから
「どういう意味なの? 恋都」
俺も内心、彩朱と似た思考だった。というか、恋都は彩朱が本当は本物のギャルじゃないことを知っているのか。
「学園祭で置こうと思ってるんだけど、記念写真用のパネルをどうしようかなって話してただけなんだ~。それの穴の大きさとかどれくらいがいいのかなぁって」
あぁ、あれか。
小さい頃のおぼろげな記憶を引っ張り出すと、確か観光に行った時にそんなパネルがあった。
「観光地のアレのこと……ってこと?」
「ボクは最初からその話をしてただけ! 何だよ~勝手に話に割り込んできて変な想像とかするなんて、弱すぎもいいとこじゃんか」
「ま、まぁ、俺も何のことか分からなかったわけだし、彩朱にそこまで言わなくても……」
変な誤解をした彩朱をかばうつもりで恋都をなだめると、二人が何故か俺を睨みつける。
「ナカのくせに俺とか、生意気だし!!」
「俺って言うなー!!」
仲が悪いはずなのに、何で二人で声を揃えてまで俺を怒鳴るんだ。そもそも再会してからずっと俺って言ってるはずなのに。
そんなタイミングの中、予鈴が鳴ったことで二人の剣幕は一応おさまった。しかし授業が始まるちょっと前も、恋都の視線と彩朱による後ろからの視線はずっと痛いままだった。
昼休みになり、"俺問題"は何とかおさまったものの、顔ハメについての相談に何故か彩朱も加わることに。
「ウチはシンプルなものがいいと思うんだけど、ナカはどうなの?」
「え、俺? すでに話し合いをしてたんなら、恋都と近東たちで決めればいいんじゃないかな?」
「別に大して決まってないよ。近東たちは制作班だし、具体的なアイデアはボクが判断しようとしてただけなんだ~」
そうか、学園祭。だからいつも話をしていたわけか。
「……ふぅん? 学園祭、ね。ウチは何でもいいしあんまり興味ないかも」
「彩朱はぼっちだからそんな適当でいいんだよ~! でもボクはこれでも実行委員なんだぞ! ぼっちと違うんだかんな!」
「う、うるさいし! ウチだってやる時はやるし!」
「それなら、ボクが思ってる顔ハメと彩朱が思う顔ハメで勝負だ~!」
「やってやろうじゃない!!」
ううむ、意気投合とは違うものの俺がいることを忘れて二人で盛り上がってるな。
今まで多分疎遠だった二人が話し合ってること自体いい傾向かもしれないし、離れてどこかに行った方が良さそう。
妙に盛り上がっている二人を置いて、俺は学食から廊下に出た。
廊下に出ると確かに学園祭が近いことが分かるくらい、廊下の壁に板やら何やらが立て掛けられている。
誰に話しかけられるでも無くそのまま適当に歩いていると、話に出てきた顔ハメパネルが体育館近くから遠目ながらに見えた。
もしかして毎年作ってたりするのか?
何となくそこに近づくと、彩朱と話し合いをしているはずの恋都の顔が前方から見えた。まさかの瞬間移動?
「あれ? 恋都? さっきまで話し合いしてたんじゃなかった?」
「…………」
恋都の顔は見事にパネルにはまっていて、動かせない状態らしい。無言のまま恋都は、俺を見つめて目だけで訴えまくりだ。
さすがに体育館付近には誰もいなく、通りがかる気配も無いせいか誰かに手伝ってもらうことは厳しそうに思える。
「な、何か言ってくれないと分からないよ? どうすれば助け出せるの?」
俺がそう言うと、腕は動かせるようで手招きをされた。どうやらすぐ近くに来て欲しいらしい。
そうして顔しか出ていない恋都に近づいた、そんな時。
「あははは! つーかまえた! ナカ。もう逃がさないよ?」
「なっ!? 恋都じゃない……ま、街香!?」
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