第12話 可愛さの発揮、始める? 後編
俺が浦島状態ということもあり、
何故かというと、ギャルになっていても性格は昔のままで積極的な方じゃなかったからだ。それにどちらかといえば、彩朱は誰かについて行くタイプ。
そんな彼女が俺をどこか適当な店に案内出来るはずもなく――結局たどり着いたのは当たり障りのない公園だった。途中のコンビニで食べる物を購入したという、ありふれた日常になってしまう。
しかし"事件"はコンビニに寄ったことがきっかけで起きる。
「いたぁぁぁぁい!!」
「大丈夫?」
「大丈……ばない。うぅぅ〜」
あろうことか、彩朱がかなり派手に転んでしまった。
彩朱はスタイルもいいし歩き方もサマになっている。それなのに、運動神経だけがよくないせいでまさかの転倒。しかも地面に落ちていたコンビニ袋であんなに足を滑らせるなんて驚きでしかない。
「んもう〜! だからごみは嫌い! どうしてその辺にコンビニ袋が落ちてるの!?」
「突風でゴミ箱から飛んできたのかも……」
「やっぱりナカのせいじゃん!!」
「ええ? 何で俺?」
俺の部屋でのことがあってからというもの、彩朱はごみに敏感になってしまった。もちろん普段から気をつけているらしいが、俺と一緒にいるとごみが寄ってくるとまで言い出した。
「中途半端に袋だけ捨ててたのを見たし! はみ出してた袋がここまで飛ばされるなんて、半端な捨て方でもしないとなるわけないし!!」
そんな無茶な。確かに公園のゴミ箱は溢れまくってたけど、力を込めて押し込んだからそこから風で飛ばされるのは無いと思うんだけどな。
「この際それはどうでも良くて……。ねえ、ナカ」
「うん?」
「転んでどこか痛めた気がするんだけど、見てくれない?」
どうやらどこかを痛めたらしい。しかし足のところを見ても赤くなってる感じじゃないし、腕も違うような。
「う~そんな適当に見たって分かるわけないし!! だから今すぐ撫でて! ナカくんが撫でて確かめてよ!!」
「ど、どこを?」
彩朱は明らかにお腹の辺りに手を置いて、ズキズキとした痛みに苦悶の表情を浮かべている。
へその辺り――か?
お腹全体を押さえてるし間違いなさそうだな。
「う〜」
「わ、分かったから、俺を睨まないで。触るよ……?」
「早くしてして! ナカくんなら何でも治してくれるって信じてるし~」
俺はいつから万能の医者になったんだ?
いくらひと気が無くて誰も見ていない公園でも、外でこんなことをするのは勇気がいるぞ。でも彩朱はそれどころじゃなさそうだしやるしかないんだろうな。
とにかく撫で回せば痛みくらいなら和らげられそうなので、お腹周辺に向かって手を伸ばした。
「違うし!」
「えっ? お腹じゃないの?」
「じゃなくて、シャツの上からじゃ全然効果がないし、治る気配も感じないんだってば!!」
陸郷の海学園の女子の制服は、透けにくいタイプのスクールシャツ。夏に汗をかいても透けないし、冬はカーディガンを上に着るから学園に通う男子や他校男子の視線に対する防備は完璧なんだとか。
それはともかく、
「撫でるって他にやり方があるっけ?」
「あぁ、もう!! その手を貸してってば!」
「――うぇっ!?」
「……ん、これで治りそう」
俺の手を強引に掴んだかと思えば、彩朱はそのままシャツの内側に滑り込ませ、
彩朱は気づいていないようだが、俺の意思とは別に俺の手は彩朱の肌に直接触れている。それもへその辺りを。
「……むむむ」
「昔のナカくんって、ウチが痛いところをこうやって撫でてくれたりしてたんだよね~。足とかもさすってくれたし。よく分かんないけど、痛みが消える感じがする~」
はっきりいって俺自身は、彩朱のへそやらお腹を撫で回している感触がほぼ無いに等しい。想像もしていないくらいにすべすべ肌すぎるし、おまけに彩朱の息づかいがちょっとおかしな感じになっていて、理性と戦う時間になっているからだ。
「いや、あのさ……俺に気を許してくれるのは嬉しいんだけど……その、これ以上続けると――」
襲いはしないものの、この流れで違うところまで手を伸ばしかねない。
「え? 何が……?」
「さーやは気づいてないかもだけど、俺の手が直接触れてるわけで。このままだと変な気分になるなぁと」
「…………嘘」
どうやら冷静になったようで、俺の手によってシャツが盛り上がっていることに違和感を覚えたようだ。
「やっ――やだっ、いつの間にこんなこと……」
ようやく危なさに気づいてくれたか。
「こ、この……変態虫男!! 何でどうして? こんな撫で回すなんてあり得ないんだけど! ウチが気づかないうちに手がこんなところまで伸びてるなんて~」
「俺じゃなくてさーやが……」
「っざけんなし!! ウチが何でわざわざナカの手を使うわけ? マジ、ありえねーし」
痛みで無意識ながら幼い頃の彩朱に戻っていたっぽいな。撫で回していた最中の感触を思い出せないのが残念だ。
「ご、ごめん。でも痛みは消えたみたいで良かったよ」
「……ちょ、調子に乗るの禁止だし。でも痛みが消えたから、だから……」
「だから?」
「今度何か
ほんの少しだけど、再会した時より厳しさは薄れてきたのかな。今度また出かけてくれる時があったら、その時は転ばせないように気をつけなければ。
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