第11話 可愛さの発揮、始める? 前編

 珠季との再会で肝を冷やしてしまった翌日。


 教室に入ると、恋都と近東たちが何やら楽しそうに話をしていた。恋都は外では人懐っこいのに、学校では塩対応をしてくるだけに何の話をしているのか何となく気になった。


 ちなみに俺の席の周辺は相変わらず彩朱くらいしかいなく、珠季が座る予定の席や街香の姿も相変わらず見えない。


 街香に二度もやられたこともあって、空上先生からは何も言われなくなった。そんなこともあり、朝から話せそうな相手といえば彩朱くらいだったりする。


「恋都ばかり見ているけど、ナカはがいいわけ?」


 顎に手を当てながら話しかける彩朱は、何故か俺と恋都のことが気になるらしい。


 一応幼馴染同士の関係のはずなのに、彩朱が話すのは大体俺だけで世羅姉妹と話してるところを見たことが無いのはどうしてなんだろうか。


「ああいうのって言われても……幼馴染なわけだし様子くらいは見るよ」

「ふぅん……もしかして気になる感じ?」

「気にならないわけじゃないよ。俺がまだ打ち解けてないのもあるけど、男子たちと仲がいいな~くらいかな」


 俺の返事を聞いて、何故か彩朱は頬を膨らませ始めた。


「こそこそと隠れてウチの知らないところであんなことやこんなこと、それってズルくない?」

「ずるいと言われても……そもそも何も起きてないよ?」

「起きてからじゃ遅いんだっての! じゃなくて、ウチのことも気になるとかないの?」


 四人の幼馴染と再会を果たしてからというもの、街香のことや恋都のことを気にかけるようになった。行動することも増えたせいか、彩朱と話す機会が減った気もしている。


 一番最初に再会したくせに他の幼馴染たちに構ってばかり――というのが、彩朱的に気に入らないのかもしれない。


「じゃあ、また俺の家に来る?」

「え、あり得なくない? 何であんな虫の巣みたいな部屋に行かなきゃいけないの?」


 蜘蛛に好き勝手にされたとはいえ、なかなか手厳しいな。巣を張ってただけで俺の部屋自体は巣そのものじゃないのに。


「いや、もう出ないよ。さすがにあの後に掃除したから何も心配いらないと思うよ」

「ふ、ふぅん?」

「それとも俺がさーちゃんの家に――」

「は? 冗談きつくない? 本気で言ってるなら一度病院にでも行った方が良くない?」


 かつて昔に当たり前のようにしてきたことを言うのは危険すぎる。


 幼い頃に当たり前だったことを今言うのは多分タブーなことに違いないし、家のことも含めて触れないようにしなければ。


「じゃあ、放課後にどこか行く?」

「行きたい行きたい!」

「――!」


 ほんの一瞬、幼い頃の彩朱さーやの面影が出た気がする。


 何をするにも一緒にいて、嫌なことになることが無かった彩朱と遊ぶのはいいきっかけになるかも。


 結局放課後になるまで街香の姿を見ることは無く、恋都と話す機会も無く終わった。珠季にいたっては、空上先生からも特に何の連絡も無かった。


 それはこの際気にしないでおくとして、俺たちは外に出た。しかし、すぐに立ち止まることに。


「ねえねえ、どこ行くどこ行く~?」

「何がいいか教えてくれたらそこに行くよ」

「え、ウケるんだけど? 男子が女子にそれ聞くとか、あり得ないし!」


 普通に考えたら確かにそうだ。俺から誘っておいて女子に聞くのはさすがに駄目だよな。しかし問題はそれだけじゃなく、近所のお店どころか学園の周辺に至るまで、どこに何があるのかさっぱり分からない浦島状態なことだ。


 まして女子が行くような場所なんて、俺には未知の領域。知らないのに誘うなんて無謀にも程がある。


 ここは正直に謝るしかない。


「ごめん。そんなこと言われても、俺、こっちにいなかったから分からないよ。さーちゃんが引っ張ってくれたら一緒に行くけど、どうかな?」

「……そ、じゃあ――に任せてくれるってことでいーんだ?」

「そ、それでいいなら、うん」


 それにしても、


「さーちゃんって、いつからあたしなんて使うように……?」

「んー? どっちも使うし! ウチもあたしも変わんなくない? テンション上がったら変わったりするだけで意味なんて無いし!」


 ごもっともなことを言われてしまった。


「ナカくんってば、マジでその辺変わってないね。真面目くんか!」

「え? 今なんて……」

「知らないし。空耳だし。めっちゃどーでもいいことだけど、許したくなってきたかも?」


 ギャルに変わってしまっているけど、もしかして幼い頃の彩朱っぽさが戻ってきている感じだろうか。


 元々四人の中では素直で可愛い女の子だったし、きちんと向き合えばいち早く仲良くなれそうな気がする。


「とにかく、さーちゃんについていくよ」

「……それ駄目」

「え?」

「さーちゃん呼びはウチの中で過去なわけ。ウチのことはさーやって呼べって言ったし。そういうこと!」


 ああぁ。調子に乗りすぎてたのか。せっかく昔っぽくなってきたのに。


「はいはい、しょんぼりしないしない! 楽しみだね~ナカくん」


 俺のことはナカくん呼びになってるけど気付いてないっぽいな。とにかく彩朱には可愛さを発揮してもらって、誰よりも早く仲良くなってもらわないと。

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