第10話 真性的で危険な約束

 四人目にして非常に危険な幼馴染、神城かみしろ珠季たまき。彼女に比べると街香がマシに思えてくるくらい、あらゆる意味で気をつけないといけない子だったことを思い出す。


 双子姉妹の街香と恋都、一番俺と仲が良かった彩朱。彼女たちは俺と同じ一般的な家庭環境の子たち。しかし珠季は根本が違う。


 珠季はいわゆる芸能一家で、どちらの親も経歴がある。珠季は両方の才能を備えた子役タレントというやつだった。俺は役作りに丁度いい相手だったとして、相手役によく付き合わされていた。


 珠季は思い込みが激しく、とことん役に入り込み――俺をる勢いで首を絞めてきたこともあった。


 そんな状態の時に苦しまぎれに言ったのが、


たまが欲しい……僕は生きたいし、守られたいよ」

「そうなの? じゃあ珠季をあげればいいのね? あたるくんのことは永遠に守ってあげるからね」


 ――などと言葉が歪曲わいきょくされ、珠季自身を欲しいと思われてしまった。しかも守るという意味も全く違う意味としてとった可能性が高い。


 幼馴染たちと別れの時もそうだった。


 珠季は俺との別れを特に悲しむことなく笑顔で送り出していた。今思えば、あの時の真性的な約束が珠季を変えてしまったのかもしれない。


「……はわっ! えっ? タマちゃんがいる! ど、どういうことなの?」


 しばらく沈黙していた恋都がようやく戻ってきたようで、見回しながら俺と珠季を交互に見つめだした。


「人をネコみたいな呼び方をしないでくれるかしら? 小さい……あなた、名前は何だったかしら?」

「ボ、ボクは恋都!! 小さいけど、名前はきちんとあるんだぞ! ナカ兄だってボクをきちんと呼んでくれるんだぞ」


 恋都と珠季は仲は良くないけど、四人の中では話が通じていたような。


「どうでもいいけれど、あなたここに来たのかしら?」

「もちろん本気だぞ! ナカ兄も一緒にやってくれるって言ったんだもん」

「…………」


 本気も何も絶対カフェじゃないよな。芸能事務所関係だと思われるが、それも違う気も。


「あのさ、ここが何なのか聞いてもいいかな?」

「それがあたるくんのお願い?」

「そ、そうだよ」


 何でも大げさに聞いてくるのが怖いところだな。


「それなら教えてあげる! ここは事務所でも何でも無くて、あたるくんとわたくしのお家兼、カフェなの。まだ開店出来る状態じゃないのだけれど、どういう風にしたらいいかしら?」


 話が違うといった感じで取り残されている黒ずくめの男たちの様子を見るに、多分ここは珠季の芸能事務所として作り直す予定だったのでは。黒ずくめの男たちはどっちかの連中だろうし。

 

「珠季の個人事務所とかじゃないの?」

「芸能? そんなの興味無いわ。あたるくんとの約束をした後、全部やめたの。偉いでしょ? だからわたくしを思いきり褒めて?」


 これは目がマジなやつだ。どうしてこんな危ない子になってしまったのやら。さっきまでテンションが高かった恋都が引いてるし。


「ど、どう褒めるのが正解かな……?」

も分からなくなったくらい、あたるくんはわたくしを忘れてしまったの?」


 真面目に分からない。俺が珠季と約束をしたのは、あくまで魂だとかを守られたいといった意味不明なことばかりだったし。


 褒めたりしたのも覚えが無い。


「……ナカ兄が困ってるよ? タマちゃん。それよりも面接の続きをしてよ~」


 まだここでバイトをする気なのか!?


 意外に恋都の方が強かったりするとしたら、珠季の暴走を何とか出来るかも。


「あぁ、学園に流したアレは嘘なの。カフェをやりたいのは本当なのだけれど、それはあなたではなくて、あたるくんとだけなの。その意味がお分かりかしら?」


 に引っかかるのは恋都くらい。何だかんだで恋都は純真無垢なわけだし、恋都を利用して俺をおびき寄せたと思われる。


「むぅぅぅ……ケチ!! 一緒にやらせてくれたっていいじゃん!」

「話が通じない人ね、全く……」


 さっきまで刹那的な気配だったのに、恋都のおかげで珠季が少しだけ和らいだか。


「それはそうと、あたるくん」

「え、うん。な、何かな?」

「街香ごときに殺されかけたって話は本当かしら?」

「えっ……」


 学園にすら来ていなかったはずなのに、一体どこから知ったんだ?


 学園のタブレット端末を使って嘘の情報を流すくらいだから不思議でもないけど、まさかだよな。


「あぁ、やはりそうなのね? わたくしの元から勝手に離れたからそうなるのよ?」

「でも俺、海外に行ってから長くて――だから、珠季と一緒にいるのは難しかったと思うんだけど……」


 話の流れ的に危険な気配を感じる。


「でもも何も要らないわ。とにかく、わたくしに守られさえすれば起きなかったことなのよ? そういう意味なの。それが分からなくて街香に殺されかけたのだから、いい気味ってものだし、ざまぁとしか言いようがないわ」


 結局そういう話になってしまうわけか。珠季の場合はざまぁの意味すら別物だけに、解決のしようがない感じになってしまうな。


「ナカ兄。そろそろ帰ろうよ!」

「そ、そうしようか? えーと……珠季は学校へは来てないの?」

「行く意味なんて無かったのだけれど、あなたの仇も討ちたいし近いうちに行くことにするわ」


 仇ということは街香と戦いを始めるつもりなんじゃ?


「じゃあカフェのバイトは~?」

「あなたまだいたの? しつっこいわね。どうしてもと言うなら、他のお店を差し上げるからそこでやって欲しいのだけれど、やる気はあるのかしら?」

「やるやる~! ね、ナカ兄」

「考えとくよ……」


 差し上げるということは、財力でどこかの店を買うってことに違いない。芸能をやめても、珠季は実際の令嬢で変わりないはずだからな。


 それにしても、四人の個性的な幼馴染がとうとう揃ってしまった。この中でまともなのは一体誰なんだろうか。


 純粋に仲良くしたいだけだし、幼い頃の約束を全て守れるわけでもないのに。それでも四人の中で仲良くなれそうで、かつ気が重くないのは恋都だろうか。


 あるいは――。

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