第7話 踏まれたり蹴られたりな日
後ろの席から彩朱の視線を浴びまくったその日の放課後。
別に変な意味でも無く、親に会わせる為だけに彩朱を家に連れてきた。教室で散々取り乱していた彩朱も、今ではすっかり大人しくなっている。
「あら~! さーやちゃん!?」
「お久しぶりです、お母さま」
さすがに親相手だとギャルじゃなくなるな。しかもお母さま呼びとか、昔からそんな呼び方してたんだろうか。
「さーやちゃんも相変わらず綺麗~!」
「いいえ~そんなことないです」
「一応聞くけれどあの子のこと、今もそうなの?」
「はい、変わってないです」
母さんと彩朱が俺を見ていたが何だったんだ?
「さーやちゃん、ゆっくりしていってね」
「はーい」
俺を見ていたのが気になるが、とりあえず彩朱を部屋に入れることに。
普通なら家に上がり込むのも緊張しそうなのに、親を含めた幼馴染の彼女たちは昔からお互いの家を行き来するくらい仲が良かった。その影響で変な緊張が無い。
恋都が当たり前のようにリビングにいたのも、そういう意味があった。
しかし彩朱は俺の部屋に入ったと同時に急に顔を
「言っとくけど、何もしないからね?」
「そうじゃなくて、酷くない? いくら何でも女子を部屋に入れる準備すら出来て無いのってあり得ないんだけど」
そう言いながら彩朱は部屋のあちこちを見ては、両ひざを抱えて座りだした。
酷いというのはおそらく部屋の汚さのことだ。海外から帰って来てすぐに編入した忙しさで、とりあえず寝られればいい程度しか片付けていない。
彩朱の言うように、天井の角や壁の端の辺りには蜘蛛の巣も少し見えていて、さすがにやばいと感じる。
「それはごめん。でもほら、ごみとかは無いわけだし」
「そういう問題じゃなくない? せっかく筋肉をつけてきたのに、部屋はそのままにしとくとか、本当あり得ないんだけど!」
筋肉と関係無いと思うが。
「う……君が帰ったら掃除する! 約束するよ」
「別にどうでもいいし。ウチがまた部屋に来るとか思ってる?」
確かにそうだ。しかし幼馴染の誰かが来るかもしれないし、綺麗にしておくのが良さそう。
それにしても学校の椅子に座っている時はそんなじゃなかったのに、家に帰って来てからまた痛みがぶり返してる気がする。
「うぅ、まだ痛いな……」
朝の出来事だったのに未だに痛みが残っている。ここで彩朱に向けて弱さを見せたくはないのにまだ違和感があるせいか、つい口に出してしまう。
「さっきからわざとらしく何を痛がってるかと思えば、街香ごときに何をされたわけ?」
「いや、その……握りつぶされそうになったというか~」
「何を?」
「だから股間を――」
そういって急所部分に指を差すも、
「そう、それはお気の毒。男を
――などと冷たく返された。
しかも手を出されたのは俺であって、出したんじゃないのに。
「えぇ? それだけ?」
「だから何? もしかしてウチに優しく撫でて欲しかったり、息を吹きかけて欲しいとでも思ってたりする?」
そんなことしてもらったら、非常によろしくない状況になってしまう。親が下の部屋にいるのに状況的にまずいだろそれは。
「言っちゃなんだけど、ウチにしてみればそれこそざまぁとしか言えないんだけど? しかも相手は街香。やられるのは目に見えてたし?」
やっぱり彩朱と世羅姉妹は仲が良くないってことみたいだ。しかしそんなにギスギスな関係だっただろうか?
「そんな……さーちゃんなら、それこそもっと違うこと言ってくれるかと思っていたのに~。俺のことも昔みたいに呼んでくれないし……」
「海外に行って成長したかと思えば、幼い頃のことをいつまでも夢見過ぎじゃない? それに、ウチが求めてることに気づいてないうちは呼んであげるつもりなんて無いから!」
「求めてる? 何だろ……俺って何かあげてたっけ?」
あるのは今のところ夢に出てきたのが彩朱くらい。しかしそれ以外に思い当たることがない。
「知らないし。いい加減ホコリまみれになりそうだし、そろそろ帰る――ひゃぅっ!?」
むむ?
立ち上がろうとした彩朱の動きが止まったけど、何かあったのか?
「む、無理~……ナカくん、早く殺して!!」
「へっ? 殺すって何を?」
「く、くくくくく、クモがいるんだってば! ほ、ほら、ウチの足の近くを歩いてるじゃない!! 早くしてってば!」
恐れていたことが起きたな。それもよりにもよって、昔から虫嫌いの彩朱のところに出るなんて。
蜘蛛の大きさはそれほどでもなく、手で払えばすぐにどこかにいなくなる感じだ。
「分かった、すぐに取るから落ち着いて。その場を動かずにいてくれればいいから」
「は、早く~」
彩朱の足の付近を軽快に歩いている蜘蛛に対し、中腰の姿勢で近づき彩朱の足に手を近づける。
――はずが。
「く、来るな来るな、来るなってばーー!!」
「さーちゃん、おち、落ち着いて! それ俺の顔――ぷげっ!?」
「いやぁっ!! 変な感触すぎ、キモいキモいキモい!!」
彩朱は足元すら見る余裕も無いようで、何度も何度も足踏みするように俺の顔を踏みまくりだ。
そうこうしているうちに蜘蛛はその場から離れ、俺の顔の横を通り過ぎようとしている。
「さーちゃん、蜘蛛が動い――ごげっ!!」
「あっちいけーー行けってば!!」
蜘蛛ではなく、彩朱の足は見事に俺の顔にクリーンヒット。踏まれたり蹴られたり、握りつぶされたり、きっと今日はそんな日に違いない。
とりあえずこれからは部屋を常に綺麗にしておこう――そんなことを思いながら、彩朱からの攻撃に耐えまくるしかなかった。
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