第8話 夢の中で窒息未遂!?

「んぇ!? く、苦しい……い、息が――」

「…………どうすればあたるくんに――をあげられるの?」


 何だ?

 誰かが何かを俺にくれようとしてる?


 しかも俺のことを呼びしてるじゃないか。ということは、四人目の幼馴染の――いや、その前に息が出来ないくらい苦しいぞ。


 現実じゃなくて夢の中のはずなのに、俺は何でこんなに苦しいんだ?


 とりあえず苦しくても返事をしなければ。苦しいまま死にたくないし。

 

 欲しいのはもちろん決まってる。


たまが欲しい……ほんと、それだけで――」

「……分かった、覚えておくから」


 ――などと、何故か夢の中で苦しんだのには理由わけがある。


 それは朝のホームルーム前にさかのぼる。


「え? 今の時点ですでに屋上に?」

「そうなんですよ~。正確には週に三回くらい? ホームルームどころか、登校してきてすぐじゃないかなぁ」


 街香の奴、どれだけ女子に手を出しまくりなんだよ。


「ホームルームをサボりすぎると先生も色々言われて大変なんですよ。ですので、遠西くん。街香さんをどうかよろしくお願いしますね!」

「でも俺なんかが行ったって効き目は無いですよ?」


 街香も幼馴染の一人ではあるが、すでにあいつの手によって大ダメージを受けてるし、出来れば関わりたくないんだが。


「いいえ、遠西くんが行くから効果があるんですよ~多分。それにですね、もうすぐ秋になるじゃないですか~。秋と言えばイベントが盛りだくさん! なので、一年生の段階でサボりを認めさせるのは本当に駄目なんですよ!」


 俺がここ陸郷の海学園に編入してきたのは、こっちの夏休みが終わった辺り。あと数か月もすれば二年生になってしまう。


 つまり街香の女子への手だしは、すでに一年生の段階でいることを意味する。


 元々女子だけの学園だったとも聞いているし、何とも言えない気分だけど。


「あ、空上先生。今と全然関係無い話なんですけど、アルバイトはしていいんでしたっけ?」

「ほほぅ? 冬に向けて勝負するわけですね?」


 何を勝負するのかまでは言わないでおこう。空上先生の反応を見る限り、絶対俺でいじりそうだし。


「そんなところです」

「うんうん。届けは出してくださいね~。というわけなので、屋上へ行ってくださーい」

「……そうします」


 彩朱さあやよりもかなり早く学校に来たのに、ホームルームが始まる前に空上先生に頼まれてしまったら、それはほぼ強制的なお願いになる。


 屋上に行くしかない――ということで来てみたものの。


「――どうされたい? そのトロけそうな目で教えてよ……」

「あ、の……街香さん、の指……で」

「いいよ。指ですれば――いいんだね?」


 街香の行為はいつも感じで始まっているようだ。イケメン女子なうえ、妙な雰囲気づくりを醸し出し、耳元で囁くアレで落ちるのは仕方が無い気がする。


 俺よりも力が強くて身長もあるし、勝てそうな要素が見当たらないんだが。


 襲われている女子の様子を見ると、顔が上気して目がトロンとしているし涙目になっているようにも見える。


 街香を責めるとしたら、泣かせていることを責めに使うしかなさそう。


「ま、街香!! 女子を泣かせるのは駄目だと思うんだ。だから、その子を解放してやった方が身のため――」


 俺の身の安全の方がやばい気がするな。


「……何だ、また来たんだ? それとも、お前って案外M?」


 見知らぬ女子に動かそうとした指を止めたかと思えば、街香はその手で何かを握るような動きを見せる。


「もちろん違う。そうじゃなくて、俺は街香が心配で……」

「へぇ……マチのことが心配なんだ? ふーん、そう。じゃあ、これからはナカ。お前がマチをどうにかしてくれるってことで合ってるんだよな?」

「へ? そ、そうじゃなくて……いや、心配は心配だけど。そもそもどうにかって言われても……」

「…………いいや? いいぜ? お前が約束を守れなかった罰として、お前に乗り換えるから」


 約束を守れなかった罰で思いつくのは、おそらく筋肉量と力の強さ。身長差は仕方が無いとしても、街香の力にあっさり屈したのはまずかった。


 俺に乗り換えると言われても嬉しさを感じないし、見知らぬ女子に睨まれまくっているのは素直に悲しい。


 女子たちの間では、嫌な行為では無かった?


「そ、それはともかく、俺は君に勝てる見込みが無い。どうすれば君を変えられるのか聞いてもいいかな?」

「何だ、そんなこと。マチがしてたことをすればいい。それだけだと思うけど?」


 街香がしてきたこと――女子たちを夢中にしてきた行為だろうか。それはあまりにもハードルが高すぎる。


 抵抗しないとも限らないし、大人しく言うことを聞いてくれる感じも受けない。一体何を考えてそんなことを言っているのか。


「出来ないなら、マチが手本を見せてやるよ。それこそ、女子たちみたいな姿に、ね」


 つまり襲われてしまうと、そういうことだろうか?

 

 しかしそれでは空上先生に言われたことを達成できないし、したことにならないのでは。


「街香。それは駄目だよ。俺は君を説得しに来ただけ――がっ!? ぐっ……く、苦しい……」

「面倒な奴に成り下がったな、ナカ。それなら今すぐ楽にしてやるよ……」


 これはまさかの首絞めか?


 しかもかなりやばい状態だ。俺の答えが曖昧だったかもしれないとはいえ、街香がこんなことをしてくるなんて……。


世羅せら街香まちか!! 今すぐその手を離すことをおすすめするわ!」


 何となく意識が朦朧もうろうとしかけたところで、誰かの声が響いた。


「――ちっ、戻って来たのか? それもこいつの為に……?」


 声の直後、俺は街香から解放されていた。


 次に目覚めた時は別のどこかに運ばれているに違いない――そう思いながら、屋上の冷たい床でそのまま横たわることにした。


「あたるくんを今すぐ運んで!」

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