第3話 帰宅したら妹!?

「はぁ~……ただいま」

「あら? ずいぶん早いけど、具合悪くした?」

「何というか何とも言えないんだけど……刺激的だったというか」

「ふぅん? それはそうかもね。あなたにとっては全てが刺激的だろうし」

 

 うちは基本的に下ネタ禁止な家族。なので、中身のことまで話す必要は無い。それは海外あっちで世話になったご近所ファミリーとのルールが関係しているからだ。


 日本に帰って来てもそれは変わらないことになった。


「んじゃ、俺は部屋に戻るよ」


 俺だけ午前で帰ってこれたとはいえ、何だか疲れたしとっとと休んでしまおう。


「待って。あの子が来てるから、早く再会してあげて」

「……あの子って?」

「もちろんあなたを慕っていた妹さんに決まってるじゃない。とにかく、リビングで待ってるから行ってあげてね」


 母から再会という言葉が出てくる時点で、幼馴染の誰かということで違いない。そもそも俺は一人っ子で、従妹いとこですらも妹のような存在はいないわけだし。


 とにかく勢い任せでリビングのドアを開けると、まるでピンポイントで狙われたかのように殴られたような衝撃が顎を襲った。上半身は鍛えていたものの、さすがに顎は無防備状態。


 一瞬ふらついて膝をついてしまった。


「……むむむ、いちちち」

「いいチチ? うん、成長したよ〜」


 見上げたところにいた子は、何故か自分の胸に手をやっている。


「顎の衝撃に驚いただけだよ。えーと、キミは……」


 妹と聞いていたのに、目の前にいるのはどう見ても小柄な男の子。しかしよくよく見ると、胸のふくらみが。


 意図的に帽子をかぶって黒い髪を短く見せているものの、雰囲気は完全に女の子だ。


「ナカにいでしょ? 再会したら抱擁するって約束してたもんね!」


 この子も俺のことをナカ呼ばわりか。そうすると四人のうちの誰かだな。しかし見ただけでは名前すら出てこないし、面影そのものも分からない。


 そもそも抱擁じゃなくて体当たりの間違いだろ。その証拠に、目の前の子の額の辺りが少しだけ赤くなっている。


「その前に……キミって妹なの?」

「キミ……? ナカ兄がそんなことを言う? ボクは妹だけど、まさか妹の意味も分からないとか言わないよね?」


 何の妹なんだ?


 妹で思いつくのは誰かの妹くらいなんだが。それに幼馴染たちの中でボクっ娘なんていただろうか。


 まぁ、さすがに俺にだけ使うキャラなんだろうけど。


「い、妹ってことは、姉もいるんだよね? 姉の方は来てないの?」

「あの人はボクの顔を利用して女子をもてあそぶのに忙しいから、来ないんじゃない?」

「そうなんだ……」


 女子を弄ぶ? 


 この子の顔ってどういう意味なんだ。美少年のような整った顔つきではあるが。


「……で、ナカ兄」

「う?」


 小柄なこの子は、何故か俺を下から覗き込むようにじっと見つめている。どうやらかなり怪しんでいるようだ。


 そう思って身構えていると、


「ボクとあの人とどっちをめとるか決めた?」


 などと、突拍子も無いことを言い放ってきた。幼い頃にそんな約束をしただろうか。


 そもそも恋すら成立したことないのに娶るなんて。


「えっと、娶るよりも先に恋を……」

「ボクをどうにかしてくれるってこと?」

「え?」

「今、恋って言ったから」


 恋愛という意味で言ったのに、恋に反応したということは名前に恋がつくのか?


 そうだとすると男の子っぽい名前でパッと浮かぶのは。


恋都こいと……ちゃん?」

? ふーん……やっぱり全部忘れてるわけか。だろうと思った。無駄に筋肉だけつけやがって、何様なんだよお前!」

「へ?」


 何か気に障ったことを言っただろうか?


 急に性格が男寄りになったし、何やら怒っている。


「俺は俺というか……」

「おれぇ? うわ、最悪。似合わなすぎる。どうせ何もかも忘れて向こうでよろしくやってた系なんだろ? 何とか言え! ナカ兄!!」


 怒ってても俺への呼び方は変えないのか。そもそも名前が違うんだが。


「えーと、ごめんね。正直に言うと、まだこっちでのことはよく思い出して無くて。だから――」

「だから呼び方も忘れてた。そういう意味なのか?」

「そうなる……のかな。ごめん」


 姉妹の幼馴染とはあまり仲良くしていた記憶がない気がするだけに、どうにも思い出せない。さーちゃんだけは夢にまで見たのに。


 そういえばさーちゃんも見つけてないな。


「今日は顎で済ませたけど、次は急所を狙う。見た感じも鍛えてないだろ、どうせ」


 そう言いながら俺の股間を睨んでいるのは気のせいだろうか。とはいえ、顎もそうだし急所は確かに筋肉のつけようがない。


「ど、どうかな……」

「あの人もやるだろうけど、ボクがこの手で直接潰すことは出来るからな?」


 何かを握り潰す動きを見せるのはやめてほしい。


「とにかく、学校で再会する時までに確実に思い出しとかないと、潰すよ?」


 何を潰そうとしてるのかは聞かなくても想像出来る。顎への衝撃以上の激痛が走るのは明らかだろうな。


「頑張って思い出してみるよ。ええと、また学校で?」

「……休み時間に呼ぶ。ナカ兄はどうせの席にいるんだろうし」

「あの女?」

「とにかく! 猶予は与えたから! それまでに思い出したら揉ませてやるから、せいぜい足掻け、バカ野郎!!」


 てっきりリビングのドアを思いきり閉めていくかと思いきや、それはさすがにしていかなかったようだ。


 それにしても思い出したら揉むとか、肩でも揉ませてくれるってことだろうか。とにかく無理やりにでも夢を見て姉の方の名前も思い出さないと……。

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