第17話 人形
ヘレンが女子寮の談話室に行くと、数人の生徒が待っていた。
「最近ちょっと男子がこそこそしててさ」
何でも、見知らぬ女子生徒が学内でいろんな男子とデートしている姿を目撃されているらしい。新入生でもないし、問いただすとどうにもそれが魔法(オート)人形だったというのだ。
淡いピンクシルバーの髪の可愛い女の子だそうで、男子寮でひそかに匿われた彼女は男子の間でお姫様扱いされているという。
「別に、魔法道具くらい……」
「なんで実際の女子を誘わないのよ!?」
「どうせいやらしいことしてるんじゃないの! そんなもの学校に持ち込んでいいの!?」
「さ、さぁ……」
持ち込みに何か規定があるわけではない。
それこそ腐っても国立魔法学校生徒、自己責任というものである。
「教授や寮長には言ったの?」
「もう大人なんだからって」
「まぁそりゃ……」
「だからヘレン!」
呼びに来た子が、ヘレンの手を掴んだ。
「――デリックに、そういう感じの男の子を作ってもらえないかな!」
◇ ◇ ◇
翌日のお昼時間に聞いてみた。
場所は中庭の木陰だ。ちなみにメニューはヘレンが食堂で調達してきたサンドイッチである。
「魔法人形……?」
「男子寮で流行ってるって。本当なの?」
「……」
「流行ってるのね」
ぎくりとデリックが身体を震わせた。
「まさかデリックが開発したとか」
「……いや、うん、ううん」
目をつむってそっぽを向く。……怪しい。
「見たことは?」
「……その」
彼をじっと見ていると、しばらくして口を開いた。
「ある! あります! ……男子寮で大切にされてる、のが」
「やっぱりそうなんだ」
「みんなに、……女子には、内緒だからって」
「それって真似てつくれる?」
「……顔のサンプルをもらえれば……」
ヘレンは鞄からファイルを取り出した。
「女子アンケートで決めたイケメン、ショタ、イケオジで三パターン作ってみた。身長から体重まで決めてあるから」
「仕事早すぎない?」
デリックがそれを受け取って眺める。
「この場合身体は人工皮膚で覆うの? 筋肉と骨を準備するのが大変じゃない」
「強度がなくていいなら、代用品のゴムと木や鉄でなんとか。直立させるバランスが悪いから、ちょっと数値弄ってもいい?」
と言いながら、そこに訂正値を書き加えていく。
「……あー……あれはいる?」
「あれ?」
聞き返すと、彼はもごもごと口を動かして指を下に向けた。
「……それは聞いてこなかった。今決めたほうがいいの?」
「ん、まぁ。あるなしでバランスが変わるから」
「へぇ」
設計書を見て、デリックを振り仰いだ。
「女の子型は、そういうのは付属してる?」
「……っ」
わかりやすくデリックが肩を震わせる。
ぎぎ、と首をきしませてつぶやく。
「さ、さぁ?」
「そっか知らないよね、作ってないもんね」
「う……」
「じゃあそれはまた聞いてくるけど、どれでもいいからサンプル納品お願いね」
お願い、で微笑んで顔の横に両手を揃えると、デリックが簡潔にうなずく。
「わかった」
「……デリック」
ふに、とその頬を摘んだ。
「そんな簡単に承諾してるんじゃないわよ。最近よく研究所に行くし、忙しいんでしょ」
「でも、俺が引き受けないと困るんじゃないの」
「……まぁ、それは」
「ヘレンの希望はなるべく叶えたい」
それはなんの気負いもない言葉だった。
人けのない裏庭を優しい風が通り過ぎて、ヘレンの髪を揺らした。ぎゅっと胸に手を置く。
デリックはいつも温かい。だからこそ、自分の身勝手さが嫌になる。
「……そういうこと、言わない方がいいよ」
「ヘレンにしか言わないよ」
そんな婚約の約束も期限は少しずつ確実に近づいていた。
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