第16話 ヒマ

「……ヒマ」

 自室の勉強机に座って頬杖をつきながら、ヘレンは呟いた。


「えぇぇぇ嘘でしょヒマすぎる……!」

「あのね、それが普通なの」


 反対側の壁に向けて置かれた机に、背中あわせに座っているアンリエッタが椅子をくるりと回した。

「そもそも行事だのボランティアだの全部やってたヘレンが異常!」

 羽ペンを突きつけられる。


 あのプロム以来、ヘレンは仕事をお願いされることが激減した。

 デリック関係で嫌がらせは全くない。それどころか、ヘレンを見るとびくびくとあからさまに逃げていく。


「私、何したらいいの?」

 頼みごとがなくなったので、することがない。勉強ですら自分たちでできるからと言われてしまった。

「したいことはないの?」

「……誰かの役に立って誉められたい」

「重症ね」

「アンリエッタぁ、何か用事ない?」

「嫌! あんたの婚約者が怖い!」


 頑なに首を振られ途方に暮れる。

 宿題も来週の予習も終えた休日の午後に、何をすればいいのかわからない。


「クッションでも持ってソファで昼寝したら?」

「……昼寝」

 とりあえず言われた通りにする。


 ソファの近くにある窓からは心地よい風が吹いてきた。

 見上げると抜けるような青い空に白い雲が浮かんでいる。


 校内を見回せば、生徒達が思い思いに時間を過ごしていた。デートをしているカップルもいる。三年生が卒業し、一年生が入ってまた学校は賑やかになった。


 それをぼんやり見ていると、デリックが正門から入ってくるのが見えた。


「……」

 王立研究所からの帰りだろう。

 入学してすぐに国王陛下にも目をつけられていた彼は、特別許可を得て土日は泊まり込みで魔法研究に打ち込んでいるという。

 デリックの視線がふとこちらを向きそうになって、なんとなく身を隠した。


 そこで、コンコンとドアがノックされる。顔見知りの同級生が扉を開けた。

「ヘレン、こんなことを言うとデリックに殺されるかもしれないんだけど、……ちょっと女子みんなからお願いが、あって」

 ヘレンはクッションを放り出した。

「何でも言って! どうしたの?」

「人形のことで……」

「人形?」

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