おはしさま 連鎖する怪談/三津田信三、薛西斯、夜透紫、瀟湘神、陳浩基

 日本・台湾・香港の作家たちによる、はしをテーマにした変則的なリレー小説『筷:怪談競演奇物語』の日本語版である『おはしさま 連鎖する怪談』を読みました。

 一口に怪談といっても、作家ごとに毛色が違ってて楽しかったです。


 一番手は、信三しんぞうの「おはしさま」。

 ある女性が聞き手となる人物に、箸を使った奇妙なおまじない〈おはしさま〉について語るお話です。

 女性はそれを、小学生のころ転校してきたちょっと変わった男の子から教えてもらったのですが、おまじないをしてるときに見る不思議な夢や、学校に来なくなった男の子の家を訪ねていったときの恐ろしい体験など、まさにホラーという感じでした。

 〈おはしさま〉とはなんなのか、結局最後まで真相がわからず、モヤモヤするのもホラーならでは。

 私はこのモヤモヤがキライで、白黒はっきりさせてくれぃって、ホラーを見る (読む) たび思うんですが、今回もやっぱり思いました。


 二番目は、台湾の作家・薛西斯クセルクセスの「さんの骨」。

 結婚を目前にした女性が道士の元をたずね、中学生のころ、同級生の少年との間に起きたことの真相を見つけてもらおうとする話。

 少年は、〈ワンシィェンジュン〉という神様の宿る箸をお守りのように肌身離さず持っていたんですけど、あるときそれが一本だけなくなってしまうんですよ。

 女性の語る中学時代の思い出は、ノスタルジックで甘酸っぱくてほろ苦く、きゅんとしました。

 私はこの話が一番好きです。

 探偵役のイケメン道士がとってもステキだったので、彼が主役を務めるマンガ『不可知論偵探』も気になってしまいました。

 民俗信仰×嫌疑推理なんて、絶対好きなヤツですからね。

 紙の本欲しいけど、海外の本がまともに届いたことない (汚れがべったりついてたり、日本にくる途中行方不明になったりした) から迷ってます。


 三番目は、香港の作家・とうの「呪網の魚」。

 動画の配信中呪いの箸で食事をし亡くなった恋人の男性を、実は殺したんじゃないかと疑われてる元インフルエンサーの女性が、都市伝説の幽霊〈グワイ新娘サンネウ〉を名乗る何者かからメールをもらい、〈鬼新娘〉のたたりともいわれる彼の死の真相を探すことになる話。

 誰がどうやって殺したのか?

 動機は一体なんなのか?

 〈鬼新娘〉の正体は?

 いくつもの謎にワクワクしました。

 描写が好みで、続きが気になり、一気に読んじゃったくらい面白かったです。

 怪異要素あんまなかったなぁ……とか思ってると、最後ドキッとします。


 四番目は、台湾の作家・シャオシャンシェンの「わにの夢」。

 カワイイ娼婦の女の子と作家の女性、過去と今、交互に話が進んでいきます。

 台湾の女性に対する因習、そして「おはしさま」と「珊瑚の骨」の登場人物やエピソードが出てきて、モヤモヤした〈おはしさま〉の真相も明かされました。

 ハッピーエンドとはいいがたいかもしれないですが、すべてを丸く収めたいい話だったと思います。


 最後は、香港の作家・陳浩ちんこうの「ぎょがい」。

 「呪網の魚」と「鰐の夢」の登場人物が再登場して、世の中の不思議な事件を調査してる探偵さんと、〈おはしさま〉がらみの案件にけりをつけるべく「珊瑚の骨」に出てきた〈王仙君〉の宿る箸を探す話。

 〈おはしさま〉もついに姿を表し、残る謎すべてが明らかになります。

 最初のお話と全然雰囲気違って、これもう絶対ホラーじゃないけど、スッキリとしたハッピーエンドで、文句なく面白かったです。


 また別のテーマでこういう本を出して欲しいと思いました。

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最近、こんな本を読みました。 一視信乃 @prunelle

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