或る親子

神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ)

第1話

 新生児突然死症候群。

「子供は訳もなく、死ぬ生き物だよ」

 暗い室内から、我が親友の表情を窺う。よく手入れされた日本庭園と相まって一条の絵巻物のようだった。片膝を立て、腕を置いている。

「まあ、彼は新生児ではなくて、幼児だろうがね」

 十一月には、七五三のお祝いをするはずだった。私の腕の中で、赤子がむずがる。実子ではない。

里見さとみが、君にごめんなさいと言っていた」

 心当たりがない。あんなに可愛い子供を私は他に知らない。慣れぬ子育てで、この子に対して可愛いと感じる余裕もまだない。

「その子は、死人から産まれた子供だ。近い将来、きっと近所の子らはその子を怖がるだろう。子供は知らなくとも、親が知っているからね。だから、里見が亡くなってしまった今、その子には友人となる子供が居ない」

 はっとした。職業柄、死は日常そのものだ。私は初めて、恐ろしくなったのだ。私は、親になるべきではなかったのではないか。

「私は、間違ったのか」

 親友は、微笑んだ。

「その子が大きくなったら、我が家に遊びにおいで。その頃には、家にも、いい遊び相手が居るだろうからね。里見が教えてくれた」

 言葉にならない。どうして。どうしてあの子が、選ばれたのか。私は、声を絞り出し、泣いていた。

「どれ、ミルクを作ってきてあげよう」

 親友は、立ち去った。私は、赤子を想った。この子は、数え一つで、母親と無二の親友を失ってしまった。しかし、希望は確かにあるのだ。顔を上げると、真実味を持った、桜の薫りがした。


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或る親子 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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