第25話 死神のカナ
カリナの行動に納得がいかないユキと自分より弱い存在に感謝などしないと告げるカリナ。この二人により場の空気は災厄な状態。
「だいたいアンタたちはなんなんすか?途中から見てたって言ってたけど、それなら俺たちのことを助けてくれても良かったんじゃないんすか?もし俺たちがやられてたら、彼女だって死んでたかもしれないんすよ」
「もしそうなっていたら、しずくだけを助けていたわ。今のしずくがどれだけ成長したのか確かめる必要もあったから手を出さなかっただけよ。正直言ってエリア1程度のモンスターに苦戦している辺りあなたたちはクローバーの新メンバーでしょ?なら素人がこっちの問題に関わらないでもらえるかしら?」
スペードに参加して以降、しずくが他のチームと関わる機会はほとんどなくなっていた。同じブラスト隊のハートチームの人と少し会話をする事はあったが一緒に戦うと言う事はほぼない。だからこそ私は心を鬼にして観察していた。途中からではあったけれど、見ていた限りしずくはモンスターを怖がらなくなっていた。それが分かっただけでも十分。初めの頃に比べれば大きな成長と言ってもいいはず。
「しずくの成長が見られたことには感謝しているわ。でもそれだけ。私たちが助けに入ってたら、あんなゴーレムすぐに倒せた。だがラオレイなんて必要ないって言っているのよ」
「はぁ!」
ユキは彼女の胸ぐらを掴んだ。アベルとサイが慌てて止めに入る。
「ちょ!やめーやユキ!あの子の指示の赤毛でワイらは死なずに済んだんやから」
「そうだぞユキ!君の気持ちだって十分理解できるが、今争っていても仕方がないだろう!」
ユキは腕を離した。そして一度ため息をつく。
「こんなに馬が合わない奴、この世界にもいるんだな」
ユキはある二人のことを思い出していた。実際には会った事はないが、現実世界にいた時に本当によく遊んでいたとある二人を。
「あの、カリナさん。この人たちがいなかったら私は本当に危なかったです。私がこんなこと言える立場じゃないのは分かっているんですが、もう少し...」
しずくは分かっていた。カリナは自分のためにこんなことを言っているんだと。今この人たちと良好な関係になってしまったら、8代目の生き残りとしずくを接触させてしまうことになると。だからこそ、きつい言い方をしてでも今は距離を置いたほうが良い。それは十分分かっていた。でも黙っていられなかった。大好きな彼女が胸ぐらを掴まれてまで自分を守ろうとしてくれているこの状況に耐えられなかった。カリナのことを大好きだからこそ彼女が嫌われていくこの状況に耐えられなかったのだ。
「私は大丈夫ですから。だから、そんなこと言わないでください」
しずくはカリナの目を見つめた。そして訴えた。もうこんなことやめてくれと。
「なんか盛り上がってるとこ悪いんっすけど〜アンタら誰っすか〜?」
いつの間にか、サイ達の後ろから誰かが近づいてきた。黒いコートを着ている男性。そして手には銃を持っていた。ピストルのような銃ではなく何発も連写できるようなかなり本格的な銃。サイ達は彼を知っていた。初日の飲み会でやたらと強い酒を飲んでいたあの人物。
「どうも〜クローバーのJジャックゼンっす〜」
彼はずっと一人で動いていた。昨日の朝から誰とも関わらずに一人でゲームを攻略しているかのようなノリで探索を続けていた。その途中に今ここで、彼らに出会ったのだ。9代目クローバーの新規メンバーでJジャックに選ばれた実力者。彼が今まで一人で生き残ったことを考えても普通のプレイヤーとは少し違うことが窺える。ナトやシド、ユズにミカなど他のクローバーのプレイヤーは皆誰かと一緒にモンスターと戦っていた。初心者なのだから戦い慣れていないのは当たり前。しかし彼は一人で旅をしていた。それが彼にとってのポリシーでもあるのだが、普通トライ・ランドでは初心者が一人で生きる事は難しい。彼自身も気づいてはいないが一人で戦い続けたゼンの戦闘力は相当上がっている。
「お前なんでこんなところに?」
真っ先に質問をしたのはサイ。質問をしたかったと言うよりは場の空気を変えたかったのかもしれない。
「いや〜ずっと他のエリアを探索しててな〜ちょうど、この北側がラストだったんだよ」
俺の言葉に嘘はない。本当に旅の途中で皆を見つけた。でも本当は話しかけるつもりはなかった。俺は一匹狼のゼン。少し立ち聞きしたらすぐにその場を離れようと思ってた。だが、そこの女の話し方を聞いているうちに一つ気になることが生まれた。
「いきなり話に入ってきたかと思えば、またクローバーの新入り?こんなところで油を売っているなんて全く君たちは」
「いや〜さっきからずっと気になってたんだけどさ〜もしかしてお前カナじゃね?」
「...え?」
場が静寂になった。そしてカリナは何かを思い出そうとしていた。トライ・ランドに来る前のことを。
私をカナと呼ぶ人物。それはこの世に二人しか存在しない。私はゲームをよくプレイしていた。両親が家にずっといなくて暇だったから始めたと言う、ただそれだけの理由だが私はある一つのゲームに没頭していた。銃や剣、異能力を使いマップ上にいる敵チームを倒すゲーム。敵を倒すこと以外に何もルールがないのが私は好きだった。敵を待ち伏せしたり、共闘したチームを裏切ったり、何をしてもいいこのゲームは私にとってストレス発散作業に近かった。毎日7時間以上プレイし続け、いつの間にか私はゲームの中で死神のカナと恐れられていた。私と出会ったら必ず殺されるなどと言う噂が広がり、私はゲーム内の有名人になっていた。別にそれが嫌だったと言うわけではない。私はいつも一人で敵チームを倒し続けていた。襲いかかってくる敵を返り討ちにするその快感に私は酔いしれていたのだ。だからこそ、あの二人に出会った時の衝撃は忘れない。忘れるわけがない。
ある日私は古い駅で敵チームを襲おうとしていた。相手は自分に気づいていない。相手は9人。おそらく異能力者4人に魔法使いが一人。そして剣士が4人とバランスのいいチーム。だがこの手のチームは今まで何度も倒してきた。私の武器は短剣。この武器の理由は素早く移動出来るからである。相手に姿を見られることなく瞬時に撃破。これが私のスタイル。そして飛び出そうとした瞬間、衝撃が走った。
「動くな」
突然首元に銃が向けられていた。後ろには男が立っている。おかしい。さっきまでは絶対誰もいなかった。
「あいつは俺の獲物だ。お前は大人しくそこで見ていろ」
男はそう言うとすぐに飛び出していった。私ほどのスピードではない。あんなのすぐに見つかって返り討ちに会うに決まっている。
そう思った。
だが現実は違った。
敵チームは何故か男に気付いていない。よく見ると男は微妙に相手からは見えない位置を移動していた。あとほんの少しずれていたら間違いなく敵に見つかっている距離。まさに神技とも言える。
そして男はあっという間に敵チームを全滅させた。敵チームは突然仲間が死んだことに混乱したまま、一人、また一人と気付けば最後の一人が倒されていた。
この男は一体何?
私は素直にそう思った。今まで自分が圧倒される力を持つプレイヤー。自分より強い存在に出会ったことがなかったのだ。彼こそがこのゲームで私に続く実力者であり、私を探していた暗殺者だった。
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