第24話 VSゴーレム
「元クローバー???」
サイは混乱した。そもそも彼らはツルギとメイから8代目のことを何も知らされていない。自分達が9代目であることもこの世界のメンバーが入れ替わっていることさえもよくわかっていなかった。
「おい!そこの君。しずくと言ったか、何でもいい!これからどうすればいいか教えてくれ!」
アベルは戦場に置いて他のプレイヤーより冷静な判断ができる存在だった。慌てているユキを引き留めながら先ほどのしずくの言葉を冷静に判断し、彼女の指示を仰いだ。
「ユキさんとアベルさんはゴーレムの両サイドから攻撃してください。一回攻撃したらすぐに移動してください。サイさんは隙を見て頭を狙ってください。」
この3人はまだ戦闘経験がほとんどない初心者の筈。でも二人で攻撃を分散させながら攻め続ければ正気はある。さっき自分が攻撃されていた時ゴーレムの攻撃速度はかなり遅かった。二人が気を引いている内にサイさんの鎌で大きい一撃を入れることができればきっと勝てる。
「おぉう!よくわかんねぇけど、とりあえず行くぞ!俺は右だ!」
「待て!ずるいぞユキ!右の方がどう考えても安全だろ!?早い者勝ちは卑怯だぞ!」
ユキとアベルは相変わらず言い合いをしながらもゴーレムへと走ってゆく。確かにさっきからあのゴーレムは右腕しか使っていない。なら左腕を担当した方がどう考えても有利である。
「ワイは隙を見て頭って言うとったけど、あいつの弱点は頭なんか?」
「いえ、何となく頭を攻撃したら倒せるかなって思っただけです」
しずくの戦況を読む力は相当なもの。しかし今まではその力を出し切ることができていなかった。姉に依存して生きていた彼女にとって司令塔として圧倒的に不足していたもの。それは自信である。自分の考えが正しいのかどうか自分で判断することができない。だがらこそ姉に頼っていたのだ。姉に自分の考えを話し、それが正しいのなら代わりに姉に指示を出してもらっていた。しかし今は違う。スペードの仲間との日常を過ごす内に彼女は自分の考えに自信を持てるようになっていた。しかし彼女はまだ姉の死を乗り越えることができたわけではない。だからこそ彼女はまだ完璧な存在とは呼べない。カレンが持っていたものを彼女はまだ持っていないからだ。
アベルの予感通り、ゴーレムの攻撃はほぼ全てアベルに集中した。アベルの武器は盾に短剣のため攻撃をかわしやすい。万が一当たりそうになっても盾で防ぐことができるので今の人選の中では一番受け役に適任であった。しずくも攻撃を食い止めてくれる存在は盾を持っているアベルこそが一番ふさわしいと気づいてはいたが言い出すことができなかった。同じスペードチームの誰かだったら言い出せたかもしれないが相手は初対面の敵チームメンバー。しかも彼らはかつて自分が所属していたクローバーチームだとはまだ知らない。エリア1にいる初心者という時点でクローバーチームと推測する事は簡単だが、緊急事態のためそこまで考える事はできなかった。アベルが自然な形で受け手になってくれたことに少しホッとしている。
「そっち行ったぞ!」
ユキが二人に向かって叫ぶ。振り返ると、ゴーレムがまっすぐこちらに向かってきた。しずくは攻撃する手段をほぼ持っていない。一つだけあるにはあるがあんな大きいゴーレム相手に通用するわけがない。そんな事を考えている内にゴーレムはもう目の前。すると、横にいたはずのサイはゴーレムに向かって突っ込んでゆく。
「え?!何を?!」
「アンタがやられたら、ワイらが困るんや!ここはワイが食い止めるから、アンタはもっと遠くに!」
サイは鎌を振り回しながらゴーレムに突っ込んだ。ゴーレムに鎌は刺さり一時的にゴーレムの動きは止まった。
「今や!しずく!」
サイが叫ぶのを合図にしずくは持っていた短剣を使い木の上に移動した。ゴーレムは木の上を見上げることが出来ないためここなら安全に指示を出すことができる。
「アベルさん。そのままゴーレムの攻撃を交わし続けてください!サイさんは後方から。ユキさんは隙をついて左から攻撃をお願いします!」
『了解!』
しずくは装備していたB級スキル、意思疎通を使い3人に指示を出していた。3人にとって意思疎通による指示は初めての体験だったが今はどうでも良い。今度こそゴーレムを倒すために動き出した。アベルはさっきよりも正確にゴーレムの動きを交わしていた。おそらく彼自身は物事を覚えるスピードが相当早いのだろう。しずくはアベルの動きに感動していた。自身の所属しているスペードチームにもアベルのような逸材はいない。彼にはおそらく才能がある。戦場に置いて必要不可欠なある役割の才能が。しかし今は冷静にそんなことを考えている場合ではない。3人のことをサポートしなければならない。アベルに攻撃が集中しているおかげでユキとサイの二人は少しずつだが確実にダメージを与えてゆく。剣を使っているユキとは違い、サイは疲れ始めていた。鎌の練習をし始めてからまだ数時間しか経っていない。ただでさえ疲れる鎌をもうずっと振り回しているのだ。もう体力の限界を超えている。しかし攻撃を止める事はできない。自分が攻撃をやめてしまったらユキの負担が増えてしまう。仲良くなってからまだ数時間しか経っていないがそんな事は関係ない。この二人はアズと同じ、心を許した数少ない存在。絶対に一緒に倒したいのだ。
そしてゴーレムは地面に倒れた。その隙に全員でゴーレムを攻撃する。何だかいじめのようにも見えるが、やらなければこっちがやられるため手加減はしない。
そしてついにゴーレムは光に包まれ消滅した。しずくの作戦がうまく機能したおかげで初心者の3人だげでも倒すことができたのだ。
「おっしゃ!!勝った!!」
「うぉぉ!やったぞ!!」
ユキとアベルは大きく叫んだ。このサイズの敵を倒すのは初めてだったので感動も大きかった。
「やったわ。ようやく休める」
サイは地面に転がった。もう両腕がパンパンになっていた。できるのならこのままベットで眠りたい。
「良かった...本当に...」
しずくも一安心した。自分のせいでこの3人を巻き込んでしまったからこそ絶対に死なせるわけにはいかなかった。こんなことになっていると知ったらきっとあの人は怒るだろうな。そう考えながら木から下へと降りる。
パチパチパチ
後ろの方から突然拍手が聞こえた。全員慌てて振り返ると、そこには男女二人が立っていた。一人は赤髪の女性。もう一人はフードをかぶっているため顔はよく見えない。
「おめでとう。しずく、一人でよく頑張ったわね」
赤髪の女はしずくに近づくと彼女を抱きしめた。その瞬間にしずくは涙が止まらなくなっていた。ずっと冷静を装ってはいたが、本当は怖くて仕方がなかった。仲間がいない状況に。
「ごめんなさい。私、私」
「途中から見ていたけど、私が教えた事は無駄じゃなかったみたいね。立派だったわ。でも、黙っていなくなった事は許さないわよ?」
そう言ってしずくにデコピンをする。なぜかデコピンをされるとしずくは笑った。この行為はスペードにとっては日常的な事であり安心する行為だったからだ。
「まぁ、どうして勝手にいなくなったのかはあとで聞かせてもらうわ。ひとまずここを離れましょう」
そうしてしずくを連れて赤髪の女はその場から離れようとした。
「ちょっと待ってくださいよ。俺たちのことガン無視っすか?」
彼女の行動に納得がいかなかったユキは行く手を遮った。
「君たちは私にお礼を言って欲しいの?残念だけれど、私は自分より弱い人間に感謝なんてしないわよ?」
「へぇ、言うじゃないっすか。俺らがいなかったら彼女は今生きてませんよ?」
ユキと赤髪の女は睨み合っていた。
この二人の出会いは、後の運命を大きく左右することになるのだが当の本人たちはまだそのことを知らない。
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