第23話 クローバーかスペードか

8代目クローバーチームの内の10人は城の中のトラップ部屋に落ちてしまった。そしてトラップ部屋の蜘蛛型モンスターによってクローバーチームは壊滅。あの部屋に落ちてしまったプレイヤーの中でただ一人の生存者。それこそがしずくという少女。カレンという名の姉に助けられ、彼女は偶然エリア2からエリア1へ買い出しに来ていたスペードのKキングカリナに出会った。


しずくは街を走り続けていると、果物屋から出てきた人物とぶつかってしまった。果物があたりに散乱し店から出てきた彼女は頭を抱えた。

「あらら、これじゃ買い直さないとダメね。青龍部隊の人たちへ渡すものだしこのままって訳にも...」

彼女は目の前で倒れ込んでいた少女を見た。よく見ると彼女は泣いていた。

「え?!ご!ごめんなさい!そんなに痛かったかしら」

彼女は慌てて少女に近づいたが、少女は泣き止まなかった。しかしどこかをぶつけたような様子も無く彼女は困惑した。そしてリングを触ると残り体力が表示される。彼女の体力は危険なレベルで低いわけでは無かったがかなり減っていた。街の中にいるだけではこうはならない。もちろんさっきぶつかった時のものでも無い。あの程度の衝撃で相手の体力がこんなに減るのなら自分は本物の怪物だろう。彼女は察した。この少女は痛みなんかで泣いているのではない。恐らくここに来るまでに何かあったのだろう。エリア1にいるという事は恐らくクローバーチーム。クローバーに手を貸す理由など一つもないが、このまま放っておくのも夢にが悪い。彼女は話だけ聞いてやることにした。

「ここじゃ目立つわね。場所を変えましょう。あなた一人なんでしょう?話ぐらいは聞いてあげるわ」

少女は泣きながら立ち上がると、彼女に会釈した。

「いえ、別に良いです。じゃあ」

少女はそのまま立ち去ろうとした為、慌てて引き留める。腕を掴み逃げれないようにした。

「貴方、クローバーよね?恐らく誰かが死んでしまったから今泣いているんでしょう?でもね、トライ・ランドで人が死ぬのは当たり前の事。誰かが死んだぐらいでいちいちそんな状態になっていたら、この先生き残れないわよ?」

かなりきつい言い方をしたが、本当はそんな事を思っているわけではない。確かにトライ・ランドで人が死ぬのは当たり前と言っても良い。だが彼女は、仲間が死ぬ現実は軽く思っているわけではない。

「もう、生きていたって意味ないです、、、お姉ちゃんがいないのに、、この先どうやって...」

「とにかく場所を変えましょう。ここであったのも何かの運命かもしれない。何があったのか話してごらんなさい?人に話したほうが楽になるわよ?」

少女は今、姉と言った。恐らく姉が死亡してしまったんだろう。しかしそれが本当なら、尚更話を聞く必要があった。トライ・ランドに家族と一緒に召喚されることはほとんどない。もし自分の親などが一緒にゾンビシアターの脱出ゲームに参加しても、恐らくそこでゲームオーバー。トライ・ランドにたどり着くこそすら出来ないだろう。自分の朱雀部隊の中にも家族がいるプレーヤーは一人もいなかった。彼女が知る限り目の前のこの少女はかなりレアな存在。この表情を見るに、もしこのまま放っておいたら彼女は自殺してしまう可能性だってある。だからこそ、無理矢理にでも連れて行く必要があった。このまま死なせない為にも。


しずくが連れてこられた場所は、9代目のクローバーチームが飲み会をしたあのお店と同じだった。クローバーと書いてある部屋の隣にはスペードと記されている。二人は13個の椅子が並べられている部屋に二人で座っていた。本来ならクローバーチームのしずくはこの部屋に入る事はできないのだが、クローバーはさきほど壊滅したため今のしずくはどの子チームにも属していない存在。今この瞬間だけしずくはスペードルームに入ることができた。

「そういえば、まだ名乗っていなかったわね。私はスペードのKキングカリナ。ブラスト隊の...いや、貴方はまだ知らないわよね。」

「しずく...です..」

しずくは下を向いていた。その表情は、絶望そのものだった。カリナは無理に話を聞き出そうとはしなかった。何も言わずにただずっとそばにいる。やがて、しずくは口を開いた。

 しずくはクローバーチームに起こった事を、敵チームのカリナに語った。カリナにとってそれは別のチームが勝手に壊滅した事であり、自分達スペードチームには何の関係もない。だが今の話が全て本当なら、姉を失った彼女は果たしてどうなるのか?このままクローバーに残り続けて、再び立ち上がる事はできるのだろうか?そんな考えが頭の中にはあった。

「これからどうするつもり?チームには戻らないの?リングを確認してみたのだけれど、何人かは生き残っているみたいね」

しずく以外に生き残っているメンバーは3人。このまま何もしなければ、再びクローバーチームとしてゾンビシアターへと転送される。彼女の話を聞く限り、このままみんなの元へ帰らせるのが正しい判断なのかもしれない。

「私は...もうどうしたらいいのかわからないんです。お姉ちゃんなしでこれからどうやって過ごせばいいのか...」

「なら、私のチームに来なさい。必ず貴方を強くしてみせるわ」

「え...?強くってどうやって...」

「強さっていう言葉はさまざまな意味がある。貴方のお姉さんは確かに強かったのね。でも生き残った貴方はもっと強くなれる素質を持ってる。このままクローバーに残り続けても貴方は強くなんてなれないわよ」

戦闘力や行動力、心や体など強さという言葉にはいろんな意味がある。彼女はこの子を育てたいと考えた。このまましずくがクローバーに残り続けたとしても恐らく姉の死が重荷になって戦い続けるのは難しいだろう。だから自分達が教えるのだ。この世界の生き方を。姉の死を乗り越えることができたその日、彼女は本当の強さを手に入れることができる。

しずくは少し考えた。ツルギやメイのところへ戻ったとしたらどうなるのか。なぜ自分だけ生き残ったのか聞かれることもあるだろうが、あの優しい先輩たちが自分を責めるとは思えない。シドだって恐らく生きているから四人でまたやり直すこともできる。でもその未来にカレンはいない。先輩たちが新しい仲間とまた仲良くしている姿を想像しても、そこには自分が大好きだった8代目のみんなはもういない。新しい9代目の仲間がこの世界に慣れてきたらいずれ8代目に何があったか知ることになる。そうなったら自分はどうなるだろう。毎日毎日辛いことを思い出しながら過ごさなければならないのか。自分の胸の傷をほじくり出されながら生きる日々。そんな未来を想像するとたまらなく怖くなってしまった。クローバーに残り続ける日々と別のチームで新しくやり直す日々。二つの道を想像すると答えは簡単だった。

「まぁ、こんなことすぐには決められないでしょうね。私はエリア2に戻らないといけないから、貴方は明日」

カリナが話している途中に、無意識に腕を掴んでいた。それはもう体が無意識に出した答えそのものだった。

「お願い...します。私を、貴方のチームに入れてください。私を...もっと強くしてください!」

今はクローバーチームへ戻る事はできない。だからこそ彼女はスペードを選んだ。不登校になってしまった人間が転校を機に人生をやり直そうとする心理と同じである。自分を強くすると言ってくれているこの人についていき、胸を張って生きていけるように。もう後悔しないために、彼女はスペードの道を選んだ。

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