第22話 生き残った少女

「ハルトそっちはどうだった?!」

「いや、どこにもいなかった!姉さんの方は?!」

「いいえ。こっちにもいなかったわ。と言う事は外に出たのかしら」

 町の中心の広場でとある男女二人組は焦っていた。いなくなってしまった仲間を探しているのだ。

「たっくアイツ、司令塔がそこまで強くなる必要なんてねぇのに!」

「とにかく!これだけ探してもいないという事は、きっとあの子は街の外に居るはず。行くとしたら北エリアの可能性が高いわ」

 男女二人は北エリアへ向かって走っていく。大切な仲間を救う為に。




「どうしよう!どうしよう!」

 北エリアの森の中、少女は草むらの中に隠れていた。彼女は一人で修行をしに来ていたのだ。北エリアには強いモンスターはほとんどドロップしない。8代目から生き残っている彼女はその事実を知っていたからこそ一人で修行をしていた。同じチームメンバーに迷惑をかけないように。しかし森の中でゴーレムに似たモンスターに遭遇してしまった。彼女は慌てて隠れたが一度ゴーレムと目があってしまった為、ゴーレムは彼女を探している。このままでは見つかるのも時間の問題。一か八か街に向かって走るという選択肢もあるが逃げ切れるかわからない。しかし、戦ったところで勝つことは難しいだろう。彼女は司令塔という立場のため今まで強くなるという特訓をしてこなかった。味方にスムーズに指示を出す特訓はしていたのだが自分一人しかいない今の状況では何の意味もない。彼女には一か八か逃げるという選択肢しか残されていなかった。

 彼女は走り出した。森を抜けてしまえば町まではそれほど遠くはない。町に入ってしまえばモンスターは入ってこない。だが彼女が走り出した瞬間、ゴーレムは彼女の方を向いてしまった。あと2秒タイミングが違えば飛び出すことをやめることだって出来たはず。ゴーレムは彼女を見つけた途端腕を振り下ろした。腕が地面についた途端、地響きのような音が辺りに響き渡る。彼女は街へ向かって走り続けた。ゴーレムは彼女に向かって攻撃し続け、地響きのような騒音が何度も何度も響き渡っていた。

「あと少し!」

 あと200メートルほど先に光が見えた。恐らく森があそこで終わっているという事。あの場所まで走ればまだ希望がある。あの人に、お姉さんに助けてもらった命。まだこんなところで死ぬわけにはいかない。そう思ったその瞬間、彼女は転んでしまった。森の先を見ていたせいで木の根に気づくことが出来なかったのだ。かなりのスピードで走っていた為、すぐに立ち上がることが出来なかった。振り返ると、ゴーレムはもう彼女の目の前に来ていた。彼女は既にゴーレムの攻撃の範囲内。ゴーレムが腕を振り下ろした瞬間に彼女は死んでしまう。ゴーレムが腕を下ろそうとした時、彼女は死に物狂いで腕を避けた。奇跡的に避けることが出来たが次も避けられるかは分からない。

「お姉ちゃん........」

 気がつくと彼女はそう呟いていた。そしてゴーレムが腕を下ろそうとした瞬間彼女は歯を食いしばる。


 彼女は思い一撃が来る事を覚悟して歯を食いしばっていた。しかし攻撃は来なかった。恐る恐る目を開けると男子二人がゴーレムの攻撃を防いでいた。一人は日本刀、もう一人は盾を使っている。

「お..重い!」

「文句を言うな!君が突っ込んでいったんだろう!」

「いやアベルだって来てんじゃん!」

「それはキミが何も考えずに走って行ったからだろう!そもそもキミは!」

 二人は何やら言い合いをしていた。少しじゃれあっているようにも見える。すると向こうから誰かもう一人走ってきた。なんだか殿様のような格好をしている少年、よく見ると大きな鎌を持っている。

「そこのアンタ!大丈夫か?!」

 鎌を持った少年が彼女に手を差し伸べようとするとゴーレムが攻撃をガードしていた二人を吹き飛ばしてしまった。

「サイ!気をつけろ!そいつの怪力半端ないぞ!」

 吹き飛ばされた少年は鎌の少年に向かって叫んだ。ゴーレムが再び攻撃しようとすると、鎌の少年がそれを阻止した。

「ワイがコイツの気逸らしとる内に、アンタは早よ逃げや!そこ走ればもう街やから!」

 彼女は街に向かって走り出した。しかし彼女の足はすぐに止まってしまった。ここで逃げてしまえば自分は助かる。だが彼らはどうなる?今ここにいる三人は恐らくまだ初心者だろう。自分が言えることでは無いが、既に戦えるほどの力を持っていればこんなゴーレムすぐに倒してしまうだろう。8代目の皆ほどの力をこの人たちは持っていない。自分を助けてくれた彼らを盾にして自分だけ逃げる?そんな事をさせるためにお姉ちゃんは自分を助けてくれたわけじゃ無い。彼女は再びゴーレムの方を向くと深呼吸をした。

「皆さん!聞いてください!私が皆さんの司令塔になります!皆さんは私の指示に従ってください!」

 彼女が叫ぶと、三人の少年は困惑した。今自分達が助けたはずの彼女がいきなり指示に従えと叫んでいる。そして、彼らはまだ司令塔の存在を知らなかった。司令塔を知らない彼らは指示を出す存在の意味をわかっていない。サイは迷った。この少女を信用して良いのかと。もしかしたらさっきまで襲われていたのが全て自作自演だったのでは無いかと、その可能性を考えていた。もしその可能性が事実なら彼女の案に乗るのは自殺行為。しかしサイはその考えをすぐに捨てた。今は疑っている場合では無いとすぐに判断したからである。もし彼が初日にアズと出会っていなかったらこの判断は恐らく出来なかった。彼女と出会っていたことでサイの頭の中には誰かを本気で信じてみても良いかもしれない。そう思えるようになっていた。三人は一旦ゴーレムから距離を取り彼女の方へ近づいた。


「ワイはサイ。こっちがユキでそっちにいるのがアベル。お嬢ちゃんの名前は?」

彼女は少し何かを考えた。彼女にとっては名前を出すと言うことは自分がスペードチームに移籍した事をバラしてしまうと言うこと。本当なら名前を名乗りたくはない。だが今自分が司令塔になるといった状況ではお互いの連携が一番重要である。彼女は覚悟を決めた。もう逃げない為にも。


「私は、しずく。8代目クローバーの生き残りです」

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