第21話 仲間としての責務

「いや、大丈夫。こっちこそごめんね」

突然皆の前に現れたシド。その彼の姿にメイが立ち上がった。

「シド?!お前..なんで」

「実は、メイ先輩にちょっと話があって...」

シドはメイに何か頼みに来たようだ。サイも話の内容は気になったがこれ以上ここにいるとアズを見失ってしまうかもしれない。そんな思いから店を出ていた。


店の外に出ると、もうすっかり夜になっていた。色々と話し込んでいる内にいつの間にか夜になってしまっていたようだ。辺りを見渡したがもうアズの姿は無かった。他のお店に入ってしまったのか、別の場所へ移動してしまったのか。ここで考えていても仕方がないと思い、サイは宿屋に移動することにした。サイが宿屋を見つけた時、誰か二人組が宿屋に入っていくのを見かけた。あたりが暗かったためサイは誰か判別することは出来なかったがそれは同じチームメイトのユズとミカだった。


結局その日にアズと再開する事はできなかった。サイはベットの上で色々な事を考えていた。さっき先輩達が怯えていたダイヤチームの事、エリア2にいるという他のチームの事、このトライ・ランドの事、そしてアズの事を。

この世界にはお金という概念が存在しない事にサイは疑問を抱いていた。ここはどう考えても日本ではない。だからと言って海外という訳でもないだろう。ならここは異世界?それとも何かの電子空間?しかし異世界だろうとゲームの中だろうとお金は存在するだろう。お金がないのなら色々なお店の店員達はなぜ働いているのか?給料が発生しないのに彼らが働く意味。そんな事を一晩中考えていたが結局答えは出ずにそのまま寝落ちしてしまった。



次の日、サイは北側の安全なエリアで修行をすることにした。昨日はなんだかんだで全く修行することができなかったからである。早速湖の近くで鎌を降り始めた。ゲームとは違い自分で鎌を振っている為、すごく疲れる。

サイは筋肉質な体ではない為かなりしんどかった。

「これは....かなり....しんどい...」

もう帰ってしまおうかと思っていた時、町の方から誰かがやってきた。昨日見た同じチームメイトの顔だった。

「あれ〜サイじゃん!何してるんだ〜こんなところで?」

クローバーの6と8のユキとアベル。昨日からずっと二人で何かを競い合っている二人組である。昨日特に仲良くなった訳ではないのだが、親しげに話しかけてくる辺りきっと二人とも根はいい人なのだろう。

「ちょっと鎌の練習してただっけっすわ。結構キツくてもうやめようかと思いましたけどね」

「なら俺たちと一緒に練習しないか?ちょうどユキとどっちが早く強くなれるか競争している所なんだ」

「あーそれいいじゃん。昨日あんま話せなかったし、どっかで会えねーかなーって思ってた所なんだよ」

この二人のことはあまりよく知らないが、サイも仲良くしたいとは思っていた。もしかしたらこの世界でならキャラを演じずに素の自分でいられることが出来るかもしれない。昨日アズと出会った時からそう感じていた。

「ええっすよ。改めてワイはサイ。よろしくお願いします」

「俺はアベルだ。よろしく」

「俺はユキ。よろしくな!」

この二人は良くも悪くも全く嘘をつかないタイプの人間だった。サイが色々話していて感じたのだが、この二人は本当に純粋な性格をしている。すごいと思うものにはすごいと言い、嫌なことには嫌と言う。単純なことにも感じるかもしれないが、それは気の合う仲同士でなければあまりできないことだった。アズとは少し違うがサイにとってこの二人と過ごす時間も居心地が良かった。ユキは日本刀のような剣、アベルは盾に短剣を使っていて三人の武器は全く違っていた。三人ともトライ・ランド初心者のためなかなか上達はしなかったが、北エリアに出てくる弱いモンスターなら簡単に倒せた。アイテムメダルはなかなかドロップしないがサイは気にしていなかった。サイが気になることといえばアズは今どうしているのかと言うこと。昨日別れてから彼女の姿を一度も見ていない。もしまた会うことができたら、自分が今いるこの輪に彼女も誘いたい。アズも含めた四人でモンスターを倒している姿をサイは想像していた。


「そういえばサイ、他のチームメンバーに会わなかったか?あの男三人組の人たちとか...」

「男三人組...?あーあいつらか〜あの飲み会以来一度も会ってないな〜名前は確か...」

サイは三人の名前を思い出そうとしたが、初めの自己紹介の時に一回聞いただけだったので思い出すことが出来なかった。

「確か、エルとミラ。それにナトって名前だったと思うぞ。もしかしてアベル昨日のこと気にしてるのか?」

「まぁな。あの三人は飲み会の時もずいぶん楽しそうに話していたからな。昨日シドがやってきてからメイ先輩がリングを確認していた時は本当に驚いたよ。まさか初日に、あの三人のうちの二人が死亡してしまっていたんだからな」

昨日シドがアベルやメイの前に現れた時、彼らは同じチームメイトが既に二人消滅してしまっている事を知った。ユキとアベルは、エルやミラと話したことはほぼ無かったがこれから少しずつ仲良くなりたいと思っていた。本当はあの三人の輪に入っていくことが出来なかっただけかもしれないが、仲良くなりたいと思っていたことは事実。だからこそ衝撃を受けた。二人が消滅した事を知りアベルは生き残った一人のプレイヤー、ナトのことを気にしていたのだ。どうしてそんな結果になってしまったのかは分からないが、もしも自分が同じ立場だったらそのまま自殺してしまうかもしれないと思っていたからだ。

「は!?ちょい待て!誰かやられたんか?!」

その話はサイにとっては初耳だった。昨日シドがきた時、入れ違いで立ち去ってしまったからだ。ユキとアベルはことの詳細を話した。理由はわからないが、エルとミラが消滅しナトだけが生き残っている事。そして昨日ユズとミカがエネミーに襲われているところをシドが助けたことを。

「マジかいな...ワイが呑気に服や衣装を選んどる間に、皆はそんな大変な目にあっとったんか」

昨日サイはアズと楽しくデートをしていた。その後も街からは出ずに食事をしてそのまま宿屋に帰って寝ていただげ。その間に他のチームプレイヤーは友人を失ったり、命懸けでモンスターと戦っていた。その事実にサイは動揺してしまった。

「俺は出来たら彼と会って話がしたいんだ。きっと彼の心は今ボロボロだ。俺たちは同じチームなんだからこう言う時こそ助け合うべきなんじゃないのか?」

「いや〜その気持ちはわかるけどよ〜今あいつがどこにいるかなんて分からないじゃん?この街だって結構広いし探すとしたら丸一日かかるよ?」

ユキだってアベルと同じ気持ちを持っている。もし自分が同じ状況になってしまったらほど間違いなく自殺してしまうだろう。それを支えてあげるのが同じチームメンバーとしての責務。それはわかっているがこの広いエリア1の中から特定の人物を探し出すのは至難の技。今から三人で手分けして探したところで見つかるかどうかは分からない、それを十分に理解していたのだ。

「それはもちろん分かってる!だが!」

アベルが話していたその瞬間、奥の森から何か大きな音が聞こえた。その音は何度も響き渡って来る。


「なんやこの音?!」

「向こうの森からだ!」

ユキはすぐに森へ向かって走り出していた。アベルとサイに何も言わずに走り出してしまった為、取り残された二人は慌てた。

「おい!ユキ!」

続いてアベルも走り出した。森が気になると言うよりユキを追って走り出したようだ。

「まさか...お前じゃないよな...」

サイも二人に続いて走り出した。サイは二人のことが心配という気持ちもあったが、別の気持ちを抱いていた。もしかしたらさっきの音は誰かがモンスターに襲われている音かもしれない。ならその襲われている人物は誰なのか?さっきの話の話題に出てきた、生き残ったナトという少年。別のチームの誰かという可能性もある。しかしサイは災厄の状況を想像していた。昨日から一度も姿を見かけないあの少女、アズの事を。彼女が襲われている状況を思い浮かべたら、サイは不安でいっぱいになった。自分を認めてくれた数少ない大切な友人だから。

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