第20話 ダイヤの秘密
その後、サイとアズは皆で食事をしていた。いろいろ談笑している内にアズも他のメンバーと話せるようになってきていた。アズにはずっと悩んでいることがあった。この世界に来てから自分に起こっているある変化、だがその事実を誰かに話すことはできなかった。その相手がたとえサイであったとしても、サイ自身もアズの違和感には気付いていたのだが出会った時から触れようとはしなかった。
「二人に聞きたいんだけど、君たちは他のチームのプレイヤーに会わなかったかな?」
ツルギがサイとアズに質問をしてきた。
「いや?誰にも会ってないと思いますけど、なんかあったんすか?」
「会ってないんならそれでいいんだ。ただ、俺たちクローバーチームは他のチームの中でいちばん弱いチームとして認識されてるからね、今別のチームプレイヤーに会うと色々面倒なことになりそうなんだ。」
トライ・ランドに存在する4チーム、クローバー、ハート、スペード、そしてダイヤチーム。サイとアズはまだどのチームのプレイヤーとも接触していない。街を歩いているときに何人かの人とすれ違ってはいるが、それはただの住民でありプレイヤーではなかった。
「まぁ、エリア1まで戻ってくる物好きがいるとも思えねぇけどな。大体の奴らはエリア2の最前線にいるわけだしよ」
「あの〜?さっきから何話してるのかよく分からないんですが」
「あーわりぃわりぃ。さっきユキとアベルには説明したけど、サイとアズちゃんにはまだ説明してなかったな〜」
そのユキとアベルは最後の餃子をどっちが食べるかと言い争いをしていた。もはや難しい話には興味がないようだ。
「私たち以外にも3つのチームがあるっていうのは昨日飲み会の時に説明したよな?その話には続きがあってな、昨日は話すべきか悩んだんだけどさ〜スペードチームとハートチームはエリア2まで攻略してるんだよ。でもなぜかエリア2を攻略できないらしくてな、そこで二つのチームは同盟を結ぼうとしたんだ。」
「ちょっと待ってください!他のチームはもうエリア1を攻略してるってことですか!じゃあなんでワイらはエリア2には行けないんすか!?」
サイの考えでは全てのチームの中でどこかのチームがボスを倒したら他のチームも次のステージに進めると思っていたらしい。そうしてエリア10のボスを倒したチームが勝者だと、そう認識していたようだ。しかし現実は違った。
「それは簡単だよ。この世界はゲームじゃない、だから別のチームが攻略したからって私たちまで先に進めるわけじゃないんだ。ボスを倒した奴らは先に進めるけど、そうじゃない奴らは置いてきぼり。ようは私たちは落ちこぼれってことだな」
落ちこぼれという言葉にサイは何も言葉が出てこなかった。ここで何か反論をしてしまったら、それはツルギやメイのことまで貶してしまうということにもつながるからだ。
「あの、僕からも質問なんですけどダイヤチームは同盟というのには参加してないんですか?」
ダイヤチーム。その言葉を聞いた瞬間ツルギとメイが凍りついた。二人の様子が変わったことにユキとアベルも築いた様子、その場にいた全員が悟った。何かとんでもない地雷に触れてしまったことに。
「ご!ごめんなさい!何か事情があるなら話さなくて大丈夫ですから..」
アズは慌てて二人に謝罪をした。別に彼女が悪いわけではない、そんな事はみんな理解できる。しかし、ずっとさやしく色々教えてくれていた先輩達がさっきから怖い顔をしていた。その状況に彼女は耐えられなかったのだ。
「んにゃ、アズちゃんが悪いわけやないやろ、それにワイも気になるしな。先輩達が嫌っていうんだったら話してくれなくても良いです。でも、本音は全部話して欲しいです。昨日は気づかないふりしてましたけど、多分あのシドって奴と何かあったんですよね?昨日あいつだけが飲み会に参加しなかったのに先輩達は何も言わなかった。あいつの目は後悔でいっぱいでしたよ。」
先輩二人はしばらく黙っていた。何を考えていたのかは本人達にしか分からない。トライ・ランドに来たばかりの彼らには想像することもできなかった、この世界の闇の部分を。
「メイ、俺はみんなにも話した方がいいと思うよ。もう前みたいな結果にならないためにも、俺たちも変わらないといけないんだ。前は肝心な事を全く話していたかったからあんな結果になった可能性だってあるし」
メイは沈黙を続けていたが、何か諦めたように口を開いた。
「分かったよツルギ。お前がそういうなら私も従うよ。ただな、ダイヤの話をするのはチーム全員が揃った時にするべきだと思うぜ」
「確かにその方がいいかもしれないな。じゃあ明日にでもみんなを探しに行こうか」
先輩達の意見はまとまったようだ。サイやアズがまだ知らないこの世界の事をクローバーのみんなが集まった時に話してくれるようだ。
「皆、明日か明後日にチーム全員で一度話し合いをしたいんだ。そろそろエネミーメダルも集めないといけないし、よかったら俺たちと一緒にいけくれないかな?」
ツルギからの提案にユキとアベルの二人はすぐに賛成した、そもそもあの二人はずっと一緒にいるつもりらしい。サイは二人の提案に反対するつもりはなかった。特に反対する理由もなかったからだ。
「ごめんなさい。僕はいきたいところがあるので一緒にはいられません」
サイが考えている中、アズが二人の提案に反対した。
「ん?行きたい所?」
アズはそのまま立ち上がると店を出て行ってしまった。何か怒っているというわけではなさそうだった。
「すいません、明日には合流するんでワイも失礼します」
サイもアズを追いかけるため店を後にした。サイが店を出ようとした時、ある男がサイとぶつかり転んでしまった。
「あ!すんません。大丈...」
その少年の顔を見た瞬間に、サイの言葉は途切れてしまった。さっきまで話をしていた彼であったからだ。
「いや、大丈夫。こっちこそごめんね」
それは緑色の剣を持った少年、昨日からずっといなくなっていたシドであった。
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