第19話 サイの過去
サイとアズはその後、二人で洋服屋に来ていた。服屋にはいろいろな種類の服が用意されていた。まるでテーマパークのような内装に普段着からコスプレのような服まで多種多様。サイが思い浮かべていたクノイチのような衣装も色違いがいくつも揃っていた。赤や青、黒に白など種類はたくさんあるがサイは緑色の服を手に取った。
「これなんかええんやないか?クノイチちゅうんはいざという時目立たない方がええからな」
「緑って逆に目立ちませんか?黒とかの方がいいような気もするんですけど」
「確かに一般的なのは黒色やな。でもワイは違う考えなんや、緑色だったら草むらとか森みたいないろんな場所に溶け込むことができるからな。ある意味黒よりも目立たないと思うねん」
暗闇で戦うことを考えるなら黒の方が目立たないかもしれない。だがもしも戦う場所が木の多い森だった場合、緑色の方が相手に気づかれにくいかもしれないということだ。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「ん?なんや?」
アズはどうしても聞きたいことがあった。自分が今一番気になっていることであり、サイが聞かれたくないことである。
「自分の服は選ばないんですか?」
その言葉を聞いた瞬間サイは凍りついてしまった。彼の頭の中には小学校時代の記憶が蘇っていた。
ある日彼は、同じクラスの同じ服を着てきてしまった。それは全くの偶然である、小学校の時のサイは孤立していた。クラスメイトにどう接していいか分からずいつの間にかクラスから完全に孤立していたのだ。特別いじめられていたわけではないものの友達が一人もいない一匹狼。そんな彼とクラスでいちばんの人気者が同じ服を着ている状況は他のクラスメイトにとって異様な光景であった。「自分も人気者になりたいから同じ服を着た」「話しかけられたいからあの服を着た」クラスの間では根も葉もないが流れ出した。高校生のいじめなどに比べれば、その時の状況はまだ可愛い方である。しかし、日々不安の環境の中にいた彼にとっては耐えられない空間になっていた。その日以降彼は不登校になってしまい自分の服を選ぶのも嫌になってしまった。サイは自分で立ち直ることができる強い少年である。心の傷は時間がなんとか回復してくれたが、服を選ぶことは完全にトラウマになってしまっていたためそれ以降は親が勝手に買ってきてくれていた。その出来事が今、サイの頭の中にフラッシュバックしている。
「ワイは...その...」
一瞬サイは彼女に自分の過去の出来事を話そうか考えた。しかし、それ以上言葉を出すことはできなかった。もし彼女に過去の自分の話をしたら嫌われてしまうかもしれない。サイはそう考えていた為話すことはできなかったのだ。
「もしよかったら、僕が選んでもいいですか?」
「え?....ええんか?」
「はい!この服のお返しに」
アズは自分の手に持っていた緑色の衣装を見ながら笑っていた。その顔を見た瞬間、サイはさっきまでの悩みを全てどうでも良いと思った。仮に彼女に自分の過去を全て話したとしても、彼女がひどいことを言うとは思えない、そんな考えが頭をよぎる。二人は店の中を歩いていた。自分が思い描いている服を見つける為に、その服は意外にも近くにあった。
「きっとこれがいいと思います」
アズが手にした服は黄色いサムライのような服を手にした。
「これって...なんか殿様みたいやな」
「僕がクノイチなら、サイさんはこう言う勇ましい格好が似合うと思いますよ」
そう言って殿様のような服をサイに手渡した。さっき買った鎌と合わせると少し違和感があるような気もするが、サイは気にしなかった。そのままお互いに新しい服に着替えると店の外に出た。
「おぉ!似合っとるやないか」
「サイさんもいい感じですよ。殿様みたいでカッコいいです」
二人はそのまま北側の野原エリアへと移動した。野原エリアではツルギ、メイ、ユキ、アベルの四人が特訓をしていた。ツルギとメイが何やら張り合っているユキとアベルを特訓しているようだ。
「おう!お前らやっときたのか〜ってなんだその格好!」
二人の格好に早速メイが食いついてきた。
「さっきまで二人でデートしてたんっすよ〜このクノイチの衣装はわいが選んだったんですわ」
「いや、デートではなくて普通に色々見てただけで...」
アズは恥ずかしそうにしながら際の後ろに隠れていた。メイに緊張しているのかデートという単語に恥ずかしがっているのかは分からない。
「二人っきりで買い物してたんやから、デートってことやろ?」
「いやいや早すぎますよ!デートというのは仲のいい恋人同士がするもので」
「ワイらは仲もいいし、もう友達なんやから別にええんやないか?」
「よくないです!」
二人が戯れあっている姿を見ているとメイは安心していた。前回の8代目で大きな失敗をしてしまったメイは悩んでいたからだ。今日の朝にみんなを呼び出そうとはせずに自由にさせてしまった事を。現時刻は13時15分、クローバーチームはまだ誰も死んでいない。皆がどこで何をしているのかはメイやツルギには全く分からなかった。みんなで仲良くする事が少しトラウマになっていたメイにとって今回の自由行動は正しかったのか考えていた。だが、この二人を見ていると少し心が救われた。他のみんなのことは分からないが少なくともこの二人は笑っている。この存在が謎のトライ・ランドで生きる意味を見つけることができている。そんな事実にメイは安心したのだ。
「あっそうだ!お前ら飯もう食ったか?せっかくだからみんなでご一緒しようぜ〜」
そんなメイの言葉からサイとアズはここにいる四人と一緒にご飯を食べることになった。
この時、ツルギに戦い方を特訓してもらっていたユキとアベルこそがメイの心を最初に救った張本人達なのだが、それはまだ別のお話。
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