第18話 好きと嫌いは紙一重

クローバーの5 サイ。彼は常に周りを意識しながら生きていた。彼は気まずい空間が大嫌いなのだ、気まずくならないためには全員と仲良くなれば良いという考えを持っており、飲み会の時も全員と会話をしていた。ユズとミカ、そしてもう一人の女性はなかなか心を開いてはくれなかったが初日にこれだけ話せれば良いと思っている。だが彼は、ある女性に違和感を感じていた。サイの人間観察力はミカ以上である。そんなサイだからこそ気づいた違和感、そんな違和感を確かめたくて次の日彼は街を一人で歩いていた。街はかなり広くおそらく違うチームらしき人ともすれ違っている。本当は他の人と一緒に色々と特訓してもらおうと思っていたのだが朝から見ない彼女をサイは放っては置けなかった。そして町外れの路地裏でついにその少女を発見した。


「何してるんや〜?こんなところで。」

サイはうずくまっていた彼女に話しかけた。短い緑色の髪に見た目はかなり幼い、昨日見たクローバーメンバーの中でも恐らく一番年下だろう。サイは昨日何度も彼女と話そうとしていた。趣味や好きな食べ物など些細なことをたくさん聞いていた、こういう質問なら相手も答えやすいと思っているからだ。だが彼女はそれすら答えてくれなかった。それよりも何かに怯えているかのようなそんな気配を感じていた。

「いえ.....別に何も...」

「まぁまぁそう警戒すんなって〜確かアズちゃんだったやろ?これから先輩たちのところ行こうと思うんやけど一緒にどうや?」

サイは再び彼女との会話を試みるが彼女は首を横に振る。

「こんな所に一人でいたら危ないで〜?怪しいやつにちょっかい掛けられるかもしれないで?」

「今まさに掛けられているような気がするんですが.....」

「ワイは怪しくないわ!」

サイはダメ元でボケてみたら意外に彼女は良い返答をしてくれた。

「僕はまだ未成年なので、ナンパとかはやめといた方が、」

「だからちゃうわ!ワイは純粋に心配してきたんや!」

彼女は首を傾げる。本当に何を言っているのか分からないかのように、そして少し笑ったように見えた。

「じゃあ僕はもう行きますね。ここにいると変な人にずっとナンパされそうですし」

「だから変な人ちゃうわ!大体大して歳離れてないやろ!」

彼女はサイの言うことを無視しそのまま立ち去ろうとしていた。しかしそうは行かない、サイは彼女の後をついて行った。彼女が早歩きになればサイも早歩きになり、彼女が行き先を変えればサイも行き先を変えた。

「あの、いつまでついてくるんですか?もう立派なストーカーになってますけど」

「ワイが行く方向にさっきからあんたがおるだけや!」

その後二人は睨み合い続けていた。まるで先に目を逸らした方が負けかのように。お互いなかなか目を離そうとはしなかった。そしてついに彼女の方が笑い出してしまった。それにつられるかのようにサイも笑い出す。

「どうや?少しは緊張ほぐれたんとちゃうか?」

「あ〜あ、もう私の負けですよ。こんなにしつこい人初めてですよ、私はアズです。よろしくお願いしますサイさん。まだ未成年なので変な期待はしないでくださいね?」

「おう!よろし...って!んなことするか!ワイは紳士なんやぞ!」

その後、二人は街を散歩していた。彼女、アズがサイをからかいサイが突っ込む。この会話は歩きながらも続いていた。少しずつ心を開き始めている証拠である。彼女がなぜ心を閉ざしていたのか、サイは聞かなかった。第六感が触れてはいけない話題なのだと叫んでいたからだ。結局ツルギとメイの所には戻らなかった。初めは一緒に訓練するつもりで彼女を探していたのだが、いつの間にかサイ自身もアズと話しているこの時間が楽しくなってしまっていたのだ。サイは今までとてつもない数の人間と友達になってきたがそのほとんどは上っ面の友情である。サイが面白いことを言うから皆は近づいていき何も話していない時は近づいてこない。誕生日に皆とパーティーを過ごしても自身が場を盛り上げればいけなかったため、彼にとっては苦痛の時間だった。だが彼女は今一緒にいる、同じことに笑ってくれている。これはサイにとって初めての感覚であった。

「サイさんはおいくつなんですか?」

「ワイは16やで〜アズちゃんとは二歳差やな〜」

「2歳も年上の割には全然しっかりしてないんですね」

「周りからもよく言われるんよな〜いつも笑ってて子供っぽいって...て!それもう悪口やないか!君より2年も人生生きとる先輩なんやぞ!」

二人はいつの間にか街を一周してしまっていた。初めにツルギとメイと別れた場所まで戻ってきてしまっていたが、そこに皆の姿はなかった。恐らくどこかへ修行しに行ってしまったのだ。皆を追いかけると言う手もあるが、二人はその選択肢を選ぶことはなかった。

「ほんなら先輩のワイが武器を選んでやるわ!これでもゲームは得意やったんやで?」

「へぇ、どんなゲームしてたんですか?」

「格闘ゲーとかカートレースとか結構やってたで〜」

そのまま二人は武器屋へと足を運んでいた、そして武器屋で武器を選んでいると妙は二人組が武器屋へ入ってきた。

一人は緑色の髪の少年、もう一人は黄色い髪色の少しヤンキーのような見た目だった。

「あん?お前ら見ねー顔だな、さてはお前らクローバーの新入りだな?」

「え?まじ!あの全滅したクローバーの新しい子ってあらら?なんか随分子供っぽいけど大丈夫なんかね?」

アズは怯えてサイの後ろに隠れてしまった、サイはアズを守るかのように自分の後ろへと誘導する。

「どうも〜初めまして〜ワイはサイって言います。こいつはアズって言います、人見知りが激しい子なのですんません」

「へぇ〜結構礼儀正しいじゃん!でも新入りってことは、こいつらはあの子が言ってたシドってやつとは違うって事だろ?まぁ簡単には会えないか」

「ぎゃあぎゃあ騒がしいんだよユウマ。俺たちは買い出しに来ただけだろうが、カリナさんが言ってたことを俺たちが詮索する必要はねぇんだよ」

「いちいちうるさいな〜キリヤ。そんなヤクザみたいな見た目だからそこの女の子にも怯えられてるんだよ〜」

「ガキみてぇな見た目のお前には言われたくねぇんだよ。」

「誰がガキだコラ!」

その二人はそのまま何か短剣のような物を購入するとそのまま店から出て行ってしまった。

「随分騒がしい人たちやったな〜大丈夫かアズちゃん?」

「........はい」

「そんじゃ!気を取り直して選ぼうか」

そして二人は武器を選び始めた。サイは鎌のような大きい武器が好きだったので鎌を選んでいた、アズは小さい武器が良いらしくクナイや短剣、忍者が使う手裏剣などのコーナーを見ている。

「悩んでるんやったらこれなんてどうや?カッコええと思うで」

そう言ってサイは短剣に手裏剣、更にクナイなど忍者が使っているような道具を一式手にとる。

「これを使ってたら、僕は完全に忍者ですね」

「女の子なんやからクノイチなんやないか?かわいいと思うで?」

サイはそう言って道具をアズに手渡すとアズは頬を赤くした。

「そういうかわいいとか言うのは本当に好きな人にしか言わない方がいい気がしますよ」

そう言うとアズは道具を一式装備するために奥にある試着室に入る、この世界にはお金という概念がないため道具を全て持って行ってしまっても何も問題はないのだがそういうわけにも行かない。はっきり言って邪魔である。

アズはサイから貰った道具を装備していると、サイが話しかけてくる。

「さっきのことやけどな〜ワイはアズちゃんの事、結構好きやで〜?」

その言葉を聞いた瞬間、アズの顔は真っ赤になってしまった。さっき知り合ったばかりではあるが、彼が素直な性格なのはもうわかっている。だからこそ今の言葉が本心から出ている言葉なのも理解できた。出会ってから数分間は本当に鬱陶しい人だと思っていたのに今のこの気持ち、本気で恋しているわけではないがなぜか鼓動が速くなってしまっている。まさに好きと嫌いは紙一重という言葉の通りであった。

「はいはいそうですか。どうもありがとうございます」

冷静に返事をすることはできたつもりだが、顔はトマトのように赤い。そして道具を装備し試着室から出ると、サイは拍手をした。

「お〜やっぱり似合うなぁ!でもどうせなら衣装も揃えたいなぁ」

今のアズは道具はクノイチそのものだったが服は普通の私服、見た目はまだ完全なクノイチとは呼べない状態である。

「じゃあ一緒に選んでくれますか?僕に似合う服を」

「え!ワイが選んでええんか!それじゃあ早速服屋へ移動や!」

喜ぶサイを見てアズは少し微笑んでいた。それは無意識のうちに出ていた笑顔のため本人も気づいていない。いつの間にかアズは、完全に心を開いていたということだ。

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