第17話 帰宅

目がされると朝になっていた。昨夜、ナトという名の少年に色々悩みを話していたのだがいつの間にか寝てしまっていたようだ。起き上がると、焚き火はすっかり消えていた。手をみるとメダルを握りしめていた。ミカは昨日のことを思い出そうとする。



「あ〜明日街に帰るんだったらさ、これ渡しといてくれない?」

そういうとナトは何かをミカに向かって投げる。ミカがキャッチするとそれはメダルだった。

「エネミーと倒すと落ちてくる奴。俺は街には帰らないから君が持っといて。」

そう言うとさらにメダルを投げてきた。合計7枚のメダル。つまり彼は7体のエネミーを倒したことになる。自分たちは三人がかりでやっと一体を倒したと言うのに、この男は一人で7体も倒したのか。さっきの強さといい今、目の前にいるこの男はやばいと本能が叫んでいた。

「どうして自分で渡そうとしないの?これは貴方の手柄なんだから、少しくらい街に戻っても良いんじゃないの?」

「俺は街には帰らない。ついでに言うと、メダルが集まったとしても俺はボス戦には参加しないよ」

「は?参加しないって....」

「そのままの意味だよ、俺は正直もう理想郷とか興味失せちゃったし、だから俺は行かないしチームメンバーと関わる気も無いから」

この男に何があったのかミカにはわからなかったが、彼は今深く傷ついている事だけは分かった。多分今一緒にいない二人に何か関係があるんだろう。この時ふとメイが言っていた会話を思い出した。二日目にに消滅してしまったプレイヤーが二人、そして街に帰ってきていないと話していた人物。あの時言われた名前は忘れてしまっていたが、恐らく彼だろう。

「これ良かったら使って、助けてくれたお礼に」

そう言ってミカは彼に2枚のメダルを差し出した。C級 真理眼とB級 雷鳴である。

「じゃあこっちだけ。B級もらっちゃったら君が困るし」

そう言ってナトはC級のみ受け取った。その後もミカはナトに対しいろいろなことを聞き続けたがナトは心を開こうとはしなかった。そしていつの間にかミカは眠ってしまっていた事になる。


辺りを見渡すが、彼の姿はもう無かった。目の前の焚き火は勝手に消えたのではなく人の手によって消されていた。つまり彼は夜明けまで一緒にいてくれたということになる。ミカは短剣を持ち早速街まで出発して行った。昨日帰ると言っておきながら帰ることができなかったのできっとユズに怒られるだろう。そんなことを思いながら歩き出していた。そのすぐ近くの木の枝に座っていた彼にミカは気が付かなかった、彼はミカが無事に街まで辿り着くまでこっそり見守っていた。無事に街までついたことを確認すると、また山エリアへと戻って行った。



ミカは街に帰ってきた。昨日眠ったことで体力は100パーセントまで回復していたが、正直心はかなり疲れていた。人生初めての野宿に加え、赤の他人に自分の悩みを全て暴露してしまった事、今思い出すとかなり恥ずかしい。

街を歩いている時、ミカは街にいる人々の顔を観察していた。ミカは他人の目を見る事で内に秘めている感情をなんとなく掴むことができる。これはアイテムの力ではなく、ミカが周囲を警戒しながら生きてきたからこそ身についた特技のような物である。そしてミカは街の住民の目から妙な感情を感じていた。それは期待感、彼らの目はまるでアニメの新キャラが出てきた時の視聴者の様である。彼らは別にモブやNPC、モンスターというわけでもない。しかしどのチームにも所属していない奇妙な存在、彼らにこの世界のことを聞いても何も知らないと言われてしまう。彼らの正体を知ることができればこの世界の謎に一歩近づけるかもしれないが何も手掛かりが無いのだ。

「そこの貴方。ちょっと良いかしら」

ミカは突然食事をしていた女性に声をかけられた。見た目はショートな金髪であるがまだ幼いようにも見える。食事はナイフとフォークを使い庶民には何が何だかさっぱり分からないものを食べていた。

「貴方、クローバーの方よね?ちょっと聞きたいんだけど、貴方たちの戦力はどうなっているの?」

彼女は挨拶もなしに突然質問してきた。疲れ果てているミカは何も答えることができない。ミカは早く立ち去りたかったがそうもいかなくなる。

「また前回みたいに全滅されると、こっちも迷惑なのよ。まぁボスなんて私たちスペードが揃っていれば何も問題はないのだけれど、また全滅されたらあの子も夢見が悪いでしょうしね」

「あの、貴方は誰なんでしょうか?」

正直ミカはもう何も考えたくないぐらい疲れ果てていた。今大切な話をされたところで全く頭に入ってこない。ひとまず名前だけは覚えておこうと考えた。

「そいえば名乗っていなかったわね。私はカリナ、スペードのKキングよ。一応言っておくけれど、貴方より強いわよ?」

「あ〜そうですか。それでは私はこれで」

「いやちょっと待ちなさい!普通この流れで帰る!?貴方も自己紹介する流れでしょ!」

突然子供のように駄々をこね始めた。

「クローバーのAエースミカです」

「へぇ〜貴方が新しいAエースなのね。それで一つ聞きたいんだけど、貴方のチームに司令塔はいるの?」

「司令塔?他のメンバーと会っていないので詳しくは分からないです。」

メイと話した時に出てきた司令塔という単語。ミカは8代目の天才姉妹の話を思い出していた。その二人がいなくなってしまった今クローバーに新しい司令塔がいるのかどうかは全く分からなかった。

「そう.....まぁいいわ。ありがと、もう言って良いわよ」

本当ならミカにも聞きたいことがあったかもしれないが、早く帰りたかったのでそのまま失礼した。


宿屋に向かって歩いている時向こうから誰かが走ってきていた。それはいつも見ていた彼女の顔、あの顔を見るだけでなんだか安心してしまう。

「ミカ〜!」

走ってきた彼女、ユズはそのままミカに抱きついた。その瞬間ミカの疲れは一気に吹き飛んでしまった。

「ただいま、ごめんね遅くなって」

「もう!本当に遅いよ!心配したんだから!」

そうしてミカは離れようとするがユズはなかなか離れようとはしなかった。注目されていた訳ではないが公衆の面前でずっと抱きついている状態である。

「あの...ユズ?...流石にそろそろ....」

「ヤダ」

ユズは離れようとはしなかった。仕方がないので彼女をデコピンしそのまま宿へと二人で走っていた。二人とも本当に良い笑顔で走っていった。





「あの様子じゃ、新しいクローバーにはチームワークは全くなさそうね。まだあの子を返す訳にはいかないわ...」

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