第16話 運命の出会い
「あれ?ここ....」
ミカは目が覚めると暗い森の中にいた。そして目の前には焚き火がしてある。炎の向こうには誰かが座っていた。
「あぁ、起きたか。にしても随分派手にやられてたみたいだな。まさか5時間も眠るとはね....」
「う〜ん....は?5時間?」
リングを見ると確かに5時間が経過していた。今の時刻は21時10分、完全に夜である。
「早く帰らないと!」
「山エリアのモンスターは夜になると凶暴化する。あの程度の狼にやられてた君じゃ、到底街まで辿り着けないよ」
ミカは急いで街まで帰ろうとしたが少年は止めた。ミカは反論できなかった。あの時自分は完全に死ぬ寸前だった。もし彼が助けてくれなかったら今こうして息をしていることもなかっただろう。
「モンスターは炎が嫌いだから焚き火をしていれば絶対に襲ってくることも寄ってくることもない。街まで戻りたいんだったらこのまま朝までここにいることだな。あとこれ、多分君のだよね?」
そういうと少年はミカの方へ短剣を投げた。確かにこれは、崖から落ちた時に彼女が落とした物だった。
「私の剣...ありがとう」
「別に....たまたま拾っただけだし...じゃあ俺はもう行くから」
「え!?」
少年は立ち上がるとそのまま立ち去ろうとしていた。この暗い森の中にミカを置いて。
「あぁ、炎を消さない限りは安全だから、あと帰り道はあっち」
「待って!まだお礼も出来てないしそれに聞きたいことがあるし...それに一人だと怖い....」
ミカは少年の腕を掴むと思いっきり可愛く引き留める。ミカは生まれて一度もしたことのない色目を使って少年を引き止めていた。聞きたいことがあるのは本当だが、一人だと怖いというのは真っ赤な嘘。理由はわからないが、多少自分のプライドを捨ててでも少年を引き留めたかった。少年はしばらくミカのことを見ていた。だが決して色気に惑わされている顔ではない。むしろ何かを警戒しているような目である。
「はぁ...分かったよ...入ればいいんでしょ入れば」
そういうと少年は先ほどまでスラっていた場所に再び座った。そしてミカも少年の反対側に座る。
「あの...さっきは助けてくれてありがとう。おかげで助かった。私はミカ。あなたは?」
「.....ナト。ていうか別に礼なんていいよ。たまたま短剣が落ちてるのを見つけて、たまたま狼の大群を見つけて、たまたまそいつらを倒したら君がいただけだし。だから別に君を助けようって思った訳じゃないしね」
ミカはこの少年、ナトに妙な違和感を感じていた。今まで出会ってきた他の男性とは何かが違う。その違和感を確かめるためにももっと会話をしなければと思っていた。
「それはおかしいんじゃない?本当に私を助ける気が微塵もないなら、わざわざ焚き火をして私が起きるのを待っているなんてことしないでしょ?さっき立ち去ろうとしてたってことは、あなたはその凶暴になったモンスターが相手でも問題ないってことよね?気絶した私を置いてそのまま街へ戻ればよかったのにあなたはそうしなかった。私が起きるのを待っててくれたんでしょ?」
ナトはその回答に応えようとはしなかった。ミカはさらに違和感を感じ再び別の質問をする。
「聞きたいんだけど、あなたはどうやってそんなに強くなったの?確か私と一緒にトライ・ランドに召喚された第9世代の人よね?スタートは同じはずなのに、さっきのあなたの強さは別次元だった。どうして?」
ナトは数秒間沈黙していたがミカの質問に別の質問で返した。
「ゲームが上手くなるためにはどうすればいいと思う?」
「え?」
「君は新しいゲームで遊んでる時、どうやって強くなっていく?」
「それは...練習と研究じゃない?初見で勝てなくても何度もチャレンジしていればレベルだって上がるし、敵の攻撃パターンを研究していけばそのうち慣れてくるから絶対に勝てる」
「正解。要は闇込めばどんどん強くなれるって事、この世界も同じだよ。戦い続ければ強くなれる。君だって鍛錬し続ければ半年後には結構上達するんじゃない?」
「いやいや半年後って、私たちが来てからまだ三日目よ?三日でその強さはどう考えてもおかしいでしょ」
ナトはしばらく沈黙した。その表情は何か思い詰めている様子だった。その表情を見てミカはあることを思い出した。この人は確か二日目の朝3人で出かけていた。名前は覚えていないが随分楽しそうに歩いていたのを覚えている。なのに今彼は一人だけ、そもそもあの時とは雰囲気がまるで別人だった。
「もしかして、この三日間で何か辛いことがあった?」
ナトの様子が変わった。その顔はまるで動物の威嚇のようだ。何かあったのは間違いないだろうとミカは確信した。
「もしよかったら、聞かせてもらえない?私友達少ないから誰かにバレることもほとんどないし、それに話すだけで楽になることもあるよ?」
ミカは自身で体験したことを今度は他人にしようとする。メイ先輩の時のようにこの人の事も救えるかもしれないとそう思ったのだ。
「別に...君に話す理由なんて無いし...話したところで何も変わらないだろ」
ミカは少しイラっと来た。だがこの感じだと何かあったのは間違いないだろう。それと同時にミカはこの少年、ナトへの違和感に気付く。今までの男性とは違い、ナトからは下心のようなものを全く感じないのだ。それどころかナトは完全に心を閉ざしている。ミカにとってこんな感覚は初めてだった。自分が心を閉ざすことはあっても相手が心を閉ざし続けることは今まで一度もなかったからである。だがらこそ、ミカは少しムキになった。
「まぁ別にいいわ、時間はたっぷりあるんだし」
「ん?たっぷりって、寝ないの?」
「眠らないわよ、今寝たら目の前の男に何されるかわかんないし」
もちろんハッタリである。自分を助けてくれた彼を多少なりとも信頼してもいいと思っていた。この心を閉ざした少年が寝込みを襲うとは到底思えない。これは彼女にとってからかいにも近い反撃である。この少年は恐らく気まずいと思っている。気まずい空間を紛らわすためには何か会話が必要だ。それでも何も話さない頑固な可能性もあるがそうはならなかった。
「君はさ、なんで強くなりたいの?さっき俺に聞いてきたって事は君は強くなりたいって事なんでしょ?」
ミカは回答に少し悩んだ。彼に話しても良いものかと、だがいつの間にかミカは話してしまっていた。
「私の親友はすごく良い子なの。あの子は素直だからきっとこれからもどんどん強くなれる。でも私は違う、他人との関わりと拒否して彼女に依存しようとしてた。だから私は強くなりたいの、貴方みたいに誰かを救えるような強さが欲しいの!」
ナトは黙って聞いてくれた。彼女の悩みを全て、いつの間にかミカはメイにさえも話していなかった自分がユズに依存していたことまでも話していた。何故だかわからないが止まらなくなってしまっていたのだ。
「人っていう生き物は失わないとその物の価値を理解できない、でも君はその親友を本当に大切に思ってるんだな、君はきっと強くなれるよ。俺みたいな失った事で得た強さとは違って、本当の真の強さを手に入れられるよ」
ミカはその後も彼に悩みを話し続けていた。普通なら途中で聞くのが嫌になってしまう程の多くの悩みを。でも彼は最後まで聞いてくれていた。そんな彼にミカは、少し居心地の良さを感じていたのかもしれない。
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