第13話 似た者同士
メイはミカに全てを語った。自分達8代目クローバーに起こった事全てを。メイやシド達はトラップ部屋でキララ達がどうやって戦っていたかは分からない。それがわかる人間はもう生きていないからだ。
「多分シドは、今もずっと引きずってるんだと思うぜ。アイツにとってはメンバーチェンジはされていないんだ。あの城の中で今もずっとみんなを探してるんじゃねーかな」
メイは後悔し続けていたのだ。8代目のみんなを救えなかった事を。だからこそ新しいメンバーにどうするのが正解なのか分からないようだ。9代目の自分達にはトライ・ランドのことを説明はしてくれたが、鍛えようとはしていなかった。また同じように強い絆が生まれてしまったら、また同じ悲劇を生んでしまうかも知れない。そんなことを考えるととても自分から鍛えるなんて出来なかった。
「私もビビっちまってなぁ...最初は誰も鍛えないって決めてたんだけどよ〜あの二人があんまりしつこかったからな〜ユキもアベルもまだ」
「ちょっといいですか?」
メイの話をミカは強引に止める。それ以上に引っかかることがあるからだ。
「さっきの話が本当なら、先輩達は一つ勘違いしてますよ」
「は?勘違い?」
本人達はきっと悲しみで気づくことが出来なかったのかも知れないが、第三者であるミカは気づいた。人数の違和感に。
「クローバーチームの人数が四人になったから8代目のチームは解散って表示されたんですよね?でも本当に彼らが全滅したなら生き残ったのは3人だけって事になりませんか?」
「あ〜それな〜あの飲み会の日に私も気づいたよ。その後ツルギにも話したから、多分まだ気づいてないのはシドだけなんじゃねーかな」
「気づいてたんならどうして...あ....」
最後まで言い終わる前にミカは勘づいてしまった。そして声に出すのをやめてしまった。
「ミカちゃんも気づいちまったか?ミカちゃんの言う通りクローバーの生き残りは4人なのに私たちは3人だけ。つまり一人生き残った奴がいるって事だろうな〜でもそいつはクローバーには残らずに転属しちまってるんだぜ?さすがに気まずいだろ〜?」
気まずいなんて言葉を濁しているが本当はわかっていた。転属したと言うことは自分達から自らの意思で離れたと言う事実を。その生き残りはもう自分達のことを仲間だとは思っていないのかも知れないことを。そんなことを唐突に理解するとこの人の笑顔は半分まやかしだと言うことが理解できる。
「あの....気にならないんですか?誰が生き残ってるのかとか、どうして生きているのかとか」
「ん?そりゃあ聞きたいことはたくさんあるぜ〜でもな、ツルギとも話したんだけど向こうから話してこない限りこっちから聞くのは予想って事になったんだ。私たちからガンガン聞きまくったら、なんか怒ってるみたいだからさ」
ミカはそれ以上質問しなかった。いや出来なかった。これは自分がどうこう言っていい問題では無いと理解したからだ。ただ一つだけ伝えておかないといけないことがあった。
「その子はきっと、先輩達に会いたいって思ってますよ」
第三者のミカだからこそ伝えられることもある。ミカは8代目にあった事はなかったが、本当に仲が良かった事は伝わってくる。その子だってなんの理由も無くクローバーを離れたわけでは無いはず。
「......ありがとなミカちゃん。励ましにきたつもりだったのに、いつの間にか私が愚痴っちまってたな〜」
「私も先輩の話が聞けて良かったです。最初はうるさいだけの人かと思ってましたけど、誤解だったんですね」
「おいおい、言うようになったじゃねーか。コイツ〜」
メイはミカの頭をグリグリし始めた。今まで他人行儀だった二人は、この瞬間やっと仲間になることが出来たのだ。
「あ〜そうだ。仲良くなったついでにもう一つだけ聞きたいんだけどさ、クローバーの7の子って見かけなかったか?」
「え?7って誰でしたっけ?」
ミカは7が誰なのか覚えていなかった。初日に一度挨拶しただけなのだから覚えていなくても仕方がない。
「ナトって名乗ってた子なんだけどさ〜アイツと出かけてた2と3の子が消滅したっぽくてさ〜慰めてやろうと思って何度か探したんだけど、どうやら一回も街に帰ってきてないっぽいんだよな〜」
同じチームの仲間が生きているかどうかはリングで確認できる。メイは常にそれをチェックしており、エルとミラが消滅してしまったことも把握していたのだ。
「え!帰ってきてないってもう夜なのに?」
「そうなんだよな〜だからさミカちゃん。もし見かけたらちょっと話しかけてみてくれないかな?」
「え.......」
夜になっても帰ってこないのは確かに気にはなる。だからと言ってまだ一度も話したことがない他人。しかもミカは男嫌いの為自分から話しかけるのは嫌であった。
「まぁ....話せたら話します...」
もちろん話す気など微塵もなかったが、嫌と言うこともできなかった。
「よし!じゃあここからはお姉さんがミカちゃんの相談相手になるぞ〜?」
「え?」
「最初に来た時すごい顔だったぜ?なんか悩んでるんだろ〜お姉さんが聞いてあげるから話してみな?話すだけで楽になることもあるんだぜ。」
メイの話を聞いている内に半分忘れてしまっていたが、ミカも今日の出来事で悩んでいた。
「あの....先輩は...どうやって強くなったんですか?」
「ん?」
今日の出来事でミカは実感していたのだ。自分は弱いことを。親友と一緒に戦おうと胸に誓っていたはずなのに、今日の戦いで私は何もできなかった。ただ見ていただけだった。もしあの時、シドが助けに来てくれていなかったらユズを死なせていたかも知れない。
「別に私は強くねーよ」
「え?.....でも先輩ってQなんじゃ..」
チーム内において1〜10までの順番に意味はない。ただ、J Q Kの三つはチーム内でより強いプレイヤー、そして強くなる可能性が高いプレイヤーが自動で選ばれる。つまりQのメイは相当の実力者なのだ。
「私は強くなんてねーよ。本当に強い奴ってのはな、進化することをやめない。言い換えれば、自分が強いなんて思ってないんだぜ?私は今の実力に満足しちまってるからな〜」
「進化する事をやめない...それってどういう...」
「まぁ言い換えるなら、それだけ強くなりたい理由があるやつって事かな〜なんの理由も無くただ強くなりたいってだけじゃどうしたって限界は来る。別にそれが悪いってわけじゃないんだぜ?人間ってのはそう言う生き物なんだからそれが当たり前だ。でも、ごく稀にそう言うリミッターがぶっ壊れちまってる奴がいるんだよ。」
ミカはますます分からなくなってしまう。どうしたら強くなれるのか。どうしたら自分を認められるのか。
「私..今日思い知ったんです。自分が弱いことを..穴に落ちたユズを助けようとした時も...一瞬渋ってしまいました。私が蜘蛛の糸に捕まった時だって何もできなかった...もしあのままシドが来なかったら...ユズは...ユズは...」
ミカは感情が抑えられなくなってしまった。いつの間にか、泣きながら自分の思いを全てメイに吐き出してしまっていた。メイは何も言わずに黙って聞いてくれていた。ミカの思いを。
「別に悩む必要ないと思うけどな〜」
「.....へ?」
「だってミカちゃんは助けるために穴の中へ入ったんだろ〜?さっきから自分のことを弱い弱いって言ってるっけどさ〜本当に弱い奴は、まず穴に入ることだってできないと思うぜ〜?」
でも......私は.....
「それにさ、事実ミカちゃんはユズを助けられたじゃねーか。結果的に二人とも無事だったんならそれでいいんじゃねーの?」
メイは優しく答えるがミカは納得できなかった。それは結果論でしかないからだ。
「そんなの...ただの結果論でしょ...私は結局助けに入ったのに、途中で捕まって何もできなかった.....あのままじゃ...ユズは死んでた....こんな弱い私が、あんなに素直なユズのそばにいていいのか...分からなくなってきた...」
「じゃあミカちゃんはなんで強くなりたいんだ?」
「...へ?」
「今ここで叫んでみな?ミカちゃんが強くなりたい本当の理由」
理由?.....強くなりたい....
ミカは立ち上がると、後ろの柵の方へ向く。
「私は.....私はもっと強くなりたい!!強くなってあの子を守りたい!!それで.....胸を張って戦う!!私もあの子みたいに!誰かを守れるように!!!」
ミカは叫ぶ。山の頂上にいるかのように。そして何かスッキリしたような顔になった。
「吹っ切れたみたいだな。ミカちゃんは強くなれるぜ。私が保証するよ。」
「うん!ありがとうメイ。おかげでスッキリしたわ」
「おう!っておいおい!私は先輩だぞ〜?いつの間にかタメ口になってるし、しかも呼び捨てって...まぁ、お互い胸の内曝け出した中だもんな。いいぜ!私もミカって呼ぶから」
「ふ〜ん。メイって意外と子供っぽいね!」
「は!?誰が子供だよ!それを言ったらミカだって...」
その後二人は15分ほど言い合いをしていた。まるでじゃれ合っているかのようだった。お互い友達は少なかったからこそ楽しいのかも知れない。お互いに悩みを抱え込むタイプ。ある意味似た者同士なのかも知れない。
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