第14話 山エリア

メイと解散後、ミカは宿に戻ってそのまま眠ってしまった。胸の内が少しスッキリしたこともありそのまま寝てしまったのだ。ユズとミカは同じベットで寝ていた。隣にもう一つベットがあるのに一緒に寝ている。本当に仲が良いのだと思い知らされる風景である。先に起きたのはミカだった。彼女は起きると昨日のメイとの会話を思い出していた。それだけ嬉しかったのだ。新しい友達ができた事が。そしてユズを起こす事にする。

「ユズ。もう朝だよ」

「う〜ん。あと5分〜」

(この流れ昨日と完全に一緒じゃない。全く〜)

ミカはユズの寝顔を見ると何故か安心していた。このまま二度寝しようかと思っていると、ドアがノックされる。誰か来たのかと思い扉を開けると、廊下には誰もいなかった。代わりに一枚の手紙が置いてある。

「何これ?.....」

中を開けると奇妙な内容が書かれていた。


今日、南の山エリアに一人で行け。そこで運命は変わる。


運命?何を言っているんだ。まず一人で行けと言うのはどう考えても怪しい。これが漫画ならこのあと私は殺されるかも知れない。ミカはそう思い手紙を捨てようとしたが、何故か捨てる事ができなかった。理由はわからないがこれを無視してしまったら後悔するような、取り返しのつかないことになるような、そんな気がしている。

「ミカ〜どうしたの〜」

するとユズも目を覚ました。ミカは彼女に今起こった事を説明した。

「よくわからないけど、ミカが行きたいなら行ってきてもいいんじゃない?」

「え?本当にいいの?私が行くってことは、ユズが一人になっちゃうのよ?」

「大丈夫だよ!危険なことはしない。ちょっと街を散歩するだけにするよ。もし会えたら私はみんなに挨拶しておきたいし」

「あ〜そのことなんだけど....」

ミカは昨日ユズが寝た後にメイと会った事、そして8代目に何が起こったのかを全て話した。口止めはされていないしまぁ、話してしまっても大丈夫だろうとユズには話すことにした。ミカにとって彼女に隠し事をするのは至難の技だったからだ。

「え〜!ずるい!ミカだけ先に仲良くなったの!」

「私もあーなるとは思ってなかったけどね。メイとは仲良くなれたわ」

「この〜!」

ユズはミカをくすぐり始めた。ミカはくすぐりがものすごく弱い。しかしそれはユズも同じだった。ミカはゆずに反撃をする。お互いに相手をくすぐっている状態が5分ほど続いた。二人にとってはおふざけであり、からかい合う時間でもあり、大切な時間であった。こう言う時間があるからこそ過酷な状況でも戦う事ができるのかも知れない。

その後一緒に朝ごはんを食べると、ミカは手紙の通りに山エリアへ向かうことにした。万が一の為に雷神を持って行った方が良いとユズは言っているが、ミカはすぐに戻ってくるから大丈夫と雷神を持とうとはしなかった。

「じゃあ行ってくるね」

「うん!気をつけてね!」

ユズは山エリアの入り口まで見送ると、ミカは出発した。山エリアへ一人ではいるのは危険だと初日にメイから忠告されていたがすぐに戻ってくるつもりだし大丈夫だろうと油断している。山エリアはとても広い。洞窟や崖、川に谷など危険な場所が満載のエリアだ。そして出てくるモンスターもかなり強く単独で挑めば命が危うくなる。ただ、モンスターは急に現れることはない。ゲームなどとは違い急に召喚されることもないので隠れながら移動すれば、戦わずに移動することも可能であった。ミカはうまく隠れながら山エリアを進んでいく。途中の川で少し休憩したりとまるでピクニックのような気分にもなっている。ミカは手紙のことを思い出していた。あの手紙を書いたのは一体誰なのか。ユズ以外にミカの知り合いと呼べる人間はメイしかいなかったが、前日に会っていたメイにはそんな手紙を書く理由がない。そもそもなぜ自分があの部屋にいることを知っているのか。謎ばかりが膨らんでいた。そしてもう一つ。自分はどうやったら強くなれるのか。昨日メイとの雑談で悩みを解消する事ができた。だが、強くなりたいという願いの根本的な解決にはなっていない。ミカは雷神はユズに託そうと考えている。これからも一緒に使おうとユズは言っていたが、蜘蛛との戦いの時ユズはすぐに雷神を使いこなしていた。これからも本気で修行すれば、恐らくクローバーの中でもトップクラスの戦闘力になるかも知れない。なら二人で使うよりもゆずに託した方が良いとミカは思っていたのだ。


ミカは半日をかけて山エリアを探索したが、特に何もなかった。途中モンスターを見つけ隠れてやり過ごした事はあったが、モンスターの数が他のエリアよりも少なく感じる。普通に歩いていても奇襲やトラップなどは全く無かった。これなら自分達がいたお城の方がモンスターの数が多いかも知れない。特に何もないしもう帰ってしまおうかと思い始めていた。そろそろ日が暮れ始める時刻であり、ユズがどうしているかも少し気になり始めていた。自分が寂しいだけかも知れないが。


ミカは街へ向かって歩いていた。歩いてきた道を正確に戻っている。途中には川や崖などがたくさん広がっている。ミカが崖の途中を歩いている時にトラブルが発生した。岩陰に隠れていた狼モンスターが飛び出してきたのだ。


モンスター!?でも一匹ならなんとか....


ミカは腰に持っていた2本の短剣を手に取ると狼モンスターと睨み合う。しかしミカはモンスターを意識しすぎてしまい足元をよく見ていなかった。

「うわ!?」

ミカは左足を滑らせ崖の下へ落ちてしまう。受け身を取る為、短剣を手放し着地する。受け身をとれた為大きいダメージにはならなかったが崖の下へ落ちてしまった。


やっちゃったな....どうやって戻ろう...


崖の深さは約マンション5階建て分。とても登れる高さではない。ひとまずさっき手放した短剣を探す。一本はすぐに見つかったがもう一本はなかなか見つからなかった。


街まで戻れば新しいのが手に入るし、まぁ一本でも大丈夫かな。


そう思って別の道を探そうとした時、何かが近づいてくる音が聞こえた。

彼女はすぐに草むらに隠れる。その音の正体はさっきの狼モンスターだった。ここまで追ってくるとはなかなかのストーカー気質である。奇襲すればきっと倒せる。そう思い草むらを飛び出し狼に攻撃する。3回ほど攻撃するとオオカミはすぐに消滅した。しかしその背後に隠れていたもう一匹にミカは気付くことができなかった。オオカミは雄叫びを上げる。すると仲間が集まってきてしまう。それもすごい数だ。200匹以上はいる。

「まずい.....」

ミカはすぐに逃げ出した。どう考えても一人で相手できる数ではないからだ。オオカミは彼女を追っている。数十メートル離れた場所に小さな森がありそこに逃げ込んだ。森の中心には開けた場所があり狼はそこに集まっている。ここに隠れていればきっとやり過ごせる。そう思っていたが彼女はあるものがなくなっていることに気づいた。

「あれ....無い....耳飾りが無い!」

さっきまでつけていた耳飾りがなくなっていたのだ。あの耳飾りは現実にいた時にユズが誕生日にプレゼントしてくれた本当に大切な物だった。見つけない限り帰る負けには行かない。だが耳飾りはすぐに見つかった。災厄な形で。

「あの狼!.....」

狼の群れの中の一匹、彼女から一番近くにいる狼が耳飾りを咥えていた。ミカは考えた。ここで逃げれば間違いなく気付かれる事は無い。だがここで逃げたら耳飾りは二度と戻ってくる事はないかも知れない。

ミカは自分の命を優先する事は出来なかった。ユズからもらった大切な宝物は絶対に失いたくない。そんな思いからミカは狼の群れに向かって飛び出していた。それが自殺行為であることを分かっていても足を止める事ができなかった。

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