第12話 一番の宝物
しずくとカレンは空洞の行き止まり、城の廊下付近に倒れていた。カレンもほんの数分間気を失ってしまっていた。
カレンは先に目を覚ますと、空洞から何かが近づいてくるのに気づく。
「これは...やばいかも知れないな...」
小さな蜘蛛が一匹二人に向かって近づいていた。カレンの持っている武器は護身用に持っていた短剣が一本あるのみ。その短剣すらほど使ったことがなかった。逃げた方が良いと頭は理解していたが、気を失っているしずくを置いて逃げるわけにはいかない。だからと言ってしずくを抱えて逃げることができるだろうか?意思疎通を使い、助けを呼ぶ選択肢も思いついたがそれな出来ない。意思疎通をお互いに装備していれば遠くからでもやり取りは可能だが、自分以外のプレイヤーが意思疎通を持っていない場合は視界にいなければ発動出来ない。つまり今彼女は助けを呼ぶ手段を持っていないのだ。カレンは戦うことを決意し、しずくの頬に手を当てた。
「ちょっと待っててね。すぐに戻ってくるから。」
カレンはそのまま立ち上がると短剣を蜘蛛に向ける。
「私の妹には指一本触れさせない!しずくは絶対、私が守る!」
カレンは蜘蛛に向かって走り出した。先ほどまで皆で戦っていたエネミーほどの大きさでは無い小物。しかしカレンには戦闘経験がほとんどない。最初の頃に皆で少しモンスターを倒していた時だけである。
こいつをしずくに近づけちゃいけない!まずは足から狙う!
カレンは蜘蛛の側面に入るとまずは右足を切断しようとする。しかし、彼女の攻撃力では足を切断することはできなかった。蜘蛛はそのまま彼女に糸を吐くとしずくの方へ突き飛ばした。カレンは受け身を取ったがかなりのダメージを受けてしまう。
これは.....詰んでいるな.....
しかし彼女は諦めなかった。再び短剣を手に取り立ち上がる。自分の命と引き換えになったとしても必ずコイツを倒すために。
「たとえ私がどうなろうと!しずくは絶対に死なせない!」
そして彼女は蜘蛛と戦い続けた。どれだけボロボロになろうとも決して諦めないその姿はまるで、
しずくが目を覚ましたのはカレンが蜘蛛と戦い始めてから5分後のことだった。しずくは目を覚ますと、目の前の光景を見た途端走り出していた。
「おねぇちゃん!!」
しずくの目に映ったのは蜘蛛と相討ちになっている姉の姿だった。しずくが近づくと蜘蛛は光に包まれ消えてしまった。カレンは倒れそうになるがしずくが腕に抱き抱える。
「あぁ...おはようしずく...おねぇちゃん...ちょっと無理しすぎちゃったみたい...」
その時カレンのリングに表示されていた体力は0%。既に消滅寸前だったカレンの体は少しずつ光出してしまう。
「待って...そんな...嫌だよ...おねぇちゃんがいなくなっちゃったら...私...どうしたら...」
「しずく。逃げて、さっき誰かの叫び声が聞こえた。多分向こうでも誰かやられたのかも知れない。災厄もう全滅してるかも」
「だからって逃げるなんて出来ないよ!それにおねぇちゃんが消えちゃったら...私...どうすれば...」
カレンを包む光はどんどん明るくなっている。もういつ消えてもおかしくない。するとカレンは泣いているしずくの頬に手を当てた。
「しずく...私...あなたの姉として過ごせた事時間が...本当に幸せだった...貴方は私の...一番の宝物なの...だから...生きて...私の事...忘れないでね...」
カレンは最後の瞬間笑っていた。お別れの瞬間は笑っていたかったのか、しずくに心配させないためなのかその理由は本人にしか分からない。カレンの光は消え、彼女は消滅してしまった。しずくは涙を止めることができなかった。頭の中に姉との思い出が溢れ出てきたからだ。喧嘩した思い出も苦しかった思い出もある。でも今溢れ出てくる思い出は楽しかった思い出ばかりだった。カレンはいつもしずくを守ってくれていた。大切にしてくれていた。そんな事を考えていると涙はずっと止まらない。
しかし、二人が飛ばされてきた空洞から何かが近づいてくる。さっきカレンが倒した蜘蛛と全く同じだった。しずくはカレンが使っていた短剣を手に取ると、そのまま走り出した。空洞の先では無く廊下へ走っている。ずっとこの城を探検していたのだから出口までのルートはわかっていた。蜘蛛から逃げながら出口へ向かっているが彼女は涙を止めることができなかった。泣いている場合ではないことはわかっている。下手をすれば自分も蜘蛛に殺されてしまうかも知れない。だが彼女は泣き続けていた。逃げている途中もカレンとの記憶が溢れ出てきてしまっていたからだ。
シドは急いで街へ戻りツルギとメイを探した。二人はすぐに見つかり城へ向かって走っていた。シドは信じていた。きっとみんな無事だと。駆けつけた時にはきっと笑顔で待ってくれているだろうと。みんなは強い。あんなエネミーなんかにやられるはずが無い。そう信じていた。シドは考えることができなかったのだ。仲間が負ける事を。想像することが出来なかった。仲間が死んでしまうその姿を。
城へやってくると、3人は急いでトラップ部屋まで向かった。そして穴へ飛び込み下へとおりてゆく。下へとたどり着くと、そこにはキララが立ち尽くしていた。全身光に包まれながら。
「キララ!!」
シドはキララの名を叫んだ。するとキララはこちらへ振り返ると何かを呟くと、光がさらに強くなった。
「待って!待ってくれキララ!」
シドがキララへ向かって走ってゆくが間に合わなかった。キララは消滅してしまい、手に持っていた風神が床に落ちる。
「そんな.....何で...みんなは...」
その時リングから警報がなり響いた。ツルギとメイはその警報を一度聞いたことがあった。シドはリングを見るとアナウンスが表示されていた。
クローバーチームが4人になったため全ての8代目チームは今日限りで解散になります。
転属希望の方はリングからチームを変更してください。
ゾンビシアター転送は明日の正午になります。
「なんですか....これ....」
「見ての通りだよ。俺たちクローバーチームは5人以下になってしまった。だから解散ってことさ。ごめんシド。俺たちがもっと早く来ていればこんな結果にはならなかったかもしれない。」
ツルギの表情はとても暗かった。メイは隣で何も言うことができずに泣いている。こんな結果になってしまったのは自分たちのせいだと思っているからだ。
「いえ....俺たちが勝手にこんなところ来たのが行けなかったんですよ...だから...先輩は...泣かないで..くださいよ...」
三人はそれ以上話すことができなかった。町まで戻るとシドは一人で宿屋に戻ってしまった。メイだけが知っている事実だがツルギは人の前では泣かない。町の外れのベンチで一人で泣いていた。他のチームは最後の日に飲み会をしているチームが多かった。他のチームはメンバーが補充されることも無く明日からも変わらない日常が続く、クローバーが他のチームと仲が良かったなら慰めに来てくれたものもいたかもしれない。だが、8代目のクローバーは自分たちの絆は深めていたが他チームとの交流は全くしていなかったのだ。
こうして8代目のクローバーチームの物語は幕を閉じた。いや閉じてしまったと言った方が正しいかもしれない
そして次の日の正午。同じクローバーチームに残ることにしたツルギ、メイ、シドの三人はゾンビシアターへと転送され9代目のクローバーチームが誕生する事になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます