第30話 期待とバズり
<妹> 🩶
「だから! この作品の根本はグロになくて、人を信じなくちゃ、大事なものを失うっていう教訓を教えてくれるんだよ!」
「うん。後半まで観ればそうだって分かるんだろうけど、それまでのストレスがエグいんだよ。そう考えると、リメイクのやつは、見やすかったよ」
「あれはありえないよ。考察してた自分が馬鹿らしくなった。ある意味衝撃を受けたけど、物語として、匙を投げられたとガッカリたりしたもんだよ」
「途中まで面白かった過程まで否定する必要はないじゃん?」
「面白かった分、裏切られた気になったんだよ」
勘のいい人なら何のアニメの話をしているのか分かるだろう。
あれほど、賛否が分かれる作品も珍しいだろう。
旧作の方が評判が良いが、グロ耐性がない人には、1章を観るのさえ辛いレベルだ。
実際、私は観れなかった。でも、リメイクはギリギリ観れた。
今、何をしているかというと、おばあちゃんとYouTubeを撮っている。
あの朝、おばあちゃんの家に帰ることを決意した私は、兄さんと空梨さんにストーキングしていたことをしていた謝罪と兄さんの家から出ることを報告した。
旅館のフリースペースで私の説明を聞き終わった兄さんは、「分かった。元気でな」と、シンプルな別れの言葉をくれた。
正直、私がいなくなったら、あの家は大丈夫かと心配だったが、たまに、普通の兄妹の頻度で様子を見に行こうと決めることで自分を納得させた。
空梨さんは、「邪魔しないんだったら、なんでも良いです」とそっけなかった。当たり前だ。空梨さんにとっては、自分の担当する作家の厄介なストーカーでしかなかったんだから。
「あー、でも、YouTubeをもうちょっとマシにして下さいね」
少し、恥ずかしそうに空梨さんが言う。
そう言われた時、私はポカーンとしてしまった。昨日、あれだけボロカスに言われたから、私からしたらもう封鎖してしまおうと考えていたからだ。
「一時期は、それなりに売り上げにつながりました。あれくらいのレベルなら、上げてくれたら助かります」
さすが優秀な編集者だ。利用できそうになったら、私さえ使うのか。
「はい。期待して下さい」
この期待だけは、裏切ってはいけないと思った。
帰りの新幹線にて、私は考え込んでいた。
しかし、どうしよう。
私のことだ。そのうち暴走してしまうだろう。
せめて、パートナーがほしい。
私をセーブしてくれる人を雇うべきだ。
「私、出てもいい?」
「は?」
隣の席で本を読んでいたと思っていたおばあちゃんがなんか言った。考え事をしていたから、聞き取れなかった。
「ごめん。もう一回いい?」
「私もあんたのYouTubeに出ていい?」
「えーっと」
「私も言いたいことあるんだけど、SNSのこととかよく分からないから、世間様に伝えられなかったんだけど、あんたのYouTubeに出れば、簡単だなぁと思って」
・・・まあ、一回くらい試してるか。
結果、おばあちゃんの深い考察に熱心なファンがついてしまい、コメント欄に『あのおばあさんをもう一回みたいです!』とか、『あのおばあさんだったら、もっと踏み込むんだけどなぁ』とかのコメントが増えた。
幸い、一緒に住んでいるので、そのリクエストは、すぐに答えることができた。
しかし、その動画内で私達は、作品の見方の違いが原因で大喧嘩になった。
1時間くらいの祖母と孫の喧嘩をうっかりアップしてしまった時は、炎上確実と覚悟したが、視聴者の反応は、今までにないくらい好感触だった。
『神動画』だそうだ。
今までの視聴者以外にも知れ渡り、登録者数も3倍になった。
唯一の友人は、「おばあちゃんともコラボしたい」と言っていたが、このスタイルの動画にどうやって第三者を入れるのかを考えているので、まだ合わせられていない。
二人が会うのを見るのが怖いから後回しにしているわけではない。
絶対に私の話をするのが嫌なわけでは断じてない。
でも、あと1ヶ月はかかりそうだ。
そんな無駄なことを考えている私の元に、嬉しいニュースが入った。
兄さんの新刊の発売日が決まった。
最速で手に入るサイトで予約して、おばあちゃんと仲良く兄さんの作品で喧嘩できるのを楽しみに思った。
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