第18話 日常と暴走

<妹> 🩶

夏が嫌いだ。

海だ祭りだスイカだとか言うがこの過ごしにくさには全く割に合わない。


「季節に文句を言っても仕方ないよ」


そうめんを作るのを手伝いながらそんなこと言ってみたら、軽く流された。料理をしているものだから腕の入れ墨が目立つ。


「そうだねー」


ビビって反論しない。夏に対する文句はあと2時間喋れるけど、良い子モードに入ることにする。

高校3年生の夏休み。

相変わらず私はおばあちゃんのお店に入り浸っている。夏休みは、ほぼ毎日来ているため、昼食が私の分も用意されるようになった。流石に毎日施しを受けていたら申し訳なくなり、料理の手伝いを申し入れた。今思えば、家での家事の経験が少ない女子高生に台所でウロウロされて、おばあちゃんからしたら逆に迷惑だろうだったろうと思う。しかし、おばあちゃんはしっかり工程を説明してくれた。

教えてもらってから10日、多少はマシになった私は、どうでも良い話をする余裕ができ始めていた。

で、流される。という流れが定番だ。


「はい。食べましょう」


「いただきます」


そうめんなんか、一瞬で食べ終わるものだと思っていたが、意外と減らない。おばあちゃんの箸があまり動いていないようだった。


「おばあちゃん、食欲ない?」


「・・・うん。そうかも。あとはあんた食べて良いよ」


これが小説だったら、この後おばあちゃんが倒れるのだろうなぁ。とか思いながら、「大丈夫?」と適当な心配をした。


「少し寝る。洗い物は任せて良いかい?」


「あーい」


仕方ないので、想定よりも多いそうめんを1人で食べる。

自分の咀嚼音だけが聞こえる。テレビをつけたいけど、寝ているおばあちゃんがいるのにつけられるほど無神経ではない。

無意識に急いでそうめんをかき込む。

なんか、疲れた。

おばあちゃんも寝ちゃったし、兄さんの小説でも読んでよう。

デビューしてから、兄さんの小説は割と早いペースで作品を出し続けていた。

おばあちゃんは、その筆の速さを褒めていた。

私も、おばあちゃんと話を合わせるために発売される度に読んでいた。

言いたいことは分かるようになったけど、面白いかと聞かれれば、よくわからないと答えるしかない。

文学ってのは、他のもこんな感じなのかな。

別に読んでいて不快になるわけでもないから、こうして暇な時に読んでみる。


1時間半くらい経ってもおばあちゃんが起きてこないので、声をかけてから帰ることにした。


「おばあちゃん、おばあちゃん」


起きない。

・・・ん?

身体を揺さぶっても起きない。

・・・。

冷房が効いているのに汗が出てくる。

こんなに起きないことってあるか?

おばあちゃんが寝る前に、私、なんて思った?


(これが小説だったら、この後おばあちゃんが倒れるんだろうなぁ)


気がついたら、走り出していた。

とにかく、走り回った。

もう引退したとはいえ、バドミントン部の体力を全て使い、フォームを無視して走り続けた。

どこまで行ったのかは分からない。どうやって帰ったのかも覚えていない。

おばあちゃんおばあちゃんおばあちゃんおばあちゃんおばあちゃんおばあちゃんおばあちゃんおばあちゃんおばあちゃんおばあちゃん。

もし、無意識に考えている可能性が当たっていたら。

私は、もう立ち直れない。

他の寄生先を見つけないと。


(お前の兄さんはすごいねぇ)


おばあちゃんが、いつか言っていたことを思い出す。


「・・・兄さん」

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