第14話 順調と遠出
<兄> ♠️
陸上の小説の執筆は順調だった。
朝7時に起きて妹の作ってくれた朝ご飯を食べてから8時にランニング。6キロほど走ってから風呂に入り、アニメや漫画を少し嗜んでいたら10時になり、執筆開始。12時半まで一気に書き、バラエティ番組を見ながらコンビニ弁当を食う。14時から18時まで再び執筆。その頃になったら、大学なバイトを終えた妹が帰ってくる。
晩御飯を一緒に食べてアニメや映画を観る。
別に暗くも明るくもないし、普通に楽しく会話をしている。
じゃあ、あのYouTubeは、シンプルに調子が悪かったのではないかと思ってきて、気が楽になってきた。
「兄さん、明日は担当さんと打ち合わせでしょ?」
スマホを見ながら妹が聞いてくる。
「うん。昼はテキトーに外で食べるわ」
「はーい」
スマホから目を離さない。
なんかのアプリにハマっているのだろうか。
「喫茶店で小説の打ち合わせっていうのも、芸がないですよねー」
「打ち合わせにそんなもんいらないでしょう」
今回の打ち合わせも順調だった。
もうそろそろ解散の雰囲気が出てきた頃、空梨さんが変なことを言い出した。
「いやいや、先生。場所は大切ですよ?寝室を落ち着かない場所だと感じていたら、寝付きが悪くなるらしいじゃないですか」
「はあ。けど、この喫茶店は落ち着きますよ」
別段変わったところはないけれど、たぶん美味いんじゃないかと思うコーヒーを飲みながら俺と空梨さんを無視してくれているマスター?みたいな人も好感が持てる。
「はぁ・・・。小説家が変化を恐れてどうするんですか」
足を組みながら偉そうに言う。
たぶん、1人じゃ入りづらい店に俺を道連れにしようとしているんだろう。
了解。俺が大人になろう。
「分かりました。どこが良いんですか?」
「ちょっと遠出しますか」
「えー」
旅行が嫌いだ。
わざわざお金と時間と労力を払って移動をするだけとしか思えない。
「昔の文豪の方々は、旅館に籠って名作を書いたらしいですよ。先生も後に文豪と呼ばれるために、旅館で書いて、旅館で打ち合わせしましょう」
なんで急にこんな熱血編集者になったのだろう。
そんなに今書いている小説に可能性があるのか?
悪い気はしない。
まあ、いっか。
「はいよ。分かりました」
目上の人に対して、失礼に値する態度になってしまったが、許してほしい。こっちはめちゃくちゃ譲歩しているのだ。
「わーい」
両手を上げてそう言う空梨さん。
万歳をしているだけで、声も表情も全く楽しそうではない。せめて嬉しそうにしてほしい。
すぐに万歳をやめて、行き先と日程を決める話を始めた。
「じゃあ、当日お願いしますよ。覚えていて下さいよ。先生、記憶が雑なんですから」
なんか、すごく馬鹿にされてるなぁ。
まあ、実際馬鹿なのだから仕方ない。
「はいはい」
もう、いい加減帰りたいから、テキトーに返事する。
カバンと伝票を持って、強制的にこの会合を終わらせにかかる。
「あ、先生。私、私っていうか、出版社で払いますよ」
そう言って俺から伝票を奪い取る空梨さん。
出版社にコーヒーを奢ってもらうだけでなく、小旅行のお金も出してもらうことになってしまった。
借りが増えてしまった。
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