第9話 ゲルグさんのおすすめ

宿に戻ったあと、俺はゲルグさんに誘われて一緒に夕食を食べることになった。

お金がないので遠慮はしたのだが、また出世払いということでごり押しされてしまったのだ。

我ながら情けない……必ず返さなければ……!


「この店じゃ、ここは美味いぞお。この砦に来た時、わしはいつもここで飯を食べるんじゃ。」


ゲルグさんが満面の笑みで言う。

それだけでこの店がものすごく好きなんだと感じる。


「いらっしゃい、……とまあゲルグさんじゃないの!久しぶりねー、ゆっくりしてってちょうだい!」


店に入ると少しふくよかな女将さんが案内してくれた。

少なくとも名前で呼ばれるくらいには通ってるらしい。気に入ってる店なんだから当たり前か。

店内は客でほぼ満席状態だった。客の話し声や笑い声でごった返してる。

俺とゲルグさんは隅っこのテーブル席に腰をかける。

高級感はあまりないが、清潔感がありとても温かみのある雰囲気の店だ。


「お前さんは何か食べたいものあるか?」


そう言われてメニューを見る。

見たことのないはずの字が何故か自然と読める。

頭の中に翻訳機があって見た瞬間日本語に変換されてる感じだ。

不思議だ。なぜこの文字が読めるのだろう。俺が森にいたことといい謎が深まるばかりだが、とりあえず今は飯だ。

さっきから俺の腹が食い物をよこせとグーグーなってる。

しかしどれも美味しそうで中々決まらない。


「えーっと、どれも美味しそうで全く決まらないです。ゲルグさんのおすすめとかありますか?」


ゲルグさんにそう尋ねると待ってましたと言わんばかりにニヤっと笑った。


「そーか、わしのおすすめがいいか!おーい、女将さん、いつもの2つくれ!お前さん、酒は飲むか?」


「いえ、まだ未成年なので。」


「ほぉ、てっきり成人してるかと思っとったが……まあいい、追加でエールもくれ!」


「あいよー!」


女将さんが元気な声で返事をする。


「……ゲルグさんのおすすめってなんですか?」


「それは来てからのお楽しみだ。楽しみはなんでも最後に取っとくのが1番じゃ!」


一体どんな料理が出てくるのだろう。少しドキドキする。


「ところでゲルグさん、実は俺、田舎の方出身でして、あまりこの国に詳しくなくて……良かったら教えて貰えませんか?」


この世界では、常識であろうことを一応田舎出身と前置きをして無知のふりをして聞いてみる。


「なんじゃ?お前さんは、ものすごい田舎出身のようじゃな!まさか自分のいる国も知らないとは。」


ゲルグさんがガッハハと豪快に笑う。


「いいか、お前さんがいる国はイル王国じゃ。まあ、一言でいうと、いろいろな種族が暮らしてる国じゃな。あとは神聖リーリア皇国、ヴェーリック共和国、アーロ魔帝国がある。」


なるほど、全部で四つの国があるんだな。それにしてもカタカナばっかりで覚えにくそうだな……


「リーリア皇国はな、はっきり言っていけ好かない国じゃ。あの国に住んでる連中はほとんどが人間で、自分たちの種族が一番偉いと思っとる。アーロ魔帝国は魔族が多く住む国でな、魔術にたけておる。」


皇国は人族主義ってことか…なんか名前からして宗教とかありそうだな。魔帝国には魔族がいるのか。昔はまったゲームを思い出してワクワクするなあ。


「それで、ヴェーリック共和国はどんな国なんですか?」


「あそこは獣人の国じゃな。」


獣人…コロネさんも共和国の出身なのだろうか?これから行く街でまた会えるといいな。


「お待たせしてごめんね~!はい、これいつもの二つとエールね!」


どんっと湯気がたくさん出てる大きいお皿が目の前に置かれる。


「おぉ~!!」


ゲルグさんのおすすめはビーフシチューだった。とろとろに煮込まれた牛肉?がたくさん入っていて、上には卵が乗っていてとてもおいしそうだ。


「いっただきまーす!」


パンっと手をたたき、早速一口目を口に入れる。


「ん~~!!ゲルグさん、これめちゃくちゃおいしいです!」


「そーかそーか!気に入ってもらえたのならなによりじゃ。ほれ、もっと食え!」


「はい!」


俺は元気な声で返事をして、二口目、三口目と食べ進めていった。

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