第8話 ちょっとモフモフしたい……

で、でかい……。

目の前に立ちはだかる砦の石造りの壁に思わず口をあんぐりと開ける。

壁の上には兵士らしき人達が見回りをしている。

さすが砦。砦の名前は伊達じゃないな。


「身分証を見せてください。」


門の前の兵士が言う。見た感じ中世っぽい感じの甲冑を身につけてる。

腰に掛かっている剣で斬られたらひとたまりもないだろう……

思わず背筋がブルッとする。


「ほい。」


ゲルグさんが何やらカードらしきものを見せてる。

なにあれ?俺知らないんだけど。


「そちらのお連れ様のは……?」


「すいません、俺身分証持ってません……」


恐る恐る門番に言う。どうしよう身分証が無いと入れないとか言われたら……。


「でしたら、仮身分証を発行しますね。その狼2匹は従魔で登録してよろしいですか?」


「は、はい……」


俺の予想と逆に話がトントン拍子で進んでいく。


「では、最後にここに手を当ててください。」


そう言って水晶玉を出してきた。

なにこれ?

ちらりとゲルグさんを見ると、うんうんとうなづいてる。

多分黙って言う通りにしろと言ってるっぽい。

俺は半信半疑で水晶玉に手を当てる。

すると水晶玉が青色に光る。


「はい、前科はないようですので通って大丈夫です。」


どうやら犯罪歴を確かめてたらしい。

何それすごい。俺も欲しい。

門番はニコリと笑って仮身分証を俺に渡した。


「あくまでも仮なので街に着いたら身分証の発行をしてください。」


そう言って門番は門を開けて俺達を見送った。


「よし、今日は宿で一泊して明日街に出発したいんじゃがお前さんはそれで大丈夫か?」


ゲルグさんが俺にそう聞いてくる。

俺からしたら馬車に乗せて貰ってる身なので全然不満はない。

そんなに急ぐ用事もないしね。

一応シロとクロに確認をとるが2匹とも大丈夫なようだ。


「はい、それで大丈夫です。それで……明日はどこに集合すればいいでしょうか?」


「ん?一緒の宿に泊まれば集合する必要ないじゃろ?」


「いや……実は俺、今無一文なので、どこかに野宿しようかと……」


ゲルグさんが、あ……という顔で見てくる。

お願いだからそんな憐れむ顔をしないでください……。


「そうじゃったのか……よし、わしがお前さんの宿代も払ってやる!」


「いやいやいや!さすがにそれは悪いですよ!」


「いいや、わしは1度決めたことは曲げない主義なんじゃ!」


「でも流石に今日初めて会った人にそこまでお世話になるなんて……」


「……だったらお前さんの出世払いでいい。それか今後わしの店を贔屓にしといてくれ。それなら構わないじゃろ?」


「うっ……わかりました……ありがとうございます。」


俺が根負けしてそう言うとゲルグさんはニヤリと笑う。

ゲルグさん強すぎだろ……。

こうなったらなんとしてでもお金を稼いで返さなければ……!



***



宿に着き、部屋を確保した後ゲルグさんとは別行動になった。

仕事があるらしい。

夕食までには帰るように言われてシロとクロを連れて少し散歩に出る。

砦とは言ったものの、店や家は普通にいくつか建っていた。

ちょっとした町と言っても大丈夫なくらい。

屋台も出ていて肉の焼ける美味そうな匂いが漂ってくる。


「美味そう……」


シロとクロを見るとヨダレを垂らして鼻を引くつかせている。

やっぱ美味しそうだよなー。

でも、俺今無一文だから買ってやれないんだよ……。ごめんよ……。


くっと屋台から目を背け、逆方向に歩き始める。


「「くぅーん……」」


2匹も名残惜しい様子で俺の後を着いてくる。

……後でいっぱい撫でてあげよう。


「……んだと、この野郎!」


突然怒鳴り声が聞こえて、声の方を見る。

視線の先には若い男3人が1人の女性を取り囲んでいた。

男の1人が今にも女性に殴りかかろうとしている。


「やめろ!」


思わず間に割って入る。

3対1、それも女性を取り囲むのはさすがに卑怯だろ……。


「やんのか、こら!」


3人組のうち1人が俺に向かって叫ぶ。


「「ヴー……」」


俺に続いてシロとクロが間に入り威嚇する。


「……おい」


「……ちっ、覚えとけよ!」


シロとクロに怯み、3人はひと昔前の捨て台詞を吐いて去って行った。

ふぅ……さすが俺の仲間。頼もしいかぎりだ。


「2匹ともありがとうな。」


「「ワン!」」


2匹は元気よく返事をする。

かわいすぎだろ、こいつら……


「あの……!」


シロとクロを撫でていると助けた女性が声をかけてきた。

あ……ちょっと忘れてた……かも。


「えーと、大丈夫ですか……?」


彼女いない歴=年齢の俺、女性の扱い方がわからず生きてきたので恐る恐る尋ねる。


「た、助けてくれてありがとう、ございます……にゃ」


女性がペコりとお辞儀をする。

んーと、今にゃって言わなかったっけ?

確かに言ったよね!?


女性をよく見ると普通の人間だった。……頭に猫耳としっぽのついた。

さっきはフードを被っていたからよくわからなかったけど今は被ってないからよく見える。

長く綺麗な緋色の髪の上に2つ、確かに耳がついてる。しかもピコピコ動いてるし……。


「えっと……」


「あ……!名乗るのが遅れました、私、猫獣人のコロネって言います!……にゃ」


可愛らしい声で言う。

でもなんだろう?この違和感。

なんか無理やり語尾に「にゃ」ってつけてないか?

気になるな……聞いちゃおっかな?


「ごめん、もし間違ってたら申し訳ないんだけど、無理やり語尾ににゃってつけてない?」


「……もしかして普通つけませんか?」


あ、「にゃ」が消えた。


「俺は獣人に会ったのは初めてだけど普通は言わないんじゃないかな?」


「……シュクリーの嘘つき……帰ったら絶対懲らしめてやる!」


「ん?なんか言った?」


「い、いえ教えてくれてありがとうございます。えっと、このお礼は必ず返します!そ、それじゃあ……!」


そう言って走り去ってしまった……。

なんだか変わった子だったなー。つっても同い年くらいだけど。

あの子の耳と尻尾、すごく触り心地良さそうだった。今度会った時に大丈夫だったら触らせてもらおう。

この世界、人間以外もいるんだなぁ……


俺は不思議に思いつつ宿に戻った。

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