第6話 ああ道よ、お前はもう飽きた

熊惨殺事件から何日か経ってようやく道と言えるようなものに出会えた。

長かった……

思わず地面の道に頬ずりしたくなる。


耐えろ俺。ここでそれをしたら何かを失う気がする。

食べ物は『菓子生成』で、水は『水魔法』で出せるから空腹や脱水症状にはならなかったが、いい加減お菓子以外が食べたい。

肉、とにかく肉が食べたい!

どうしてあの時熊を食べなかったんだ、過去の俺!


後悔してももう遅い。

それにあの熊はもうシロとクロの腹の中だ。

いや、とっくに消化されてるか……

そういえば俺、動物を殺したの初めてだったんだよなー

思ったよりも精神的なダメージはなかった。

まあ、自分が殺されるかもしれなかったからかもだけど。


そんな事を考えながら周りを見る。

後ろ……森、前……草原。

街っぽいものはなし。ただ地平線だけが広がっている。


道と言ったが、現代の日本のようにアスファルトとかじゃない。

ただ単に土の地面を固めただけという感じだ。


うん。

どうしよう。

道は一本、行くなら右か左のどっちかだ。


どーちーらーにーしーよーうーかーなー


よし、左だ。

多分あってる。だって天の神様がそう言ったからね。

自分を納得させ、左に足を向ける。


「ワンッ」


シロが吠えた。


「えっ?こっちじゃない?」


「ワンワン!」


「じゃあ反対にするかー」


傍から見れば狼に話しかけてる頭のおかしい人だろう。

当たり前だ。

俺もそんな人見たら絶対関わらない。

でも多分俺はおかしくない。

何となくシロとクロの言いたいことが分かるのだ。

多分テイムしたからだと思う。


どうやらシロは右が当たりだと思ってるようだ。

確証があるのかは分からないが、ここはシロを信じよう。

どうせどっちも同じ景色だし。

あといるかも分からない天の神様よりもシロの方が信用できる。

こいつら意外と頭いいし。


森でさまよってた時、ダメもとで2匹に出口を聞いたらあっさりこの道に辿りつけたし。

こんなことなら初めから聞いとけば良かった……


とにかく右に行こう。


ごめんね、天の神様。



***



ひたすら歩く。

始めは森じゃない景色が久しぶりで、新鮮だったがすぐに飽きた。

歩いても歩いても変わらない景色。

実は同じ場所をぐるぐる回ってるのでは、と思ってしまうがそれはないだろう。


太陽の高さからして多分数時間は歩いてる。

喉が乾いても水が出せるから安心だ。


なんとなーく、遠くの方に街っぽい影が見えるような見えないような……

もしあれが街だとしても多分今日中に着かないだろう。

結構遠いよ、あれ。

だって全然大きくならないもん。

気が遠くなるような道を心を無にして歩く。


そしてまたしばらく歩いた時、後ろから遠くでガラガラと何かが近づいてくる音がした。

後ろを振り向くと馬車が遠くの方にいた。

馬車はどんどん近づき、途中で俺に気づいたのか減速し、俺の前で止まった。

馬車と言っても貴族が乗る感じじゃない。

荷馬車みたいな感じだ。


馬車の前の方には、50代くらいのおじさんが座っていた。


「おめーさん、こんな街から離れたとこで何してんだぁ?」


おじさんがおじいさんのような口調で聞いてくる。

どうしよう、目が覚めたら森にいて街がありそうな方に歩いてますって正直に言うか?

多分信じてくれない気がする。

よし、この先に街はあるらしいしここは適当に誤魔化しとこう。


「実はこの先の街に行こうと思ったんですけど、馬がこの2匹を怖がってしまって仕方がなく歩いて向かってるんです。」


そう言ってクロとシロに目を向ける。

2匹とも欠伸をしてる……呑気な奴らだ。


「ガハハ、そーかそーか、そりゃぁー災難だったな。どうだ、荷台で良ければ、わしが乗せてってやろう。見た感じわしの馬はおめーさんの連れに怯えてないようだしな。」


「いいんですか!?是非お願いします!」


まさかの提案にすぐに飛びつく。

やっとこの景色ともおさらばだ。

ありがとう!名も知らないおじさん!


お言葉に甘えて馬車に乗せてもらう。

シロとクロも乗せようとしたが、2匹は後ろから自分たちで歩くらしい。

俺が乗ったのを確認し、おじさんは馬車を走らせた。

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