第4話 不思議なご主人様

【シロ視点】


初めてご主人様に会った時、我はご主人様を食べようと思っていた。

とてもお腹が空いてたのだ。

それに怪我をした弟にもなにか食べさせたいと思ってたからだ。

しかし、残念なことにこの森にはある原因により弱体化した我では倒せない魔物ばかりだった。


そのため、この森で人間を見つけた時は驚いた。

この森はよっぽど強い人間でない限り森に足を踏み入れた瞬間に食い殺されてしまうからだ。

しばらく観察をしてみたが、この人間は全く強そうに見えなかった。

きっと運良く生き残ったのだろう。

しかし運は我に向いたようだ。お礼に一瞬で息の根を止めてやろう。


そう思い我が姿を現した途端、人間が後ずさる。

その拍子に何やら黒い塊が地面に落ちる。

ん?なんだあれは。何やら甘い匂いがする。

匂いを嗅ぐが食べても問題なさそうだ。

ぱくっと食べてみる。

う、うまい!なんだこれは!口に入れた瞬間溶けていき、甘い味が口の中に広がっていく。

思わずがっついてしまう。

む?もうなくなってしまったか……

我はじーっと人間を見る。まだ足りないという念を送りながら。


すると人間はもう1個黒い塊を我に投げてきた。

おぉ!この人間は我の考えてることがわかるのか!?

少し嬉しく思いながら2個目を平らげると人間のそばに行き思いを伝えてみる。


人間よ。美味なるものをありがとう。お礼に食べないでやるから去ってくれても構わないぞ。


しかし目の前の人間は逃げる所か我の頭を撫でて来た。

……!や、やめぬか!

そう伝えてみるが辞める気配はない。

それどころか結構気持ちいいと思ってしまう。思わず身をゆだねる。


『テイムされますか? はい/いいえ』


突然そんな文字が現れる。

この人間、まさか我にテイムを求めるとは……命知らずなのかただのもの知らずなのか……。

だがこの人間にならテイムされても良いと思ってしまう。

我は、はいを選ぶ。


『確認しました。フェンリルはケイ シバヤマ にテイムされます。テイムされたことにより弱体化した能力が元に戻ります。』


という声が聞こえ、全身に力がみなぎってくる。

長い時を生きてきたがまさかテイムにこんな効果があったとは……。

完全に力は戻っていた。

ふむ……。この人間はケイ シバヤマというのか。

呼びずらいので次からは敬意をこめてご主人様と呼ぼう。


しかしなにか忘れているような……。

おぉ!そうだ。我はもともと弟のために食べ物を狩ろうとしていたのだった!

まさか弟のことを忘れてるとは……ご主人様は恐ろしい人だ……


我はご主人の服を咥えて引っ張る。

今度は、上手く伝わったようだ。

多分さっきのは本当に伝わってなかったのだろう。

しかしテイムされたことによりご主人様はある程度は我の伝えたいことがわかるようになったのだ。そのことが嬉しく思う。


ご主人様を連れて弟の所へ行く。

ご主人様ならきっと弟を助けてくれる。そんな自信がある。

そしてその通りにご主人様は弟の怪我を治してくれた。


ご主人様が弟にも黒い塊をあげている。

どうやらあれは『チョコ』というらしい。

不思議な人だ。

見たこともない食べ物を作る魔法やフェンリルも従えてしまう普通ではないテイムを持っているのにそれを見せびらかすことがない。


チョコを食べ終えた弟が我の方に来る。

どうやら弟もテイムしてもらったようだ。

力が戻ってる。


「兄ちゃん、兄ちゃん」


「ん?なんだ?弟よ」


「ご主人様ってすごいね!ボク始め兄ちゃんが生きたままの食べ物を持ってきたんだと思ってたのに足の怪我も治してくれたし力も戻してくれた!」


「そうか、それは良かったな」


弟が嬉しそうに言う。

ただ我が言うのもだがご主人様を食べようとしてたことは絶対に黙っていた方がいいと思うぞ。……絶対に黙っておこう。

そう心の中で誓う。


「……よし!白い方がシロ、黒い方がクロだ」


ずっと何かを考えていたご主人様が口を開く。

どうやら名前を考えていたようだ。

我がシロ、弟がクロ……

我と弟の毛並みの色で名付けたのか……気に入った。

クロの方を見てみると嬉しそうにしっぽが揺れていた。

きっと我のしっぽも同じように揺れているのだろう。


食事を与えてくれて、弟の怪我も治し、さらに力と名前も与えてくれた。

我ら2匹のフェンリルは生きている限りどんなことがあってもご主人様に忠誠を誓おう。


今ご主人様は自分のステータスを何故かじっと見つめてる。

きっとご主人様のことだ。

なにか考えているのだろう。

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