モテ過ぎが嫌になって引退と称して逃げた高校生俳優はもう一度やり直す

ラムココ/高橋ココ

1. 俺という人物

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「さて、次は米国若手人気俳優レウィル・キーソッドについてのニュースです。大人気青春ドラマ、『new life & new songs』で主役を務め人気を獲得し、一躍有名になったレウィルさん。そんな彼が昨日、引退宣言をし、ファンの間で驚きと動揺が広がっています」


『えー・・・・ファンのみんなには大変申し訳ないんだけどね。僕は今年度で芸能界を引退することにした。みんなも知っての通り、僕は来年から高校生だ。もちろん、学生の本分である勉学に励めるようにというのもあるけれど、なによりも人生で一度しかない高校生活を楽しみたい。一度思い切ってただの一学生としての生活を満喫したい。もちろん、僕の身勝手なのは分かってる。でも、いつか必ず復帰するから、その時まで待っていてほしい。・・・・まあ、そのいつかが言えないのがすでに不誠実なんだけどね』


「・・・・ーーーーはい。最後は自虐のような言葉で締め括られていましたけれども、レウィルさんの切実な思いが伝わってきましたね。ただの一学生として高校に通うとインタビューではおっしゃってましたが、どこの高校なのか、公表はされているんでしょうか?」


「それについてはレウィルさん本人が、自身の生活の平穏を守るために公表はしないとのことですね。まあ、彼自身が、いつかはわからないけど必ず復帰すると言ってますし、その日を待ちましょう」


「そうですね。・・・・ーーーー次のニュースに移ります。お天気です。

橋川さ〜〜ん!!」


「はーい! では今日の天気について見ていきましょう! 今日はーーーーー」



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 生ぬるい、けれど心地よい風。

 ヒラヒラと風に吹かれて舞う、桜の花びら。

 そして······校門の前に不細工に突っ立っているボサボサの黒髪に黒縁メガネ、猫背の俺。



「今日からここに通うのか・・・・・なんか、普通って感じでいいな」


 俺は今、今日から通うことになった高校の入学式に来ていた。


 普段なら目立ちに目立ちまくって女子からキャーキャー言われてるところだが、今の俺の姿を気に留めるやつは誰1人いない。


 まあそれが俺の狙いだからもってこいなんだけど。


 さて。ここで少し俺のことについて話しておこう。


 俺はいわゆるハーフというやつだ。イギリス人の母親と日本人の父親。西洋の血が入っているからか、俺の髪と目は、栗色に薄いグレーだ。髪はわかるんだが、なぜか大きくなっても目の色は薄いままだった。たぶん、もともと色素が薄いのだろう。


 母親はアメリカで超有名なハリウッド女優。父親は、平々凡々の一般人。顔も普通すぎるくらいに普通。なんでだろうな? 母さんは父さんのどこが良いんだろうか。まあ幸い、美女である母の遺伝子を濃く引き継いだのか、俺はイケメンの部類に入る。だから母さんと結婚して俺を産んだことには感謝している。ただ父さんも忙しく、ほとんど家にいない。母親もアメリカで女優業をやっている。

自然、俺は独り暮らしをしなければならなくなる。まだ当時小さかった俺は、ママと離れるのイヤっ!と、2、3歳児特有のイヤイヤを発揮し、だったらお母さんとアメリカ一緒に行く?となり、意味は分からなかったが離れなくていいならと母親とアメリカに旅立ったのだった。

 父さん···日本で一人で頑張ってくれ····(そんなこと昔の俺には考えられない)


 と、アメリカに行ったら、母さんのマネージャーさんがなぜか俺をいたく気に入り、なぜか母さんと一緒に子役として映画に出演することになったのだ。

 そのままズルズルと12年間、15歳までアメリカで子役、そして俳優として活躍し、気付いたら少年トップスターとして、超有名になっていたのだった。


 ただそこで、思わぬ弊害が起きる。


 女 の 子 に モ テ す ぎ る


 なんて贅沢な悩みだ! リア充死ね!

と思うかもしれんが、モテすぎるってどういうことか分かるか? もうな、言葉では言い表せないほど疲弊するんだ。

 最初はそりゃ、男として嬉しかったものだ。だが、そのうち鬱陶しくなってくるんだよな。·····うん、この話は止めよう。イヤな思い出がよみがえってくるから·····


 そんなこんなで俺は、普通の生活が送りたいと思った。日本でいうところの小学校中学校はアメリカの学校に通っていたため、そこでもモテすぎ案件が発生。

 なら一旦日本に帰って日本の高校に通う?12年ぶりの。と母さんに言われ、日本の高校に通うことにしたというわけだ。

 ただ、日本でも、素顔丸出しじゃ意味がない。平穏に暮らしたくて日本に帰ってきたんだ。だから俺は、変装をすることにした。日本人じゃ髪を染めない限りあり得ない栗色の髪は黒髪ウィッグで隠し、グレーの目は黒のカラコンを入れ、さらに日本人と比べて堀の深い顔立ちを隠すために伊達メガネをかける。念のため前髪は重めのウィッグだ。


 そしたらなんと! 目が隠れてしまった黒髪メガネで猫背の陰キャ根暗男の完成! 


 これでアメリカの超有名俳優だとはわからんはずだ! あはははは!!


 これで俺の平穏は守られる! あは、あはははは!! (かつてのトラウマにより一時的に精神崩壊中)


 ふー······


 さて。これでだいたい俺の境遇はわかっただろうか。


 みんな、俺って可哀想だろ? 女たちがウザくて仕方ないんだ。息つく暇もないんだ。分かってくれ。

 (リア充死ねッ!!地獄に落ちてしまえッ!)


 あ? なんか今ものすごい怨嗟の声が聞こえたような·····気のせいか。


 とにもかくにも、今日は俺が待ちに待っていた平穏無事な一男子高校生としての生活のはじま


『おーいレウィ! 来てやったぞ! またよろしくな!』


『久しぶりレウィ! 約半年ぶりだね! 日本でもよろしく!』


 ·····あれ? おかしいな。なんか聞き慣れたネイティブ英語の声が封印したはずの俺の愛称を呼んだんだが。


 よし! 俺は、アメリカで俳優やってたときに使ってた名前なんて呼ばれてない! きっと気のせいだ! スルーしよう。


『ちょっ待てよ! 俺が来てやったんだぞ? 日本で一人じゃ寂しいと思ってな! スルーするなよな!』


『そうだよ! 寂しいじゃない!』




 ひぃぃいぎゃぁーーー!!?

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