3 横断

 春、虫が道路を横断する季節。僕はそれを見かけると、向こう側に辿り着けるだろうかとじっと見つめて、目が離せなくなる。潰れて死んでいるものがほとんどだからだ。


 4月21日14時過ぎのこと、いつもの散歩道で一匹の毛虫が道路を横断しようとしていた。その歩みには迷いのひとかけらもない。ただ真っ直ぐ前へ、振り返ることはない。僕は立ち止まり、彼をじっと見守る。彼の身体はうにょうにょと激しい動きを繰り返す。僕は目が離せない。ただ一人、僕だけがこの毛虫を見ていた。


 どれくらい時間が経っただろうか、恐らく数十秒、でも僕にはすごく長く感じられた。彼は変わらず進み続ける。向こう側はもうすぐだった。


 その時、ブーンと車の走る音が聞こえた。


「ああ」


 僕には分かった。僕はそこで見るのをやめた。歩き出した、ただ前へ。僕は振り返らなかった。 

 その少し後、僕の横を軽トラが通り過ぎていった。


「ああ、まただ」


 またダメだった。

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