ロックバードの他人丼の日
ソレは、本当に偶然目に入った。
毎度毎度懲りないネズミを生け捕りにし、もう十年もルフィナを狙うあの国への最終警告として、瀕死のネズミを大量に転移させようと準備している時だ。
手刀で項辺りを落としていると、耳にこびりつくようなボソボソ、ぶつぶつ。それとともに、気持ち悪い笑みを浮かべながら堂々と気持ち悪いことを口にしていた
「――クソッ。もうすぐ三年。
爪を噛み、視点の定まらない目には何が見えているのか。聖獣として生を受け、彼処まで濁った瞳を見たのも久方ぶり。そんな奴が、愛し子に懸想など……。
手は止めずにジッと見ていると、
「――もうこれならいっそ、既成事実でも、」
「おい」
我慢ならず――獣姿に戻って声をかければ、目を見開く
「誰ッ――なッ!? せっせせ聖獣カーバンクル様ッ!?」
聖獣の姿じゃないと俺を認識できないとか、神官のくせにホント
ため息とともに、最大限の殺気を飛ばしてやった。
「ねえ。今までも俺のルフィナに手を出しても寛大に見逃してあげてたのに……お前もこうなりたいの?」
俺の下に山になるネズミが、血溜まりに沈んでいるのを目で追い――理解した瞬間に、顔を青を通り越して白くして逃げやがった。
「――ヒッ、すっすすすみませんでしたぁぁぁああ!!」
あれだけ脅せば、もう店にも来ないだろう……本当は、
次来ればルフィナの前であられもない姿になってもらって、恥をかかせた方が面白そうだと考えながら、人型に戻って処理に移った。
***
まだ陽の昇る前の朝靄の時間、フッと意識が上昇した。瞼を上げると、薄暗闇の中に真っ白な髪が淡く輝いていた。めずらしく人型のまま寝入っているメロにそっと寄り、やさしい温もりを感じながらもう一度目を閉じた。
今朝はメロに起こされることなく先に目が覚めていたので、今日の丼のために庭へ向かっている。というか、めずらしくメロが起きてこなかった。疲れたのかな?
起きてくる前に捕ってしまおうと、玉子の並ぶコッコの小屋に入った。
「これでよしっ」
籠いっぱいの玉子をコッコの餌さと交換し終えて小屋から出ると、降り注ぐ陽射しが急に陰った――背後から背の高い人物に抱きつかれたから。
「おはようメロ。疲れてたの?」
「おはよ。ルフィナがいたら疲れないよ」
そういって肩口に顔を擦り付けて……首筋に吸われる感覚があった。ちょッ、キスされてる!?
「え、何!? どうしたのっ」
「ルフィナ」
「なっなに?」
急に名を呼んだかと思うと、くるりと体を回され――正面から対峙した顔は、すごく真剣だった。
「……今、しあわせ?」
「…………え?」
言われた言葉が構えていた告白だとか、怒られるのかだとか、告白だとか……ってのと違ったから、瞬時に反応できなかった。しあわせって、幸せ?
「メロがいて、ご飯食べに来てくれる“お兄ちゃんたち”がいて、好きにご飯作ったり遊んだりして……とっても幸せよ?」
それを聞いて、そっかと微笑むメロの顔は……なんだかスッキリしているように見えた。
でもそれは、一瞬で終わった。彼は、既に次の獲物に標的を定めているらしい。
「じゃあ、今日はもう休もう!」
「えっ、ちょっとま……ん、」
いつの間にか取り上げられていた玉子の籠は、メロの風魔法で横に浮いていて。
僕はメロに捕まり、朝から重い愛を口で受け止めていた。待って、ここ外!
そんなこともお構いなしに、メロはどんどん進もうとする。いつの間にか、背には壁だし。
「メ、ろ……ま、ぁっまっ、て」
「待てない」
スカートにも手を伸ばし、手繰り上げられた。貴族の足首まで隠すスカートではないから、肌なんてすぐに捕らえられてしまう。現れた太股をメロの大きな手がやさしく滑っていく。いや、だからっダメだって!
「め、……ろメロ! 待って! 今日はおみせ、」
「……今日ぐらい休んだら?」
「あ、ふぅっ……あ、明日! 明日休みだか、ら、」
「……明日なら、いいの?」
太股から胸へと這っていこうとした手を止め、息のかかる距離で見つめられる。きっと僕の顔は髪の色よりも真っ赤。
小さく返事をするけど、距離はゼロ距離。聞こえないわけがない。
「よしッ。じゃあ今日は手伝ってあげる!」
急にご機嫌に言い出し、僕を抱えながらお店の厨房へ入っていくメロ。玉子の籠を器用に風魔法で誘導しながら。
降ろしてもらうとすぐに服装のみだれを直し、手伝ってくれるという本人へ鍋と今日のスープ用のコブ菜を渡す。
「今日は何作るの?」
「えっと、ロックバードが手に入ったから、コッコの玉子で他人丼にしようと思って。メロはスープの出汁取ってくれる?」
「いいよ。スープは何?」
「ノリ菜の味噌し、」
「飲むッ」
バイパーハムの燻したやつの次に好きな好物を聞いて、目が輝いた。……さっきの約束もそのまま忘れてくれたら、は、ないか。
出来たら一番にあげる約束をし、ロックバードの仕込みに入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます