第6話 そして……

 そう、何かが変わった。


 部屋へ帰り、ぼーっと一人でスマホを眺める。

 メッセージを送っても、芳雄からの返事はない。



 芳雄はその頃、埋世との週末デートの予定を組んでいた。

 彼女はずっと知り合いで、もちろんお互いに初めて同士だった。

 喧嘩もするが、ずっと一緒に。

 浮気をして、彼女の良さを再認識したようだ。


 そして、彼は不要物をリサイクルへ出すため、連絡を入れる。

「おまえ、あの子のこと気に入っていただろ?」

「ああ、どうしたんだ? 昨日デートだとか言ってなかったか?」

 つい、何かの時に言ってしまっていたか。

 あんな女のために、浮かれていた自分が歯がゆい。

 まあ、あいつなら、埋世の耳へは入るまい。


「そうなんだけどな、あいつは初めてでもなかったみたいでな。気に入っていたようだし、もう別れるから、いるならお前にやろうかと思って、明日暇か?」

「えっ明日? くれるなら貰う。判った。他にもしたいって言う奴がいるから集めとく。よろしくな」

 集めておく? ちょっと彼の思惑とは違ったが、まあいい。



「うん? かたづけたんだ」

「ああ、少しな」

 歩夢が指さす先にはゴミ袋。


 咲瑠は学校から二人で帰った後、着替えていて、やっぱり来てしまった。

 丁度沙知が帰って入れ違い位。


「えへ、コンビニで美味しそうなのを買ってきたの。好みが判らないから適当に」

「そうなんだ、ありがとう」

 なんだか、新鮮な感じ。


 お互いがお互いをあまり知らないから、手探りで関係を深めていく。

「なんか、こう言うのっていいね」

「うん、なにが?」

「相手のことを、知っていくこと、例えば、この辺りが弱いとか」

 咲瑠の首筋に、歩夢の手が伸びる。

「あっこら、そこ駄目…… あんっ」



 翌日。

 学校帰りに待ち合わせて、芳雄の横を歩いて行く沙知。

「あれ? お家に行くのじゃ無いの?」

「ちょっと連れと約束があってね、そっちが先」

「そうなんだ。私が一緒でもいいの?」

「ああ、そのほうが良いんだよ。そいつ、君のことを気に入っていて、会いたいらしいから」

「へー、そうなんだ。じゃあお邪魔しちゃお」



 ―― お邪魔をした。

 見たことがある顔。

 テニス部の人だ。

「どうぞ上がって」

「おじゃまします」

 部屋へ向かいながら、芳雄に教える。


「この人、会ったことがある」

「そうだろ、結構、良い奴なんだよ」

 そう言って彼はにっこり。


 でまあ、少し楽しく会話やゲーム。

 ただ、沙知的には当然だがつまらない。


「さて、それじゃあ」

 そう言って、芳雄は立ち上がる。

 やっと帰るんだ、そう思ったとき、不穏な言葉が芳雄から発せられる。


「うん? 俺は帰るけれどゆっくりしていって。こいつ良い奴だろ?」

「えっなに? どういうこと?」

 当然パニック状態。


「お前と付き合いたいってさ。だから俺は、お前とは別れる。後はよろしくやってくれ」

「えっ、ちょっと待って訳がわかんない、なんで?」

 説明をするのも面倒なくらい冷めていた。


「お前初めてじゃなかっただろ、だからだよ」

 彼は言ってしまった。


「芳雄はそう言っているんだ、俺と付き合うぜ」

 引き留めようと、手が伸びてくる。

「ちょっと待って、ふざけないで。触るな」

 その言葉で、雰囲気が変わる。


「うん? ビッチのくせに何言ってんだ? 俺が嫌なら仕方が無い。お代わりも三人ほど居るから、誰がいい? おーい、おかわりぃ」

 部屋の中に、ぞろぞろと見たことのある顔が入ってくる。


「ちょっとマジで、無理。ねえ芳雄くん」

 救いを求めるが……

「芳雄、ちょっと抑えとけ」

 掴まる。


「えっ、ちょっと本気?」

 人数が増えたので、きっちり抑え込まれる。


「一番、黒沼です。碓氷 沙知さん。ずっと好きでした。き合いましょう」

「んんんんっ」

 すでに口は押さえられていて、声は出せない。


 適当に、つばを付けて押し込まれる。

「ふぐぅ」

 好きだった相手は、自分の背後。

 どんな顔で、この光景を見ているのか……

 黒沼くんは、あっという間に果てる。


「二番、蛇谷です。多少汚れていても気にしません。付き合いましょう」

「んんんんっ。ふぐっ」

 顔を振りいやいやするが、何も出来ない。


「結構暴れるなぁ。逃げないように全部脱がせ」

 とまあ、寄ってたかって、お付き合いをすることになった。

 それからは毎日、朝も晩も誰かが送り迎えをしてくれる。


 当然卒業後も、彼らはやって来た。

 そうそれは、彼らが飽きるまで続いた。



 彼女に降りかかる厄災は、それだけではない。

 丁度大学に入る頃、沙知の親は離婚をする。

 親父さんが、とうとう会社を潰してしまったのだ。

 両親が離婚し、お母さんの旧姓保木ほうきと名前が変わる。


 そして、「なんとも思わないの?」 とか、沙知の母親は、自分が離婚をしたので突撃をして来始めた。そのため、丁度良い機会だと、歩夢の両親も田舎へと引っ越す事になった。


 当然、歩夢は一人? 暮らし。


 楽しい、大学生活を経て、順調に就職。

 そして、咲瑠と結婚をして、幸せな日々。



 そんなる日、隣の家に、誰かが引っ越してきた。


「お隣に越してきた、保木 沙知ほうき さちです。よろしくお願いします」

 タオルを持って、やって来た女の人は、ひどくやつれた感じで、かなり陰気だった。


「あっ、はい。自治会長さんはあの家なので、ご挨拶に行ったほうが良いですよ」

 そう言って、目立つ家を指さす。


「伺ってみます」

 その人は、ふらふらと家へと帰っていった。


「だいじょぶかな、あの人?」

「さあ、でもなんか見たことあるような気がするんだよね。見た感じ十個くらい歳上っぽいけれど、どこで会ったんだろう?」

 歩夢と咲瑠は首をひねる。


「あれは、絶対歩夢だわ、変わっていない…… やっと見つけた。私、やっと判ったの。ごめんなさい…… お隣に来たから、わたし謝るから。だから、また昔のように…… あそぼう……」

 手元に残った小さな頃の写真。

 周りの大人は顔を塗りつぶされているが、その中心で二人仲良く手を繋ぎ、仲良く嬉しそうな男の子と女の子が笑っている。

 その写真を眺めながら、彼女はぽつりとそう言った。


 矢継ぎ早に起こった不幸、それから逃れるために、彼女の心は一番良かった頃に捕まってしまう。

 彼女には理解できないが、謝っても、物事はなかった事にはならない。


 そして……




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 お読みくださりありがとうございます。

 クリスマスイブには、ダークな読み物を。

 あなたの隣人は、大丈夫ですか?


 では、ダークじゃない、メリークリスマス。

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