第6話 思惑とタイミング
「とにかく聞いてよ、ひどくない」
愛菜から電話、もう三時間。
ひたすら同じ事の繰り返し……
好きな男が出来た。
念願叶い、一緒に遊びに行く。
楽しかったけれど、奴は別の女が気に入った。
そいつには、夫婦のような男がいるから安心をしていた。
めげずに、誘った。
『彼女が来るなら行く』だから、仕方が無くその子も誘った。
彼にキスされていた。
腹が立つから、言いふらす。
今ここらしい。
「その子も災難、彼氏がいるに、キスされたんでしょ」
「そんなもの、多少強引だったけど避けられるじゃない。きっと気を引くために嫌な振りをしているのよ」
「そうかなあ? どう聞いてもその男がくそじゃん」
「そんな事ない、蒼海が悪いの、料理バカの蒼空っていう旦那がいるのにぃ」
蒼空? そう……
「週末ね、やけ食い付き合うから、そっちに行くわ」
「金曜日の晩よ、一晩やるから」
「あーまあ、ほどほどにしないと、デブるわよ」
「もう良いの、おとこなんてぇ……」
そう言って泣き始めたから、ブチッとな。
「へぇー、蒼空くん。そうなんだ……」
蒼空君は遊びに行ったとき、スーパーで出会った。
男子の買い物篭姿。
それがにわかではなく、びしっと決まっていた。
私の中では、人生ベストテンの出来事。
ただ、愛菜が言った旦那という言葉も引っかかる。
もしかして、結婚しているの?
だけど、ああ同い年で、誕生日が早ければいけるか?
話を聞くと家が隣同士で、昔から一緒に料理を作っている。
片親同士で一緒に買い物をしている姿から、夫婦とあだ名が付いたと。
ううー、わん。
「良い。その席欲しい」
思わず言葉にしてしまった。
「あんた変わっているわね」
愛菜からは、変な目をされてしまった。
「いいじゃない、普通に二人でお買い物。憧れるわぁ」
うちは、飲食店を経営している。
そのため、子供の頃から見てきたのは、修羅の世界。
だから、普通の夫婦に憧れがある。
まあそうは言っても両親達、仲が良いとは思うんだけど、共同経営者という感じが強くて、世間一般の仲の良い夫婦とは少し違う。
怒鳴り合っているし、戦友?
だから、手を繋いで夫婦でお出かけ…… とか、街角で仲良く。
そんな外国のスナップとか、好き。
そう、日本人の男子で、きっと彼は貴重な存在。
聞くと料理も作るとか。
「完璧ね」
だがお相手が問題、略奪愛などしたくは無い。
そう、そう思って気にはなっていた。
だから冬休みのやばい時期、勉強もそこそこにして愛菜の所へ遊びに行き、あのスーパーをうろついていた。
すると、いた。
彼とする楽しい会話。
実に有意義だった。
そう思ったのは、きっと葉依里だけだったが、まあ楽しかったらしい。
さて、そこに降って湧いた騒動。
泣き疲れた愛菜を放り出して、町をうろつく。
先ずは、あのスーパーかなあ、情報が少なすぎる。
時間は、開店から、昼への隙間時間。
だが向かう途中、彼を発見。
これは運命ね、神様の導きがあるわ。
泣いていた……
あの騒動の話しが頭の中でリフレイン。
あー、彼女のこと、好きだったんだ……
少し悔しい。
だが、チャンス。
行くしかない。
そして静かな公園、シュチュも良い。
シュチュとは、シチュエーションのことですね。
続きをどぞ。
私は静かに追いかけ、公園の中央。
変な像の前に彼が座る。
私は深呼吸をして、むせかえり、思わず口を押さえる。
大丈夫気づかれていない。
もう一度、今の状態を思い出す。
そう、彼女が襲われた、かわいそうな少年。
そう、必要なのは、大いなる愛。
そう、歳上のような、大きな心で、彼を癒やす。
包み込むところに、ちょっと厚みはないけれど、きっとその内増えるわ。
できれば、ハグ。
連絡先の交換、できればキス。
そこまで行けば、きっと彼は私の元へ。
ぐへへっ。
いざ行こう、これからの長い人生、その幸せを願い、第一歩を踏み出そう。
今私は、このタンス? いやチャンスを我が手に。
来週出願校の入学試験だけど、今は気にしない。
この辺りで料理に絡む大学は一つ、上手く行けば、同じ大学に……
アパートに遊びに来て、台所で二人並ぶ。
「葉依里、胸肉の成分だが、タンパク質が多く、脂質が少ないから……」
そしたら、私は自分の胸を持ち上げながらお願いをするの。
「脂質が少ないから、マッサージをして…… きっと増えるから」
「お前は、えっちだなぁ、いくぞ葉依里」
「ええっ、お願い……」
はっ…… いけない、妄想が暴走だわ。
いざ夢の実現、その第一歩。
―― そして。
しまったぁー、横に座ると、ハグがしにくい……
くっここは…… 彼の頬にそっと手を当てて……
結構心臓にくるわね。
「どうしたの、そんなに泣いて。人に言うと気が楽にあることもあるわよ、身近な人には言いにくくても…… ほら、ネット掲示板とか相談をしやすいじゃない。関係が薄い方が色々なことが言いやすいかもね……」
そう関係が薄いのよ。
胸も薄いけど……
自分で言って、自分の胸をえぐる言葉。
辛い…… だが今を過ぎれば。
頑張れ私。
蒼空は思う。
なんでこいつ、よく知らない俺のために、こんなに必死で?
バレていた、外ににじみ出す必死さ、本人はバレていないつもりだが、呼吸は荒く、顔は引きつり、ほら言えと訴え掛ける。
「女の子ってば、キスくらいなのか? そんなに軽い感じなのか?」
きすぅ…… 魚のことじゃないわよね。
天ぷらにすると軽くて美味しいけれど。
「はっ? えーと、それはやっぱり相手によるんじゃない、好きな人が相手だとすごくドキドキだけど…… 外国じゃあ挨拶の一つだし…… 何? してみたいの? んんっ」
そう言って、ものすごく力強く、蒼空の首がねじ曲げられた。
ちゅっと、唇が触れる程度のキス。
「どっどどどど、どう、たいしゅた事はないでしょ」
今のは、完璧な流れからのチャンス。
確実に押し目を取ったはず。
そう言った彼女は、一月の寒さの中、大汗をかき、呼吸は荒く……
鼻血をたらす……
どう見ても、たいした事のようだ。
だが、ふいにされると、避けられないものだな……
そんな事を考える。
そこから離れた、木の陰。
顔半分だけがこちらを見ていた……
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