第3話 意地とすれ違いの始まり

 次の日、私は友達とプールに来ていた。

 前々から誘われてはいた、だけど気分が乗らず流していた。


 日課となっていた、朝から一緒に宿題をしてからの、料理研究も、なんか急にやめるのも…… 

 そうよ日課だから……


 だけど、昨日の一言、『かわいげが無いからモテないんだ』。

 何よ、私はかわいいわよ。

 そりゃ、蒼空とは付き合いが長いから、いまさら、『いやーん』だの言えるわけは無い。


 お母さんだって、お父さんと別にそんな感じじゃ無かったと思う……

 もう記憶は薄く、どんな感じだったのか忘れてしまった。


 思い出すのは、お父さんのことではなく、一緒にキャンプに行った最近の記憶。

 蒼空の家と一緒に行った記憶。

 車で結構走り、途中でアマゴとかいう魚を養殖しているところによって、キャンプサイトへ。


 隠れ家らしく、人は居ないけれど、少し奥には滝もあって綺麗だった。

 水着は着ていたけれど、あまりにも水が冷たくて泳げなかった。

 だけど、蒼空に手を引いて貰って、危なそうな岩場もひょいひょいと上がっていく、蒼空ったら、やっぱり男なんだと少し見直した。


 蒼空のお父さんと、家のお母さんも結構仲良く、夜中まで飲んで話し込んでいた。

 帰りには、こう言うのも良いねと言っていた……


 そう両家とも忙しくて、いままでそんな機会が無かった。

 お盆には、実家へ帰るし。

 そう、お母さんはきっと、実家へ帰ると同級生との宴会へ行きたがっていたから、誰かいい人がいるんだと思う。

 そう思っていた。



「ぼーっとして、どうしたの? 疲れた?」

 現れたのは、キラッと八重歯が光る爽やか系男子。

 横槍 伊織よこやり いおりくんという少し古風な名前。


 クラスで仲の良い、愛菜あいなが連れてきた。

 彼女と塾が同じらしく、その流れ。

 賢くて、人気があるそう。

『良いでしょ彼、思い切って声をかけてみるの』

 彼女がそう言っていたのに、こっちへ来ないでよ。


 この人、格好がいいと言われるように、下顎がシュッとして狭いのか、八重歯が目立つように、これから歯の矯正にお金が掛かりそう。

 家はお金にはシビアなの。


 プールも、意外と高いし、その前の集合もコンビニで良かったのに、ファミレスで集合。

 誕生日以外で、初めてはいったわよ。


 そう、貧乏だからねぇ。

 お父さんからの養育費も、増えたり減ったり。

 払う意思だけは見せているから、質が悪いと、お母さんがぷんぷん。


「疲れたのなら、向こうでお茶しない?」

「えーと、愛菜たちは?」

「さっき、あっちで流れていたよ」

 ああ、レンタル浮き輪にハマって流れるだけね、何が楽しいの?


「それじゃ、少しスライダーにいってくるわ」

「じゃあ一緒に行こう」

 えー、お茶しよって言っていたじゃ無い。

 なんでこっちへ来るのよ。


「やっぱり、あっちの波のあるプールへ」

「うーん、僕のこと嫌い?」

 そう言ってじっと見られる。


「いや好きとか嫌いとか、今日会ったばかりでわかんないでしょ。ストーカーでもしていれば別でしょうけど」

「だよねぇ、じゃあ付き合おう。お互いをよく知るために」

 そう言ってニコッ。


「ああいや、今三年だし、そんな暇はないし」

 わたわたと言い訳を考えて、断ろうとするが、敵も然る者。

「大丈夫、僕も三年だし、A判定だから教えるよ」

 そう言って、にっこにこ。


「あー、愛菜があなたのこと、お気に入りみたいよ」

「そうなんだよね、困っちゃって、彼女を断る切っ掛けにも良いかと思って」

「ちょっと待て、あれでも友人なの、それ非常に迷惑」

 そう言うとニヤニヤ。


「君が付き合ってくれれば、言わないけれど、断るなら彼女に言っちゃお、君に告白されて付き合うことになったって」

 そう言われて、プチンと来た。


「ふざけんな、言って良いことと悪い事がある」

 あっ、つい地が出た。


「それって、脅迫のつもりなの?」

「いや、そう言うわけじゃ」

 その剣幕に驚いたのか、逃げていった。


「ふん、くそがっ」

 あっ、つい推しキャラの口癖が……

 はしたないわ……



「そんな事があってさぁ」

「ふーん。プールか楽しそうだな」

「話聞いてたぁ? 帰りは愛菜もなんだか機嫌が悪くてさ、ふんぐ。あっおいしい」

 レタスで巻いた中に、ピリ辛のお肉。

 ササミを酒蒸しにして、ほぐした物を甘辛く味付け、ちょっとだけゆずマヨ?


「そうか……」

 他に言えず、結局、蒼空に愚痴る。


 蒼空は相変わらず、元気の出る冷菜を考えている。

 今日、一日やっていたのかしら?

 ちょっとだけ、なぜか胸が重い。

 


 その数日後、俺はスーパーへ行っていた。

 晩の買い物。

 蒼海とは最近一緒に来ていない。

 周りがご夫婦と揶揄うからだ。

 俺はまあ気にしないが、あいつは嫌なようだ。


「あれぇ、旦那じゃん」

 ふと見ると、愛菜。

 隣りに、もう一人立っている。


「おう、狭間? だったな」

 別に人間嫌いじゃないし、普通に挨拶をする。

 小学校時代から学校が終わると帰っていたら、友達が居なくなっただけだ。ゲームとかにはあまり…… 興味はあるんだが、時間も無いし金も無い。

 ちなみにネット環境とか、ノーパソは家にある。

 父さんの仕事の関係で必要だとか。


「三年間クラスメートだったのに、まだ疑問形?」

 えっ、三年間? 同じクラス?


「そうか? わりい。スーパーで会うなんて違和感だな」

「うんまあ、この子がさ、和食屋さんの娘でさ、なんか作ってくれるって言うから買い物に来たの」

 この子は愛菜の従姉妹で、夏休みに遊びたいとごねたが、家が商売だから当然かなわず。


「行って来い」

 そう言われて、親戚である狭間の所へ来たと。


「なんて不憫な」

 思わず泣くまねをする。


「判ってくれるか、同士よ」

 そう言って、背中を叩かれる。

 なんか乗りの良い子だった。


「何を作るの?」

「なんか冷製かなぁ、パスタとか」

 彼女が、少し考えながら言った言葉がこれ。


「和食?」

「そうパスタは和食、ポン酢とだいこんおろしで頂く。山芋の短冊とか乗せて、海苔とか、うどんの釜揚げ風に卵と醤油でも良いなあ」

 そう言っているその子の顔が本当に嬉しそうで、楽しそうだった。


 ああこの子は、鍬間 葉依里すきま はいりと言うらしい。

 元農民? そう聞いたら、すき焼きはねすきを鉄板代わりにして牛肉を焼いたものを鋤焼すきやきと呼ぶようになったの。それが語源という事は、料理に関係があるでしょ。そう言って笑っていた。


「他には?」

「紅葉おろしで、ぶりとかタコとかのしゃぶしゃぶ、鯛も良いなぁ、でも鯛ならキモ和えが好き」

 そう言って嬉しそう。


「じゃあね」

 そう言って彼女達は、豆腐を握って行った。


「冷や奴か、和え物か?」

 さっきのメニューは、願望だったらしい。

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