ある意味、二人はお似合い…… だった。

第1話 海と空の出逢い

 私には幼馴染みがいて、隣に住み、姉弟のように育ってきた。


 俺には、兄妹のように育って来た、幼馴染みがいる。


「こっちは、私の部屋だから、勝手に入ってこないで」

「ああ、判った。じゃあこっちは俺の部屋だから、入ってくるな」

「ええっ? それじゃあ、漫画が読めないじゃない」

「自分で買え」

「ええっ?」


 そうこの前まで、幼馴染みで有り、幾ら近くとも兄妹(姉弟)ではなかった。

 それなのに……


「お母さん達、結婚をするから」

 突然のお食事会と、告白。


「そういう事だから、よろしくね蒼海ちゃん」

 満面の笑顔で手を伸ばしてくる蒼空のお父さん。

 私は引きつりながら、握手をする。

 隣で、蒼空は固まっている。



 ―― 家は、小学校三年生の時に、お父さんと離婚。

 お母さんが、旧姓水野だったから、蒼海と名前を付けたが、離婚をしたため、水野 蒼海みずの うみという、みずみずしい名前となった。

 お家も、これからは贅沢が出来ないと言って、アパート暮らしとなった。

 お母さんは、あわててお仕事を始めて、暮らし始めた。


 ―― 家のお母さんが事故で死んだのは、小学校三年生の時。

 それまでは、マンションに住んでいたが、お母さんが消えたあの家に帰るのは、父さんも俺も辛くて、小さなアパートへと越してきた。

「二人暮らしだ、これで十分だな」

「うん、アパートって少し安っぽいんだね」

 それが、ここへ越してきての第一印象。

 子どもだったし、まあ思ったことが口から出た。

 

 俺は、青井 蒼空あおい そら

 お母さんがこだわって付けたらしい。


 それでまあ、近くの学校へ行くと偉そうな女がいた。

 それが、水野 蒼海で隣の部屋だった。

 そう最悪。


 偉そうで生意気。


 切っ掛けは何だったかな?

 図書館の本だ。

 一部に漫画の本がある。

 それを借りていたら、奴がいたんだ。


「早く返しなさいよ」

 ほら偉そう。


「さあ、どうだろうなぁ。家お父さんしか居ないから、家事が忙しいんだ」

 そういったものの、悩んだ。

 読みたいが、自分が読むより、先に貸した方が良いのじゃないかと。

 相手がこいつじゃなければ、素直にそうしただろう。


 まあいい。

「急ぐなら、先に借りていけ。俺は別のを借りるし」

「良いわよ別に」

 そう言って奴は、図書室を出て行ってしまった。


 だからまあ借りたのだが、図書委員のお姉さんに、会話はもっと静かにと叱られる事になる。


 でまあ、すぐに読んで返した。

 あの日、洗濯も、風呂洗いもせずに頑張った。

 うん、父さんはなにも言わなかったけれど、心にチクッときた。


 

 それから、どの位だろう、蒼海のバカが突っかかってきたのは。

「早く返しなさいよ」

「何の話だ?」

「あの本よ」

「青の本?」

「あの本。この前の続き八巻」

 そう聞いて、やっと思い出した。


「あれなら翌日に返したぞ」

「嘘言わないで」

 とまあ、そう来たか。だな。


 図書室に行って、借りている人を見て貰う。

「持っているのは、青井くんじゃないけれど、まだ期限まで二日ほどあるから、返ってこないわね」

「そうなんですね。ありがとうございました」

 そう御礼を言って外に出る。


 だが奴はなにも言わずに、スタスタと教室へ帰っていく。


 まあこの頃は、彼女が両親の離婚時、目の前で起こったドロドロした言い合いを見て、少しひねくれていたのだが、そんな事は、他人には関係ない。


 俺にとっては、いやな奴。

 だから、一年くらい経ってからだろうか、あいつが変わったのは。


「おい、青井。帰りに宿題とプリントを水野に渡してくれ」

「あー…… はい」

 そうあいつは熱を出して、学校を休んだ。

 帰りに、少し寄るだけ。

 

 そう思って、隣のチャイムを押す。

 返事がない。

「おーい。水野、青井だ。君は完全に包囲されている。速やかに出てきなさい」

 そう言って、ドンドンとドアを叩く。


「バカじゃない……」

 開口一番がそれだ。

「ほらよ、宿題と連絡用プリント」

 渡すと、エーという顔になる。


 赤い顔だし、目はうつろ。


「熱があるのか?」

 つい額に手を置く。

「何すんのよ」

 当然手を払われる。

 まあいい。


「じゃあ渡したからな、何かあれば隣の家だから呼べ。そんじゃ」

 そう言って俺は、隣のドアを開け素直に帰る。


「ばか。さわんなよ」

 ブチブチ言いながら、部屋へ戻る蒼海。


 だが、熱はあり、体もしんどく、昼もまともに食べていない状況。

 ドアを叩く音はガンガンとやかましかったが、知っている人間の顔を見て少し安心をする。

 そう体が弱っていると、人間心も弱くなる。

 淋しいと人を求める。


 宿題のプリントを、なんとなく見つめるが…… ぽいっと投げる。

「頭が痛いのに、やってられないわよ」

 そう、結構ダメージが来ていた。


 蒼空がドアをドンドンするまで、熱が引かなかったらどうしようとか、死んじゃうのかなぁと、うつうつと考えていた。


 それは小学校三年生の蒼海には、辛い出来事。

 この前までは、お母さんがずっと家に居てくれた。

 離婚をして、お父さんが居なくなり、お母さんが働きに出かける。

 それは大変のようで、日々帰ってくると疲れた顔が見える。


 翌朝も簡単に休まされてしまう。

「体調まだ悪いの? じゃあ休みなさい」

 そう、無理に行って学校で体調が悪いと、連絡が来る。

 すると迎えに行かなければならない。

 なら休んでくれた方が、親としては都合が良い。


 うつうつと寝ていると、声が聞こえる。

「おらあ、青井だぁ。開けないとドアを蹴破るぞぉ」

 何かのキャラを真似しているのだろうが、似てなくて判らない……


 そこにいたのは、蒼空だったが、プリントの他に、漫画が入った袋を持っていた。

「図書館のとは作者が同じだけど、違うシリーズ。貸してやる」

 そう言って、押しつけるように貸してくれた。

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