第4話 悲喜交々

 彼女は、別れ際に言う。


「お願い、あんな事をしたけど、誰にでもするわけじゃないし嫌いにならないで…… あなただから…… あなたしか頼る人が居ないの」

 そして、玄関先での軽いキスと悲しい顔。


「あー判った。体、大丈夫か?」

「あーうん。まだ中に入っているみたい」

 そう言って、お腹をさする。


「そうなのか。じゃあ、お休み」

 そう言って、とぼとぼと家に帰る。


 そう、彼女とのこと、見智になんて言おう。



 そう、その時は、少し時間をとか、色々考えていた。


「遅かったわね」


 家に帰り、玄関の靴……

 あー、来ているのか。

 そう思いながら、自分の部屋へ、ドアを開ければそんな挨拶。


 ただ、じっと見つめられる。

 俺は着替えるために、部屋の奥へ移動をする。

 もう何年も前から、着替えるのに恥ずかしがる関係じゃない。


「ちょっと待って。なにこの匂い…… 女臭い」

 俺には判らない。

 だが彼女は、そう言って近寄ってくる。


「何がだよ」

 だけど彼女は止まらず。


「ふざけないでよ。あの女とナニをしたの?」

「えっ、なにって?」

「ごまかすな!! ハッキリと口で言って」

 見たことのない厳しい目。


「望まれて…… その…… エッチをした…… だけど」

「だけど、なに?」

「彼女は、転校をしてきて、知り合いもいないし……」

「居るわよ、仲の良い女の子が三人くらい…… まあいつか、こんな事になると思っていたけれど、どうするつもり? あの女の思う通りに彼氏をするの? 私はどうすればいい?」

 そう言って、彼女は俺の目を真っ直ぐと見ながら、問いかけてくる。


 でも、目からは大粒の涙があふれてくる。

 拭こうと、ティッシュを……


「触るな」

 手をはじかれる。


「決めて!」

「まだそんな、付き合うとか、そんな話じゃないし」

「なんだ、セフレなの? 深海がそんな性格だとは知らなかったわ。私の知っている深海なら、見捨てられず。ずるずると関係を続けると思っていた、私みたいにね」

 彼女は、悔しそうな顔で睨み付ける。


「だけど、頼られると……」

「わかったわ。子供の時、助けてくれてありがとうございました」

 そう言って頭を下げ、人を睨むと、部屋から出て行った。


 その日から、―― 見智は来なくなった。


 まあそうは言っても、すぐに元通りに…… そう思っていたが、彼女は学校であっても、まるで見えない感じで俺のことを無視し始めた。


 

 その間に、狭間さんと幾度か関係を持った。

 そして、いつだったか、前に通っていた学校を見に行って、部活を見学。

 その時に、彼女が言った言葉。

「あれ? 何よ、駄目だったんだ」

 そんな言葉を、ぽろっと。


「どうしたの?」

「ううん。別に。つまんないし帰ろう」

 見に行きたいと言ったのは彼女、それなのに、もう帰るらしい。

 


 見に行ってみた、確認をすると、あの女の影はなくなり、あの人は別の女と仲が良さそうにしていた。

 いい気味。捨てられたんだ。


 そう元親友だった奴は、彼の横に居なかった。

 結局あれで、別れたのね。


 それを確認したとき、私の心の中で、拘っていたものが軽くなった。

 それはずっと重く、鉛のように心の重しとなっていた。

 泣くあの女を、気遣う彼、そして私に向けた憎悪ぞうおの目。


「ふふっ」

 つい笑みがこぼれる。


「やっぱり懐かしかったの? 嬉しそうだよ」

「うれしい。そうね」

 

 その後、当てつけのように付き合い始めた深海。

 彼とは違い、子供っぽく、少し短絡的。

 そうあれほど望んだ関係に、陰りが出た。


 そうか、私は彼女への嫉妬。

 あの人がいなくても、私には相手が居ると、見せたかっただけなのね。

 悪くはない、この人なら結婚をしても、普通の生活はできるのかも。

 ただ、そう…… 未来が見えてしまう。


 つまらない……


 そうこの時、私は、あの女への思いが抜けて、色々なことから、興味が失せていた。

 それがすべての色を、褪せさせたことに気がつかなかった。


 その後、大学での生活や、社会人になってから、くだらない男とばかり付き合う羽目になる。

 景気の良かった男は、付き合い始めるとすぐにお金の無心にくるようになり、それを別の女に貢ぐ。

 彼にとっては、そう…… 引っかけるまでが楽しいらしく、落ちれば金ずるへと転落。私たちは、彼にとっての肥やし。


 社会人になり、付き合いだしたのは優しい男で、仕事が出来る人と、取引先のカラミで知りあった。

 でもその人は、妻子持ち……

 知らなかった分減額をされたが、慰謝料を取られた。


 最悪な人生。

 まるで、誰かから恨みでも買っているかのような……


 そうそうね。

 彼の前で、襲われ、別れることになった、あの子なら…… 私のことを少しは恨んでいるかもね……



「―― あいつとは、別れたんだ」

「そう良かったわね」

 見智が、思っていた反応と違う。

 


 それだけ答えて、友達と行ってしまった。


 それから後、待っていても、見智が遊びに来ることはなかった。


「あーそりゃ、考えがあめえ。おんなは、薄情だぞぉ、追いかけてくるなんて言うのはよっぽどの変わり者だ」

「そう言って笑われてしまう」


 そういま、大学に入りアパートで仲良くなった連中と喋っている。

「男の方が、未練が残るのさ…… フッ…… 会いたいよぉ」

 彼が言うには、男の方が、未練たらたらで追いかけるらしい。

 ふとしたときに思い出し、淋しくなるそうだ。


「お前の場合は、やりたくなったら思い出すんだろ」

「そりゃそうだけどよ……」


「泣くな、コンパを計画をしてやる。深海も来いよ」

「ああ判った」

 性格だな、こう言うときに、未だに断れない。


 

「初めまして、創海 深海きずかい ふかみって言います。よろしく」

 なるべく、軽い感じで明るく。

 ずっとやっていたはずだが、あれ以来軽く挨拶が出来なくなった。

 関わるなら、相手にも、自分にも責任が必要になる。

 そこに気がついたから。


「数合わせで、余り乗り気じゃなかったんだけど」

「そうなんだ、俺も、誘われると断れなくって」


 数ヶ月後。

「優柔不断、うみちゃん嫌い」

 彼女を怒らせる。

 部屋に誘われて、どうしてもあの時の記憶が蘇る。


 そう今だに、おれは見智のことを引きずっている。

 居なくなって、さらにそれは強くなる。



 さて、その本人は……

「良い男って、いないわね」

「今時、底抜けなお人好しなんかいるわけないじゃ無い」

 そう言うと、友人は笑い始める。


「そう? 何の見返りも求めず、助けてくれるだけじゃない」

 そして友人は、怪訝そうな目。


「あんたそれ出来る?」

「出来るわけ、ないわよ……」

「でしょ」

 男と知り合い、話す度に相手の視線、下心が透けて見え隠れする。

 気持ち悪い。


「どこかに、深海みたいな男…… 深海のばか。謝りに来なさいよ…… そしたら……」

 あの時から三年。希有な存在が、時には居るようだ。



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 お読みくださり、ありがとうございます。

 なんだか、時間が取れなくて、更新が遅れています。

 申し訳ありません。ではまた。

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