第3話 弱い心
文化祭が終わり、また通常通り。
だけど、二人の時間、そこに異物が割り込んできた。
彼は、心音と同じクラスらしく、結構人なつっこくて話しやすい。
彼は途中の分岐で、別れて奥へと向かう。
新興の住宅地へと。
人見知りの心音なのに、いつの間にか、彼に心を許している気がする。
それは文化祭の、後片付け。
流石に、心音のクラスでも、片付けはある。
そんな時、ゴミ捨て場へ行って帰り道。
本当にたまたま、生け垣から鳩か何かが飛び出してきた。
「きゃっなに?」
「きゃだって、かわいい。鳥だよ、もう向こうに行った」
逃げようとして、体勢を崩した私を、背中側で支えてくれた彼。
「あっ、あり…… んんっ」
そうガバッと、キスされた。
それも、舌が絡まる濃厚な奴。
なんだろう、頭の奥が痺れるような……
「ふーん。キスが好きなんだ」
そう言って彼は悪びれず、嬉しそうな顔。
「ナニをするのよ突然」
つい叱るけれど、言っているだけの様な、私…… 本気で嫌がっていない…… どうしたんだろ。
「秘密だね。君と俺の」
そう言われてドキッとする。秘密……
「そっ、そう秘密。誰にも言わないで」
そう言い残して、彼をその場にのこし、教室へ帰った。
だけど幾らそんな事をしても、下校時間は同じ。
蒼空の横に、彼はやって来て、自己紹介やら何やら。
私は、さっきのを思い出し、顔が赤くなっているのをひたすら隠す。
その晩何かを埋めるように、蒼空にキスをした。
でも彼はやはり、乗り気では無い感じがする。
「私のことが嫌い?」
「そんなわけ無い」
だけど不安。
つい繰り返し聞いてしまう。
「私のことが嫌い? 私のどこが好き?」
その事が逆に、鬱陶しいのか、彼は不機嫌になっていく。
その寂しさを、 狩人に求めてしまう。
彼は色々なことで、大人だった。
遊ぶ場所、遊び方。
そして、エッチ。
彼は、求めるままに与えてくれる。
私は、彼に体を許してしまった。
当然そうなれば、蒼空も気がつく。
「どういう気だ?」
「どうでも良いじゃない、どうせ私のことなんか」
そう言って、蒼空と喧嘩をする。
その後、しばらくして、蒼空は狩人の噂を拾ってきて教えてくれた。
だけどもう、その時私は、聞く耳など持っていなかった。
始まりはある日、間違いで彼の友達とエッチをして、その事で彼を怒らせた。
―― 私はたいした女ではなく、彼に付き合って貰っているのに。
彼を怒らせてしまった。
どうやってでも、ご機嫌を取らないと…… 捨てられちゃう。
そうその時の私は、おかしかった。
私はだめな女、エッチだけが大好きで、誰とでも寝るような。
そう、彼に言われて、彼の目の前で他の人とエッチをする。
そしてその後、さっきの人より、狩人の方がステキだと説明をする。
そんな事を繰り返していて、私は、妊娠をする。
その事を知ると、狩人は冷たい目で「誰の子どもだろうな」そう言って私を捨てた。
あっさりと……
「おかあさん、どうしよう」
お金が必要。
お母さんに相談をした。
「もう、蒼空君には言ってあったのに、わたし、もうおばあちゃんになるの?」
その言葉にドキッとする。
なぜ蒼空?
「相手は、蒼空じゃない。おかあさん蒼空に何を言ったの?」
そう答えると、お母さんは思いっきり驚く。
「前にね、付き合いたいって言われたから言ったの。付き合うのは賛成、でも、未成年の内はエッチしちゃだめよ。って言っておいたの。あんた、好きとか言って、突っ走り出したら、そんなのどうでもいいとか言い出しそうだから」
そう言った後、お母さんは、眉間に皺を寄せ、ゆっくりと聞いてくる。
「ねえ、教えて頂戴。相手が蒼空じゃないって、どういう事?」
それは、かなり呆れた感じで……
長い沈黙、でも許してくれなくて、私は話し始める。
「えっ、蒼空は全然関係を進めてくれないから、私のこと嫌いだと思って……」
そう言うと、じっと顔を見た後。がっくりと頭を下げる。
大きなため息付きで……
「あんた達は、まだ学生なの、今実際、お母さんが怖かった状態になっているじゃない。学校はきっと退学よ? 相手は? 親は?」
「えー……」
その頃はどうでもいいやと思って、狩人のご機嫌を取るために、幾人かと相手をした。
そう話すと、お母さんは思いっきり驚き、泣きながら殴られた……
狩人は簡単に私を捨てた。
興味を無くしたおもちゃの様に。
私を大事にしてくれていたから、手を出さなかった蒼空、理由を知って、卑怯だと思ったけれど、許してくれないかと、彼に言いに行った。
だけど、当然…… 睨まれただけ。
家には入れてくれなくなっていたから、隣りの…… 蒼空のクラスへ行き、よりを戻してとお願いしたのを、八美乃がたまたま見ていた。彼は捨てたくせに、それがおもしろくなかったみたい。
数日後、女の子が一人、蒼空に襲われたと学校に言い上げた。
彼女は妊娠もしており、処理費用と慰謝料を出せと。
当然濡れ衣。
だけど学校に、彼の味方はおらず、クラスでも虐められ、学校もそれを黙認。
ある日、僕じゃないと手紙を残して、蒼空は飛び降りた。
そう、それは、虚偽で彼をはめた女の子への抵抗。
痴漢えん罪とかと同じで、覆すのはとても無理。
もうそれ以外で、彼には手がなかったのだろう。
DNA検査を、彼女は拒んだ。
ただ、彼にやられたと言い続けたから。
だけど、彼が死んで、少し物事は動き始める。
内々で処理しようとしていた学校。だけど彼が飛んで、警察が入ることに。
そして、彼の親は弁護士さんを通して、検査を請求。
そこまで来て、彼女は我慢できなくなったのだろう、すべてを暴露した。
八美乃に言われたと……
蒼空をはめて、金を取れと命令されたと……
その真実を知って、学校と生徒達は動き出すのではなく、口を噤んだ。
無実の人間を、自ら追い込み、死に追いやったから……
それを皆、自分で分かっているから、皆だってやっていた僕だけじゃ無いと言い訳をして、口を噤み、目をそらした。
だけど今の世の中、そんな事では隠せる訳もない、話は広がり報道のカメラが連日やって来る。
「あーあ、また転校かよ、うぜえ」
そう言って、狩人は姿を消した。
そして私は、許してくれることはないと、分かっていたけれど、蒼空に謝りながら、彼の後を追った。
飛び込んだその日。
つむっていた目を開くと、見えた空。昨日降った雨のせいか、春にしては、どこまでも澄み切っていた。
「そら…… ごめんなさい。今行くから……」
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お読みくださり、ありがとうございます。
うーん。なんでしょう。
…………
それでは、また。
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