第2話 私は……
昼休みのそれを見て、夕方は蒼空と会わずに帰った。
だけど、早い時間だと、また声がかかる。
「やあ、奇遇…… あれっ、今日は元気がないな」
そうコイツ、人の機微に敏感。
「まるで、何か…… 裏切られた感じだね」
そう聞かれて、私はドキリとした。
「どうして…… どうしてそう思うの?」
そう言うと、彼は、じっと見つめてくる。
「君のことを、いつも見ているからかな。本気なんだよ俺は」
そう言われて、またドキリとする。
蒼空とはずっと一緒だったから、こんな事を言われたことがない。
そう真摯な言葉、それ以降、ちょっと相談に乗って貰ったりして、興味の無い奴から、知り合い……
そして友人へと、関係がランクアップして行く。
「おう、どうした。珍しく手をかけているじゃ無いか」
彼女を見送って、すぐに声がかかる。
「うん? ああ、おまえか。彼女は俺に興味が無くてね」
こいつも、容姿は悪くない。
一人よりも二人の方が、確率が高かったのでナンパ仲間になった。
「興味があった奴が、何人か居るんだろ。回せよ」
ニヤニヤとしながら、いつもの様に聞いてくる。
「いいけれど失敗すんなよ、転校も結構めんどうなんだぜ」
そう、前の学校はこいつのせいで、女に騒がれて退学になりかかった。
「良いじゃないか、心機一転。新しい狩り場で。ナンパなんか効率悪いからなぁ」
こいつは蛇谷、悪友だ。
俺以上に性格が悪い。
仕方なしに電話をする。
「あっ、もしもし、狩人だけど、この前言っていた店って、この時間でも空いているかな? 友達が興味あるみたいで。うん、そうそう。出られる? ありがとう。じゃあ駅前で。うん、よろしくね」
声は明るく、だけど人に言わせると、ものすごい冷たい顔で電話をしてるとか……
電話中の自分の顔なんか、見られないから知らん。
「なんだよ、一人かよ」
「まあ、大丈夫だろ」
そうして彼らは、暗闇へと消えていった。
「今日は、早く帰ったんだな」
「うん。どうせ今日も、文化祭の準備だったでしょ」
「まあ準備って言うか、劇の練習だよ。人に見られて恥ずかしいのなんの」
そう言って彼は、思い出したのか、少し顔が赤くなる。
「劇の練習? 恥ずかしいって、本番は体育館でやるんでしょ」
「そうなんだけどさ、本番はそれで終わりだけど、練習は繰り返しだし」
「ふーん。どんなのやるの?」
ぺらっと台本が見せられる。
「『鯖子、そんな事を言って、彼氏はいいのか? 会えないとね、やっぱり淋しいのよ。だからお願い。して…… 鯖子……』て何これ? 先生に見せたんでしょう」
「見せた、このくらいならいいかって」
「ふーん」
私は、蒼空の横に、ねころがる。
同じ様なシチュエーションをつい想像をする。
―― 心音、そんな事を言って、彼氏はいいのか?……
ナイナイ。
なんであいつの顔が出るのよ。
横に蒼空が居るのに……
「ねえ、蒼空」
「うん?」
「私のこと好き?」
「うん、妹みたいで。かわいいよ」
「妹? あんたが弟でしょ。毎朝起きないし。もう」
気がつけば横に寝転がり、台本を見ていた。
私は彼の上に乗り、脇腹をくすぐる。
「やめろ。くすぐるな。こら」
どさくさに紛れて、キスしようとすると、顔を背けられる。
その瞬間に、私の胸に広がる悲しさ……
「どうして?」
「うんそりゃ…… 何でもない」
おばさんから言われた、『付き合うのは賛成、でも、未成年の内はエッチしちゃだめよ。』その言葉が頭の中で繰り返される。
だから、キスなんかすると、歯止めが利かなくなる。
だけどそんなこと言えないし、心音が好きでいてくれるならそれで良い。
だが、言葉として言えなかったばかりに、その心は通じず、心音の中では、モヤモヤが募っていく。
その頃。
さっきお店の紹介と言われてやって来た女の子は、
最初の休み時間から、彼に取り付いて、アプリのIDを貰っていた。
身長体重、中くらい。
顔も目だつ感じではない。
結構真面目な彼女だが、彼の何かが気に入ったようだ。
そうして舞い上がった彼女は、恥ずかしながら、ミニスカートで気合いを入れてやって来た。
「私服ならそんな感じなんだ。かわいいね」
などと言いながら、洋服屋へ行き、蛇谷の服などもあわせながら楽しみ、夕飯を買い込んで、新興住宅地の中にできた、八美乃が住むアパートへやって来た。
「へー新築なんだ」
住宅地の、家が建ち並ぶ所から、五十メートルくらいぽつんと離れた建物。
今風のアパートだが、入居者は少なく、この時間でも灯りはまばら。
「そう。綺麗だけど、此処、周りにまだ何もないんだよ」
などと言いながら、部屋へ入った。
蛇谷が階段を上がるとき、覗き込んでいたことに夜久野は気がつかなかった。
初めての、男子の部屋。
彼女は、それだけで、かなりドキドキしていた。
上がり込んで、バーガーとかも食べて、ぼちぼち帰ろうかと思ったら、抱きしめられる。
「ちょっと待って」
彼女は、舞い上がる……
再び、ラグの上に座るが、ゆっくりと押し倒されて、寝転がる体勢になる。
すぐ目の前に、彼の顔。
だけど、目の端にいて、ニヤニヤとみている男は気になる……
「いいけど、彼は?」
そう聞くと、彼は片目でチロッとだけ見て、答える。
「うん? さっき言っただろ蛇谷」
首筋に感じる吐息。
くすぐったい。
「いや、それは聞いたけれど。んんっ」
腰に手が回り、引き寄せられる。
「興味あるんだろ」
耳の側で喋られると、ゾクゾクが止まらない。
「あるけど、んっ。人が居るのに……」
「ほら、大丈夫」
そう言って、指を見せられる。
濡れた指。
「だって触られたら、そうなるし。ねえ。んんっ」
いい加減やかましいから、キスをする。
俺は、体勢を変えて、彼女と両手の指を絡めて、動かないように抑えながら、キス担当。
その間に、蛇谷が下半身をほぐしていく。
耳から、うなじ……
赤くなって、彼女は興奮中。
少し下がって胸へ。
おっ、突っ込んだな。
「ねっ、ねえおかしくない?」
「おかしくないよ」
仕方が無い、またキス。
「んあっ。ねえっ」
「ああ、もう」
代わって、俺が入る。
「嫌よ、もうやめてよ。信じられない。二人でなんて」
「んー。何事も経験だよ。今までしたことが無いんだろ、これでもまあ普通だよ」
「そんな事」
「一人じゃできない、こんな事もできるんだぜ」
「ひっ、そっち違う。やだ、痛」
ぐったりしている彼女の目の前に、スマホが出てくる。
「はい笑って、ずっと撮っていたからね」
その日、彼女が解放されたのは三時間後だったとか。
送って行き、家もしっかり確認をされた。
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